第28話 守りの1日目 TF38.4の苦難

1944年2月15日


 この時、TF38.4に所属する軽空母「カウペンス」の艦橋からは、彗星ジュディ天山ジル、ヴァル、ケイトといった機体が積極的に駆逐艦を攻撃している様が確認できた。


 真っ先に狙われたのは、フレッチャー級駆逐艦「フラム」であり、1000ポンド爆弾が第1砲塔に、500ポンド爆弾が第2砲塔にそれぞれ1発ずつ命中した。命中の瞬間、2本の砲身は轟音と共に横倒れとなり、周囲にいた兵達を一切の区別をすることなく下敷きにしていった。


 阿鼻叫喚が「フラム」の艦上を支配し、「フラム」撃ち上げられる対空砲火の弾量は数秒間の内に激減してしまった。


 「フラム」の隣を航行していた「スタンリー」には500ポンド爆弾3発が直撃している。1発は前甲板を貫通して艦内で炸裂し、残りの2発はもろに艦橋に襲い掛かった。


 同時に艦の速力と頭脳を失った「スタンリー」は海を漂流する鉄屑と化した。


 「フラム」「スタンリー」の他にも「テリー」「サッチャー」「アンソニー」が被弾しており、特に5発被弾とボコボコにされた「サッチャー」に関しては早くも沈みつつあった。


 輪形陣3カ所に風穴が開き、多数のジル、ケイトが輪形陣の内部に侵入してきた。F6Fの迎撃と対空砲火によってかなり数を削れていたが、それでも80~90機程度はまだ残っていた。


 「エセックス」「カウペンス」を狙っているのは何もジル、ケイトだけではない。まだ投弾を終えていないジュディ、ヴァルも輪形陣の内部に殺到してきた。


 「エセックス」が艦首を左に振り、飛行甲板の両縁が真っ赤に染まった。


 灼熱の火箭が天地逆さの勢いで突き上がり、最初に「エセックス」に急降下爆撃を仕掛けてきたヴァル3機は即座に叩き落とされた。


「ヴァル3機撃墜!」


 見張り員の報告が「エセックス」に飛び込み、ドナルド・B・ダンカン「エセックス」艦長も拳を握りしめた。「エセックス」に向かって来ている攻撃機の機数は正しく空前であったが、この「エセックス」ならば凌ぎきれるのではないかとダンカンは考えていた。


 だが、日本軍のパイロットは勇敢であり、僚機の被弾墜落などものともしなかった。


 今度は1個中隊のジュディが「エセックス」に仕掛け、2機が撃墜されたものの、7機が一斉に投弾していった。


 最初の3発までは「エセックス」の左右両舷に着弾した。水中爆発の衝撃が「エセックス」を突き上げ、恐れをなした乗務員の悲鳴が各所から聞こえてきた。


 そしてその悲鳴は、直撃弾の炸裂音によってかき消された。1発は「エセックス」の飛行甲板中央部に命中、そこを貫通し、格納庫内で炸裂した。


 この時、「エセックス」の格納庫には、整備不良によって出撃できなかったF6F3機、ヘルダイバー2機が駐機しており、これらの機体が弾けたボールのように吹き飛ばされた。


「「「なっ・・・!!!」」」


 何人もの絶叫が格納庫内を木霊し、鉄塊に押しつぶされた乗員が絶命し、破片に切り刻まれた乗員は格納庫内をのたうち回った。


 2発目は飛行甲板縁スレスレを直撃し、高角砲1基、機銃座2基が粉砕された。


 2発目の炸裂音が消えた直後、「エセックス」の左舷側に水柱が奔騰し、ジルが「エセックス」の艦首を掠めるようにして離脱していった。


 被雷場所は機関室がある部位であり、4層の縦隔壁の内、2層までが貫通された。大量の海水が即座に流入を開始し、「エセックス」の速力は29ノットにまで低下した。


 ダンカンは被弾箇所と被雷箇所にダメージ・コントロール・チームを向かわせ、ダンカンは航海室に転舵を命じた。


 だが、既に1本を被雷している「エセックス」の動きは鈍く、「エセックス」が進路を変えつつあった時には、新しいケイトの編隊が迫っていた。


 5インチ高角砲、40ミリ機銃、20ミリ機銃が銃口が焼けただれんばかりの勢いで撃ちまくり、ケイトの半数を撃墜したが、残りの半数は投雷していった。


 今度も1本が命中し、命中箇所は右舷前部であった。


 被雷の瞬間、「エセックス」の艦そのものが仰け反り、次いで前方に揺り戻された。衝撃が艦全体を突き抜け、先の被雷箇所では3層目の縦隔壁が突破された。


 右舷前部に張り巡らされていた装甲はごっそりと食い千切られた。1番近くの区域は真っ先に沈没し、ダンカンは更なる浸水を阻止するために「両舷停止」を命じざるを得なかった。


 だが、この「両舷停止」で「エセックス」の命運は決定づけられた。減速してゆく「エセックス」の左舷側に3本、右舷側には2本が命中し、飛行甲板にも新たに2発が直撃した。


 「エセックス」の運命は旦夕に迫りつつあった。計7本の被雷によって「エセックス」は左舷に大きく傾いており、急坂と化した飛行甲板からは高角砲員、機銃員が艦を見捨てて次々に海に飛び込んでいた。


 程なくしてダンカンは「総員退艦」を下令し、同じ頃にはTF38.4に所属しているもう1隻の空母―軽空母「カウペンス」も直撃弾5発、魚雷3本を喰らい横転していたのだった。




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