第26話 守りの1日目 新型戦闘機「飛燕」

1944年2月15日


 第2次空襲は、午前8時30分から始まった。


 零戦が迎撃戦に参加しているのは第1次空襲と同様であったが、第2次空襲では陸軍機も迎撃戦に加わっていた。


「やはり、海軍さんの零戦ではちと厳しいかな?」


 少し離れた場所で行われている空戦の様子を見ながら、3式戦闘機「飛燕」に搭乗する広瀬吉雄飛曹長は呟いた。


 飛燕は月曜島に展開している陸軍飛行第3戦隊の装備機であり、1943年6月に制式採用された機体だ。帝国陸軍機としては比較的重武装となる12.7ミリ機関砲4門を装備し、最高時速590キロを叩き出す高性能機である。


 特筆すべきは搭載エンジンであり、液冷エンジンのハ40を搭載している。このエンジンは扱いが難しかったが、飛行第3戦隊所属の整備兵達は入念にエンジンを調整し、40機の飛燕を大空に送り出してくれた。


「指揮所より全機へ。敵第2波襲来」


 地上の指揮所から報告が入った直後、飛行第3戦隊長の鴨川庄一少佐が駆る飛燕が大きくバンクした。これが突撃の合図であり、広瀬はエンジン・スロットルをフルに開いた。


 ハ40の鼓動が高まり、大きく咆哮する。飛燕の機体が一気に加速し、空戦を行っている零戦とF6Fの姿が一気に拡大する。


 広瀬は操縦桿を右に倒し、直ぐには乱戦場に飛び込まなかった。この状況でむやみに突っ込んでしまうと、機銃の射線上に味方の零戦を巻き込んでしまう危険性があったからだ。


 まず、広瀬が目を付けたのは零戦の20ミリ機銃弾を被弾し、グラついていたF6Fだった。そのF6Fはエンジン部分から黒煙を噴き出しており、速力は時速400キロも出ていないように感じた。


 広瀬は機体をF6Fの後ろ上方に付け距離を詰めた。照準環の中に映るF6Fの姿が膨れ上がり、頃合い良しと考えた広瀬は発射把柄を握った。


 4門の機関砲に発射炎が閃き、F6Fの後部に集中的に命中した。F6Fは糸が切れた凧のように制御を失って墜落していった。


「こんなにあっさりか・・・」


 あまりの手応えのなさに広瀬は違う意味であっけにとられた。海軍の零戦はF6Fに対して性能面で劣勢と言われているが、それすらも信じる事が出来ないようなあっけなさであった。


 そして、広瀬があることを思いついたのはこの時であり、広瀬は即座に乱戦場だけではなく、乱戦場を含めた空域全体を見渡した。


 そうすると何機か乱戦場から離脱しているF6Fを見つけることが出来た。これらのF6Fの共通点は被弾によって機体が大きく傷ついているということであり、広瀬はこれらの機体を落ち武者狩りの如く狙い撃ちすることを思いついたのだ。


 広瀬に次に目を付けられたのは、高度4000メートル付近を飛んでいたF6Fであった。このF6Fは補助翼を吹き飛ばされており、左翼の翼端がささくれていた。


 飛燕の接近に気づいたF6Fは12.7ミリ機銃弾を放ち、飛燕の撃墜を試みるが、広瀬にとって手負いのF6Fの動きを見切ることは容易く、青白い火箭は全て飛燕の下腹を通過していった。


 だが射撃機会を逸してしまい、広瀬は飛燕の機体を反転させた。後ろから距離を詰めるという構図は先程も同じであり、広瀬は再び機銃の発射把柄を握った。


 12.7ミリ機関砲弾はF6Fの左翼に更なるダメージを与えた。黒い塵のようなものが大量に吹き飛び、そのF6Fも先程のF6Fと同じ運命を辿った。


 広瀬はこの直後にも手負いのF6Fを1機撃墜し、合わせて3機を撃墜した。しかし、落ち武者狩りがバレてしまったのだろう、健全なF6Fが広瀬機向かって突っ込んできた。それも3機も。


 決して無理をせず、数的劣勢の時は逃げるに限る――これを信条としている広瀬は操縦桿を思いっきり前に倒した。飛燕の機首が海面を向き、急角度で急降下する。


 F6Fも飛燕の動きに追随し、彼我の距離は徐々に縮まってきた。速度性能で零戦よりも優れる飛燕であっても、急降下速度ではF6Fに劣っているようであった。


「不味い!」


 広瀬が叫んだのと、F6Fの両翼から閃光が閃いたのがほぼ同時であった。12.7ミリ弾は10発以上が飛燕に命中した。


 幸いな事に広瀬の体が機銃弾に貫かれる事はなかったが、愛機のエンジン出力が徐々に落ちてきた。


「・・・んんんん!!!」


 広瀬は渾身の力を操縦桿に込め、機体を効果角度を立て直した。だが、愛機の墜落は確定事項であり、広瀬は急いで脱出準備を始めた。


 そして広瀬は飛燕から脱出した。風圧が体全体を包み込み、風によって大いに体が煽られたが、無事にパラシュートが開いた。


 約1分後、広瀬は海面に着水し、トラック環礁に向かって泳ぎ始めたのだった。


 そして、広瀬機の墜落後も空戦は続き、零戦、飛燕、F6Fが1機、また1機と墜落していったが、最終的にはトラックの基地航空隊は犠牲を出しつつも第2次空襲を凌ぎきったのだった。


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霊凰より




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