第11話 イギリス艦隊急襲①
1941年11月20日
1
「1日目からとんでもない事になったな・・・」
TF3司令長官フランク・J・フレッチャー少将は、艦底部から盛んに黒煙を噴き出している「サラトガ」、横転し赤い腹を覗かせている「レンジャー」の2空母を見つめながら苦々しそうに呟いた。
「サラトガ」の被害状況は既に判明している。
「サラトガ」は左舷前部に1本、左舷後部に1本、合計2本の魚雷を撃ち込まれており、機械室と缶室3基を破壊した他、艦内に大量に侵入した海水によって左舷側に7度傾斜した。
航空機の発着艦も不可能であり、復旧作業が上手くいったとしても出し得る速力は19ノット止まりとの事であった。
他にも軽巡「アトランタ」、駆逐艦2隻が損傷しており、駆逐艦1隻が沈没するかどうかの瀬戸際であった。
「
「司令官。『ヨークタウン』のハルゼー司令官よりお電話です」
首席参謀のフランク・ルーク中佐が電話を取り、フレッチャーがそれを受け取った。
「よお。空襲を受けたと聞いたが、損害はどうなっている?」
フレッチャーが受話器に耳を当てると、ハルゼーのぶっきらぼうな言葉遣いが聞こえてきた。
「来襲した敵機は100機弱といったところで、機種は全てボーファイターでした。『レンジャー』が撃沈、『サラトガ』が撃破され、作戦行動が可能な艦は『レキシントン』『ワスプ』の2空母となりました」
「よし。TF2、TF3共に今日の航空戦は終了。明日の早朝からラバウルの残存飛行場に対する航空攻撃を再開するぞ」
「致し方がありませんな」
ハルゼーの言葉にフレッチャーは頷いた。もし「レンジャー」「サラトガ」が健在ならば夜間攻撃を仕掛けるといった選択肢もあったが、2空母を戦列から失いTF3が混乱している事を考えると、戦いは明日以降に持ち越すのが得策だとフレッチャーも考えていたのだ。
「そういえばだが、イギリス太平洋艦隊の主力はどこに行ったんだろうな?」
ハルゼーが思い出したように聞いてきた。TF2及びTF3は今日の夜明け前から多数のドーントレスを索敵に出していたが、不思議なことにイギリス太平洋艦隊所属の艦艇を1隻たりとも見つけ出す事ができなかったのだ。
「それは私も気になっていました。事前の情報によるとイギリス太平洋艦隊の主力は戦艦6隻だったはずです。この規模の大艦隊を我が索敵網から隠し通す事など不可能なはずですが・・・」
フレッチャーは如何にも不思議だと言わんばかりに首を傾げた。
だがこの直後、「レキシントン」の艦内アラームがけたたましい音で鳴り響き、フレッチャーはその「答え」を身をもって知ることになったのだった。
2
「待ちに待った獲物は目の前だ! 全軍突撃せよ!」
イギリス太平洋艦隊S部隊旗艦「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦橋で司令長官ジェームズ・ソマーヴィル大将は仁王立ちになり、前方を睨み付け叫んだ。
普通、イギリス太平洋艦隊の主力である戦艦6隻を中心とした部隊はラバウルに留まり、肉迫してくるであろう米海軍の戦艦を待ち受けるのが戦術上のセオリーだろう。
だが、ソマーヴィルは今回の作戦では、そのセオリーを採用する気はなかった。
敵は水上砲戦部隊を前面に立て、その後ろに空母機動部隊が控えていると予想し、敵機動部隊を水上砲戦で撃滅する機会をうかがっていたのだ。
ラバウル航空戦が始まる前に、ラバウル北1000海里の海域目指して進撃し、途中から転舵し、敵機動部隊の索敵網をうまく回避することに成功したS部隊は、この時点で「スペード(イギリス航空軍が定めたTF3の符丁)」を射程距離内に捕らえていた。
既にS部隊は水上砲戦用の陣形を形成している。
軽巡「サウサンプトン」「グラスゴー」「ニューカッスル」「シェフィールド」からなるS・3部隊が先陣を切り、中央部に戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」、巡洋戦艦「フッド」を配し、両翼を4隊24隻の駆逐艦で固め、重巡「ヨーク」「エグゼター」が最後尾である。
S部隊の後方からもT部隊――ネルソン級戦艦「ネルソン」「ロドネー」、クイーン・エリザベス級戦艦「ウォースパイト」「バーラム」を中心とした部隊が進軍しており、この部隊ももう少しで戦闘海域に到着する予定となっていた。
戦艦、巡洋艦から次々に水上機が発進し、「スペード」の輪形陣に向かっていく。
「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦橋から見ても敵艦隊は混乱しているようであったが、それでも10隻近くの敵艦が空母をS部隊から死守すべく突っ込んできた。
「『プリンス・オブ・ウェールズ』目標敵巡洋艦1番艦。『フッド』目標敵巡洋艦2番艦、S・3部隊目標敵巡洋艦3、4番艦!」
ソマーヴィルは素早く射撃目標を分けた。敵空母を逃さないためにもここは時間との勝負であった。
「取り舵10度!」
「プリンス・オブ・ウェールズ」艦長ジョン・リーチ大佐が航海室に転舵を命じ、射撃諸元を定めた「プリンス・オブ・ウェールズ」の1番砲3門が第1射を放ったのだった。
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