太平洋の覇者 日英同盟VS米国
霊凰
第1話 アメリカの選択
1941年9月
「太平洋の覇権を握るための第1歩として英国、そして日本を攪乱しようとしたが、どれも不首尾で終わったようだな」
国務省長官コーデル・ハルからの報告を受けたアメリカ合衆国大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトはそう呟き、思案顔になった。
ホワイトハウスの大統領執務室にはルーズベルトとハル以外にも、副大統領のヘンリー・A・ウォレス、陸軍長官ヘンリー・L・スティムソン、海軍長官ウィリアム・フランクリン・ノックスなど、合衆国を代表する蒼々たる人物が集結していた。
「オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、南アフリカといった英国植民地の中で、植民地政策に不満を持つ反英国勢力に金銭・武器支援を行い、英連邦から離脱させるように働きましたが、植民地に対するかの国の執念を我々は少々甘く見ていたようです」
「英国はオーストラリアやカナダには数個師団規模の陸軍兵力を、ニュージーランドや南アフリカにはキング・ジョージ5世級戦艦やネルソン級戦艦といった有力戦艦を派遣して反英国勢力を牽制、ときには撃滅しましたからな」
ハルが申し訳なさそうな様子で話し、その理由をノックスが説明した。
ノックスは発言を続けた。
「ソロモン諸島に展開している我が航空部隊がラバウルに展開している英軍に対し、今年の初めからあの手この手で挑発活動を試みましたが、これも現地の英軍が忍耐強さを発揮し、1発の銃声も響くことがありませんでした」
「英国という国は反政府勢力を撃滅する苛烈さと、我が軍の挑発に耐える忍耐力を兼ね備えているとい事か」
ルーズベルトが敵ながら天晴れだと言わんばかりに大統領執務室の天井を見上げた。
「忍耐強さを発揮したのは英国だけではありませんぞ。日本も我が国の挑発には乗らず、苦しみながらも経済制裁に耐え抜いていますぞ」
警戒すべき相手は英国だけではない、その事は忘れてはならない――そう言わんばかりにこれまで沈黙を保っていたスティムソンが口を開いた。
英国に対する揺さぶりと並行して、同じく太平洋の覇権を争っている日本にも合衆国は揺さぶりを仕掛けていた。
国際政治の場では日本の属国と化した満州国の門戸開放や、太平洋の軍事的緊張を緩和するといってマリアナ諸島の非武装化を日本に対して迫った。
その一方、裏ではオランダや中国と結託して「ACD包囲網」を仕掛け(英国は日本に対する経済制裁を拒否)、特殊工作機械や各種天然資源の輸出規制を行ったが、日本が合衆国に戦争を仕掛けてくることはなかった。
それどころか、独ソ開戦を理由として日本はドイツ・イタリアとの三国同盟を破棄するという賢明な選択をしており、それも相まって日本に対するスティムソンの警戒度は跳ね上がっていた。
「大統領には英国、そして日本との戦端を開くといったお考えがおありでしょうか?」
ハルが確認を求め、ルーズベルトは言うまでも無いと言わんばかりに即座に頷いた。
「太平洋の覇権を握るために英国・日本は打倒すべき相手だ。これらの国と中途半端な妥協をするつもりはない。ユーラシア大陸だけではなく、太平洋にも大幅に勢力を膨張させているこの両国をこれ以上野放しにすると、将来世代にツケを回すことになるからな」
「そうなってくると、英国と日本が植民地を持っていることがかえって良い方向に作用しますな。我が合衆国は2つの帝国に抑圧されている植民地を解放する『解放者』の立場に立つことができます。参戦理由があるのと、ないのとでは雲泥の差で、合衆国軍の士気にも関わってきま・・・」
「少々お待ちを」
ウォレスの発言の終わりを待つことなくスティムソンは割り入った。
「英国、日本に宣戦布告をした場合、両国は2度目の日英同盟を結び、合衆国に対抗してくることが危惧されます。いくら合衆国の力が圧倒的だからといって、2国を同時に相手取った場合、1カ国を相手取った場合と比較して犠牲が増える事は避けられませぬぞ。ここはまず英国と日本の両国を争わせ、両国の国力を大きく削ぎ落とす事から始めるべきです」
「それは無理な話だよ、ミスター・スティムソン。英国も日本も我が国に最大級の警戒心を抱いている現在、わざわざ他の国と争う愚行は犯さないはずだ」
ルーズベルトがスティムソンを諭した。
「君の懸念は陸軍長官としては最もだが、合衆国の偉大なる歴史を力強く前進させるために、時には犠牲も必要なのだよ」
ルーズベルトの意志の強さをこれでもかと言わんばかりに感じ取ったスティムソンは襟を正した。
「大統領閣下がそうお考えでしたら、小官としては依存はありません。陸軍としては英国・日本との戦争を前提として開戦準備に取りかかるだけです」
「海軍も陸軍と同様、開戦準備を進めます。最初の攻略目標を英領ラバウルに定め、具体的な作戦案の検討も開始します」
ノックスもルーズベルトの考えに賛意を示し、合衆国は英国・日本との戦争状態へと突入してゆくのだった。
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ご無沙汰しておりました。霊凰です。
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2023年2月27日 霊凰より
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