第5話 最初の激突①
1941年11月20日
「ヨークタウン」「エンタープライズ」「ホーネット」の3空母から発進した第1次攻撃隊は、攻撃目標に定められているラバウルの航空基地の内1カ所――符丁「アップル」を視界に収めていた。
「『ソード・リーダー』より全機へ。目標まで35海里。そろそろ迎撃戦闘機が出てくるはずだ。警戒を厳かにせよ」
「ホーネット」戦闘機隊の指揮官ロバート・ドウ少佐の声が響き、「ホーネット」戦闘機隊第3小隊4番機に配属されているジョン・L・スミス上等空兵は緊張のボルテージが一気に上がってきた。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・」
スミスは呪詛のように呟き、スミスが緊張と格闘している間にも「アップル」との距離は徐々に縮まってくる。
梯団6隊の内、先頭を行く「ヨークタウン」戦闘機隊のF4Fが1機、また1機と上昇を開始し、「
スミスが空を見渡すと、遙か上空から振り下ろすようにして3群の機影が接近しつつあった。
敵の迎撃機が優位な場所から第1撃を仕掛けてきた事を考慮すると、この第1次攻撃隊はイギリス軍のレーダーによって早い段階から検知されていたのだろう。
「ヨークタウン」戦闘機隊に続き、「エンタープライズ」戦闘機隊も動きだしていたが、こっちは明らかに初動が遅れてしまっており、凄まじい勢いで突っ込んでくる敵1番機の両翼に発射炎が閃いた。
赤く太い火箭がF4Fに吸い込まれた――スミスがそう認識した直後、そのF4Fは胴体から盛大に黒煙を噴き出し、見る見るうちに高度を落としていった。
続いて2機目のF4Fが燃料タンクに被弾する。そのF4Fは空中に燃料をしぶかせ、油送管にまで火が回ったところでスミスの視界から消えた。
F4Fは列強の数ある戦闘機の中で最高レベルの防御力を有している機体ではあるが、燃料タンクに被弾しては流石にひとたまりも無かったであろう。
ドウ指揮官のF4Fがバンクし、第3小隊の1番機が上昇を開始する。
スミスは操縦桿を手前に引き、彼我の距離が縮まってくるにつれ敵機の姿が明らかになる。
英国企業のスーパーマリン社で製造されている「スピットファイア」で間違いないだろう。「スピットファイア」は直訳すると「口から炎を飛ばす人」となるが、実際にスピットファイアと対峙してみると、スミスにはそれ以上の凶暴さがあるように感じられた。
20機以上のスピットファイアが「ホーネット」戦闘機隊と急速に距離を縮めつつある。この後方にはドーントレスがいるため、何としても突破を許すわけにはいかなかった。
ドウ指揮官が直率する第1小隊4機のF4Fが機銃弾を放ちながらスピットファイアの編隊と交錯し、3機のスピットファイアが立て続けに火を噴いた。
第1小隊には「ホーネット」戦闘機隊の中でも腕利きが揃っており、頼れるベテラン達が早速戦果を挙げたのだ。
第1小隊の勇姿に触発された他の小隊も順次戦闘を開始し、スミスも第3小隊3番機のF4Fの動きに懸命に追従し、無意識に機銃の発射ボタンを押していた。
F4Fの両翼から機銃弾が発射され、スミスはスピットファイアに命中してくれることを期待したが、どうやら空振りに終わってしまったようであり、逆に第3小隊の2番機がコックピットに被弾したのか、独楽のように回転しながら墜落していった。
スピットファイアに突破されてしまったが、1番機がそれを追いかける様子はなく、3機に減った第3小隊は新たなスピットファイアの4機編隊と激突した。
スミス機から放たれた射弾はまたも空振りに終わったが、1機のスピットファイアが胴体後部を吹き飛ばされていた。1番機か3番機の放った射弾がスピットファイアに命中し、見事に2番機の仇を討つことに成功したのだ。
この後、2回ほど編隊機動を行った所で、第3小隊はバラバラになってしまい、スミスは単独で空戦に挑むこととなった。
スミスの目にスピットファイアの2機編隊が映った。相手もスミス機を認めたようであり、速力を全く緩めることなく突進してくる。
スミスは機体を左に傾け、スピットファイア1番機から放たれた火箭を躱し、お返しと言わんばかりに2番機に照準を合わせ、機銃弾を放った。
スミス機から放たれた射弾は数発が命中したようだが、彼我の戦闘機が高速で飛び回っているこの状況下で撃墜できたかどうかを確認する術はなかった。
「手が空いているものは、ドーントレスを援護しろ! ドーントレスがやられている!」
ドウ指揮官を声が三度レシーバーに響き、スミスは機首をドーントレスの編隊が飛行している方向へと向けた。
ドーントレスの編隊3隊の内、「エンタープライズ」の爆撃隊の周囲に複数のスピットファイアが取り付いているようだ。緊密な編隊を組んでいるドーントレスが1機、また1機と墜落してゆく。
スピットファイアはドーントレスを撃墜することに夢中になっているようであり、スミス機の存在に気づいていなかった。
それを利用したスミスはスピットファイアが照準器の中で目一杯巨大化するまで接近し、機銃弾を発射した。
スピットファイアに細長い火箭が突き刺さり、左の主翼の付け根あたりに爆発光が閃き、おびただしい破片が蒼空に飛び散った。
スミスが実践で始めて「1機撃墜」の戦果を挙げた瞬間だった。
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