第27話 守りの1日目 一括投入

1944年2月15日


 零戦、飛燕が第2次空襲を退けた頃、日本海軍の攻撃隊もまた敵艦隊に取り付きつつあった。


 攻撃隊の編成は以下の通りである。


 春島に展開している第101、第111飛行戦隊より零戦22機、新型艦爆「彗星」21機、99艦爆41機。


 夏島に展開している第102、第112飛行戦隊より零戦25機、彗星19機、99艦爆39機。


 秋島に展開している第103、第113飛行戦隊より零戦20機、新型艦攻「天山」33機、97艦攻40機。


 冬島に展開している第104、第114飛行戦隊より零戦16機、天山29機、97艦攻31機。


 総兵力は零戦83機、艦爆は新旧合わせて120機、艦攻は新旧合わせて133機であり、正しくトラックに展開している攻撃機の全てを一括投入した攻撃隊であった。


 第11航空艦隊は偵察機彩雲によって発見された機動部隊4隊をそれぞれ「甲」「乙」「丙」「丁」と命名しており、攻撃隊には敵「丁」部隊を集中攻撃するように命じられていた。


 ちなみに敵「丁」部隊は正規空母1隻、小型空母1隻を基幹とした艦隊であり、4つの敵艦隊の中で最も規模が小さい部隊だった。


「それにしても上層部の連中の思惑は理解しかねますな。これだけの機数を投入するなら、1番規模の大きい敵『甲』部隊を攻撃すれば良いのに」


 艦爆120機の内の1機――第111飛行戦隊に所属する新型艦爆「彗星」の偵察員を務める今田徹1飛曹は、操縦席に座る松田幸徳飛曹長に伝声管を通じて話しかけた。


「恐らくだが、11航艦司令部は確実な戦果を欲しているのだろうな。1番小っさい部隊にありったけの攻撃隊を集中させて空母2隻を撃沈しようという腹づもりだろう。おまけで護衛艦艇の数隻も撃沈できれば、他の部隊が救助艦艇を派遣せざるを得ず、直接攻撃している部隊以外にも負担をかける事が出来るからな」


「成程。頭良いっすね、飛曹長」


 松田の説明に今田は納得した。松田曰くこの戦いは基地航空隊と後に来援する空母機動部隊を組み合わせた航空版の漸減邀撃作戦であり、この攻撃隊がその先兵となるとのことだった。


「ですが、南太平洋海戦に参加した連中の話だと、米艦隊の対空砲火は凄まじいらしいですぜ。攻撃機多数を揃えているとは言え、そう上手くいきますかね?」


「今田。だからこその新型機『彗星』だ」


 そう言った松田は操縦桿を叩いた。


 新型艦爆「彗星」は、1942年以降急速に被害が増え始めた99艦爆に替わる新型機として昨年7月に制式採用された機体だ。最高時速は580キロと零戦の最新型勝りであり、爆弾搭載量も99艦爆の2倍となっている。


 敵「丁」部隊まで20海里といった所で、F6Fの梯団が姿を現した。迎撃のために上がってきた機体に違いなく、その機数は次第に増えつつあった。


「制空隊かかれ!」


 この攻撃隊の戦闘機隊長を務めている指宿正信少佐が下令し、83機の零戦の内、約半数がF6Fに突進していった。零戦の役割はF6Fから艦爆、艦攻を死守することであり、何機かの零戦が安心しろと言わんばかりにバンクした。


 前方で空戦が始まったが、墜落してゆく機体は明らかに零戦の方が多かった。零戦が2機墜ちる間に零戦がやっとF6F1機を撃墜するといったような感じであり、10機以上のF6Fが乱戦場を抜け出して艦爆隊、艦攻隊に殺到してきた。


 彗星、99艦爆が機首に発射炎を閃かし、機首に固定機銃を持たない天山、97艦攻は機体同士の間隔を詰めた。


 だがF6Fの機動はその図体に似合わず俊敏そのものであり、艦爆隊、艦攻隊の決死の抵抗は何ほどの効果も無かった。


 1機の彗星、2機の99艦爆、1機の97艦攻が立て続けに火を噴いた。降り注ぐ火箭によって2名の搭乗員を一時に射殺された彗星は機首を傾け墜落し、爆弾に機銃弾が命中した99艦爆は木っ端微塵に爆散し、エンジン部に被弾した97艦攻は高度を落として編隊から落伍していった。


 F6Fが一斉に反転し、一度は小さくなった機影が再び大きくなる。零戦5機が横に割って入り、2機のF6Fを辛うじて撃退したが、今度は計6機の艦爆、艦攻が被弾した。


 ここで艦爆隊隊長機から突撃開始を報せるト連送が受信され、攻撃隊の編隊が大きく散開した。艦爆隊は敵艦隊を包み込むように広がり、艦攻隊は海面すれすれまで降下してゆく。


 輪形陣の外郭を形成する駆逐艦からの対空射撃が早くも始まった。とても駆逐艦から放たれた弾幕とは思えないほどの密度であり、艦爆隊は1機、また1機と失われていった。


(狙うなら駆逐艦だな。艦攻隊の突入位置を阻んでいるヤツにするか)


 松田は迷うことなく攻撃目標を決めた。出来る事なら敵空母に必中の爆弾を叩きつけてやりたいところであったが、この対空射撃の中、いきなり輪形陣の中央を航行する敵空母を狙うのは明らかに愚策であった。


 松田は狙いの駆逐艦の上空に機体を移動させ操縦桿を倒した。松田の他にも同じ敵駆逐艦を攻撃することを決めた彗星、99艦爆のパイロットがいたようであり、計らずして6機での同時攻撃となった。


 松田は高度400メートルで爆弾を投下し、後は命中することを願うのみであった。






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