第7話 最初の激突③

1941年11月20日



 第1次迎撃隊はラバウルに存在している5カ所の飛行場の内の1つである「D飛行場」に半数以上が降りてきた。


「激戦だったようだな。スピットファイアの最新型であるVb型はF4F『ワイルドキャット』に対して随分と優位を取れるとの事だったが・・・」


 D飛行場の司令を任されているテッド・ソーン大佐は帰還してくるスピットファイアを見つめながら呻き声を発した。


 既にD飛行場の隣に位置している「E飛行場」は米軍艦載機の攻撃によって当分の間使用不能となっているとのことであり、必然的にD飛行場は多数の帰還機によって混雑しつつあった。


「司令。第1次迎撃隊の損耗と、E飛行場の被害状況が判明しました」


 約10分後、紙束を抱えたジョージ・タービン少佐が司令部に入室してきた。タービンは参謀の1人であり、ソーンが第1次迎撃隊の損耗と、E飛行場の被害状況を調べてくるように命じていた。


「第1迎撃隊出撃機数8個中隊96機、うちD飛行場に帰還したのは37機、B飛行場は11機、C飛行場は25機です。E飛行場は滑走路の中心部が徹底的に破壊された上に、掩体壕、燃料タンク、司令部などの施設がいずれも半壊以上の損害を受けたとの事です」


「1回の空襲で1つの飛行場が使用不能になったか・・・。朝から多数の索敵機を発進させていたはずだったが、敵状は判明しているのか?」


 ソーンはタービンに質問を投げかけ、それに答えたのはタービンではなく航空参謀のロアルド・ダール少佐だった。


「発見されたのは戦艦中心の部隊が1つと、空母機動部隊を中心とした部隊が1つずつです。前者に『エース』、後者に『スペード』の符丁が与えられており、『エース』の主力は戦艦6隻、『スペード』の主力は空母4隻であり、空母部隊はあと最低1群が存在していると予想されます」


 ダールがそう言った直後、D飛行場全体に空襲警報が鳴り響いた。


 第1次空襲では標的にならなかったD飛行場であったが、E飛行場が使用不能になった今、敵機がD飛行場に向かって殺到してくることは明白であった。


 こっちの第2次迎撃隊は既に発進している。


 第2次迎撃隊の主力を務めるのはスピットファイアではなく、イギリスのホーカー・エアクラフト社の「ハリケーン」だ。


 ハリケーンは近年のスピットファイアの度重なる性能向上によって、主力戦闘機の地位を譲りつつあったが、それでも時速533キロの最高速力と20ミリ機関砲4門の火力はF4Fやドーントレスを相手取るには十分であった。


「頑張れよ」


 今しも迎撃を開始しようとするハリケーンに対し、ソーンは言葉を投げかけたのだった。



「すりつぶしてやるよ。ヤンキーども」


 第61飛行隊sqnのエースパイロット、ゴードン・コーウェイ少尉はラバウルに大挙侵入しつつある敵艦載機の梯団8隊を見つめながら、敵愾心を剥き出しにした。


 敵機の総機数は約140機といった所であり、それに対する迎撃機の機数は第61飛行隊のハリケーンが59機、第62飛行隊のハリケーンが47機である。


 最初の動き出しは62sqnの方が早かった。40機以上のハリケーンが一斉に散開し、大英帝国の一角をなすラバウルを犯さんとする不埒者達に突撃を開始した。


「こっちもいくぞ! 61sqn、ゴー・アヘッド!!!」


 レシーバーから飛行長殿の気合いの入った声が響き、コーウェイはエンジン・スロットルを開いた。高度上の優位はこちら側が占めており、それを察した敵戦闘機が上昇を開始していたが、コーウェイの目にはいかにも鈍重に見えた。


 コーウェイは護衛のF4Fを一切相手にする気は無かった。水平旋回をかけ、ドーントレスの編隊の後ろ上方を占位した。


 操縦桿を前に倒し、小さな点の集合にしか見えなかった敵機が見る見る内に急拡大する。


 複数のドーントレスが機体を左右に振り始め、後部から機銃弾を放つ。


 赤い曳痕がコーウェイ機に迫るが、機体を振って躱し、頃合い良しと見たコーウェイは両翼の20ミリ機銃を発射した。


 20ミリ弾はドーントレスのコックピット後部を捉えた――そうコーウェイが直感しと直後、ドーントレスを援護すべくやってきたF4Fの4機編隊がコーウェイの目に入った。


「おらぁ!!!」


 このタイミングでコーウェイはエンジン・スロットルをフルに開き、相対速度1000キロ以上でF4Fと交錯した。


 コーウェイが放った機銃弾は当たらず、4機のF4Fから放たれた12.7ミリ弾が数発コーウェイ機に当たり、コックピット内で不気味な音を発したが、コーウェイはそれに構うことなく次のドーントレスを肉迫にした。


 ドーントレスの前部には12.7ミリ固定機銃が装備されているはずであったが、それが火を吹く前にコーウェイが放った射弾は新たなドーントレスを捉えた。


 灼熱の棍棒さながらの曳痕がドーントレスの胴体を切り刻み、ドーントレスはエンジン部から盛大に黒煙を噴き出しながら墜落していった。


 コーウェイが2機撃墜の戦果を挙げた時点で早くも空中戦の大勢は決しようとしていた。


 100機近いハリケーンの内、約半数がF4Fの動きを拘束し、残りの半数がドーントレスに思い思いの方向から攻撃を仕掛けている。


 ドーントレスは1機、また1機と火を噴き出し、編隊から落伍してゆく。


 更にスピットファイアの増援が到着しつつあり、米機動部隊から放たれた第2次攻撃隊がこの迎撃を突破することは結局出来なかったのだった。




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