第6話 最初の激突②
1941年11月20日
「エンタープライズ」爆撃隊は先程から数機のスピットファイアに取り付かれてしまっており、その数を徐々に減らしつつあった。
スピットファイアは休みは与えんと言わんばかりに五月雨式に突っ込んでくる。
「敵機、左後ろ上方!」
「全機、機体を振ってかわせ!」
隊長機が先程撃墜されたことによって、「エンタープライズ」爆撃隊の指揮を引き継ぐ事になったフランク・ルーク中尉はレシーバーに向かって叫んだ。
フランクの声に、リズミカルな連射音が重なる。
フランク機の機銃員を務めているロバート・ニール曹長が機体後部に取り付けられている7.7ミリ旋回機銃から射弾を放っているのだろう。
発砲しているのはフランク機だけではない。「エンタープライズ」爆撃隊の残存機も作戦を成功させるため、そして自分の生還のためにスピットファイアに向かって射弾を撃ち込んでいる。
おびただしい曳痕がスピットファイアに殺到し、フランクは即座に撃墜を確信したが、スピットファイアは必死になっているフランク達を嘲笑うかのように直前で機体を滑らし、すれ違い様に1機のドーントレスを容易く撃墜していった。
「『ホーネット』爆撃隊、1機被弾!」
「『ヨークタウン』爆撃隊、1機被弾!」
隊の中の誰かが他隊の損害状況を矢継ぎ早に伝えてくる。迎撃に出てきたスピットファイアはざっと見た感じでも80機を優に超えており、F4Fが防ぐことができなかったスピットファイアが次々にドーントレスに狙いを定めてきているのだろう。
新たな敵機が正面、右横、左後ろの3方向から迫ってくる。
フランクは機銃の発射ボタンを押し、ドーントレスの機首から2条の火箭が噴き伸びた。
この火力は最新型で20ミリ機銃2丁、7.7ミリ機銃4丁を装備しているスピットファイアに対して圧倒的に分が悪い事は分かっていたが、スピットファイアの照準を僅かにでもずらしてくれれば十分だとフランクは考えていた。
「セシル機被弾! フレッド機落伍します!」
「エンタープライズ」の飛行甲板から勇躍出撃してきたドーントレスが1機、2機と失われてゆき、隊の残存率は6割を切ろうとしていた。
だが、空中戦が進んでいる内に、第1次攻撃隊は攻撃目標「アップル」上空に達しようとしており、「ヨークタウン」爆撃隊は投弾を開始すべく降下を開始していた。
「『エレファント・リーダー』より全機へ。目標『アップル』を視認。オール・アタック!」
フランクはレシーバー越しにそう宣言し、操縦桿を前に倒した。
フランク機がゆっくりと降下を開始し、後続機もそれに続く。
自らの基地を守るべくスピットファイアも必死しなっているのだろう。攻撃が激しくなり、更に1機のドーントレスが撃墜された。
「スピットファイア来てます!」
後ろに座っている機銃員が叫び、フランクは目を見開いた。
フランクは直感的に「撃墜」を意識したが、迫り来るスピットファイアの胴体に多数の火箭が吸い込まれ、そのスピットファイアは胴体をズタズタにされて墜落していった。
「よし!」
フランクは歓喜の声を爆発させた。大多数のF4Fがスピットファイアとの戦いに拘束されていたはずであったが、スピットファイアを振り切ってドーントレスの護衛に回ってきてくれたのだろう。
機数は3機と決して多くはなかったが、投弾まであと100秒を切っているこの状況下ではこれで十分であった。
飛行場から次々に黒煙が噴き上がり始めた。「ヨークタウン」爆撃隊が投弾し、見事に目標に命中し続けているのだろう。
「10000フィート! 9000フィート! 8000フィート!」
後ろから高度計を読む声が聞こえ、「3000フィート!」と聞こえた瞬間、フランクは爆弾の投下レバーを引いた。
「エンタープライズ」からはるばる運んできた1000ポンド爆弾が瞬時に切り離され、機体が一気に軽くなった。
フランクは強烈な重力に引っ張られそうになりながらも操縦桿を目一杯引きつけ、降下していたドーントレスが上昇を開始した。
そして、フランク機が投下した爆弾は見事に滑走路のど真ん中、しかも2本の滑走路が交差している場所に命中した。
コンクリートの舗装が粉々になり天へと吹き飛ばされ、その中に爆炎が躍る。
早いタイミングからスピットファイアに取り付かれ、多数の被撃墜機を出した「エンタープライズ」爆撃隊であったが、残存機が投下した爆弾はほぼ全てが有効弾になった。
燃料タンクに命中した爆弾はタンク側面を吹き飛ばし、航空機数百機分の燃料を台無しにし、掩体壕に命中した爆弾は整備不良で出撃が叶わなかったスピットファイアを頭上から押しつぶした。
全てのドーントレスが投弾を終え、第1次攻撃隊が撤収に掛かったとき、「アップル」の飛行場は当面使用不能になるほどの打撃を受けており、迎撃戦を終えたスピットファイアは別の基地に向けて飛び去っていったのだった。
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霊凰より
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