第1章 開戦劈頭の激突
第2話 米艦隊集結
1941年11月13日
合衆国が英国及び日本に宣戦布告を行ったのは、1941年11月12日のことであり、その翌日にはマーシャル諸島のメジュロ環礁に多数の米艦艇が集結しつつあった。
環礁の北東部には4隻の戦艦が繋留されている。
ペンシルベニア級、テネシー級、ニューメキシコ級といった条約型戦艦の完成形であるコロラド級戦艦「コロラド」「メリーランド」「ワシントン」「ウェストバージニア」だ。
コロラド級戦艦は第1次世界大戦後に行われたワシントン海軍軍縮条約によって3番艦「ワシントン」が完成前に廃棄される予定だったが、同条約を批准していた他の国が相次いで条約を破棄したことによって「ワシントン」も他の3隻とこうして舳先を並べることになったのだった。
全長190.20メートル、全幅29.7メートル、基準排水量32600トンの艦体に連装4基8門の16インチ砲を装備しており、特徴的な篭マストは艦の存在をこれでもかと言わんばかりに強調していた。
4隻の戦艦から少し離れた所には、1941年11月現在、合衆国海軍が保有する7隻の空母が一堂に会している。
まず、レキシントン級正規空母の「レキシントン」「サラトガ」。
レキシントン級巡洋戦艦として設計・建造が始まり、後に空母への改装が決まったこの2隻の空母は、空母としては破格の基準排水量4万トン越えであり、今回の作戦では90機のF4F、ドーントレス、アベンジャーを搭載して参加することとなっている。
次にヨークタウン級正規空母の「ヨークタウン」「エンタープライズ」「ホーネット」。
こちらはレキシントン級とは違い、設計段階から空母として設計されており、基準排水量はレキシントン級の半分強しかないのにも関わらず、98機の搭載機を誇る。
残りは中型空母の「ワスプ」「レンジャー」だ。前者は70機、後者は56機の艦載機を搭載している。
空母を護衛する巡洋艦は新鋭のアトランタ級軽巡、ブルックリン級軽巡を始めとして20隻が集結しており、駆逐艦の数に至っては80隻を優に超えている。
その内の1隻――ニューオーリンズ級重巡「サンフランシスコ」の艦橋の窓から新たに環礁に入港してくる一群の船団が見えてきた。
「サンフランシスコ」の艦長は手空き人員に帽振れを命じ、「レキシントン」や「ホーネット」といった艦艇でも飛行甲板上に多数の乗員が集まってきていた。
ベンソン級駆逐艦に先導され、2隻の戦艦がゆっくりと近づいてくる。
「あれが噂の新鋭戦艦か・・・」
艦橋内にいた誰かが呟き、アナポリス卒業以来砲術一筋の道を歩み、普段の情報収集を怠っていない「サンフランシスコ」の艦長はその2隻の戦艦の艦名を知っていた。
合衆国海軍の次世代の主力として設計・建造された新鋭戦艦の1、2番艦――ノースカロライナ級戦艦「ノースカロライナ」「ケンタッキー」が、たった今、メジュロ環礁に到着したのだった。
ノースカロライナ級戦艦は、全長222.10メートル、全幅32メートル、基準排水量3万5千トン。その艦影はコロラド級戦艦のそれを上回っており、新鋭戦艦の代名詞ともなっている塔状のほっそりとした艦橋は天を貫かんばかりの迫力を醸し出していた。
「これでラバウルの英軍を叩きのめすための艦隊が全て揃ったな」
太平洋艦隊司令長官という重責を担っているにも関わらず、自らも「ウェストバージニア」に将旗を掲げ、メジュロ環礁に進出していたハズバンド・E・キンメル大将は満足そうに呟いた。
「キンメル司令長官。ラバウル近海で偵察行動を行っている潜水艦の内、2隻から敵情を報せる報告が上がってきました」
「・・・作戦室に戻ろうか」
太平洋艦隊参謀長ウィリアム・スミス少将がキンメルの意識の2隻の新鋭戦艦から「ウェストバージニア」の作戦室に引き戻した。
「ラバウルには少なくとも5カ所の大型飛行場が存在し、基地航空隊に配備されていた航空機の機数は当初200機前後だったが、ここ1、2ヶ月の間に数百機が増強された」
「ラバウルには戦艦5隻乃至6隻を中心といた有力な艦隊が集結している」
潜水艦からもたらされた情報は以上の2つであり、それを聞いた太平洋艦隊主席参謀チャールズ・マックモリス大佐は首を傾げた。
「情報が少なすぎますな。ラバウル近海には20隻以上の潜水艦が展開していたはずです。他の潜水艦からの報告はないのですか?」
「いや、潜水艦部隊にはラバウル近海からの撤収を命じている。英国に宣戦布告をしてまだ1日程度しか経過していないが、既に10隻以上の潜水艦が音信不通となっている」
「10隻――!?」
初耳のスミスの報告にキンメルは目を見開き、マックモリスは思わず呻き声を出した。
「英海軍には対潜機能が極めて優れた軽巡か駆逐艦が存在しているのかもしれませんが、これから発動されるラバウル攻略作戦――作戦名『
7隻の空母を運用する第2任務部隊、第3任務部隊の統一指揮を執るウィリアム・ハルゼー少将が発言した。
(第3話に続く)
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