第23話 決戦構想 「氷河」作戦

1944年1月15日


 「ホーネット」「エンタープライズ」「サウスダコタ」が失われた屈辱のサンタ・クルーズ諸島海戦(南太平洋海戦の米側呼称)から1年3ヶ月余り、太平洋艦隊は完全に再生を遂げており、真珠湾はおびただしい数の艦艇で埋め尽くされていた。


 2週間後に発動が予定されているトラック環礁攻略作戦は、「氷河グレイシャー」作戦と命名されており、「氷河」作戦に参加する空母の数は13隻を数える。


 13隻の内、1隻はレキシントン級の「サラトガ」だが、残りの12隻は全て1942年以降に竣工した新鋭艦だ。


 エセックス級正規空母と、インディペンデンス級軽空母。合衆国海軍が大艦巨砲主義から航空主兵主義に変化したことを示す証が、各6隻ずつ舳先を並べていた。


 エセックス級は、ヨークタウン級空母の拡大発展版とも言える艦であり、基準排水量は27100トン、最大搭載機数は110機である。見る者が見ればミッドウェー沖やサンタ・クルーズ諸島沖で無念の涙を呑んだ「ヨークタウン」「ホーネット」「エンタープライズ」がより強くなって復活したようであり、太平洋艦隊の士気向上に一役買っていた。


 インディペンデンス級軽空母は、クリーブランド級軽巡の艦体を流用して建造された軽空母であり、基準排水量は11000トンとエセックス級の半分以下であるにも関わらず、搭載機数は40機を誇っている。


 13隻の搭載機数を合計すると計980機であり、正しく空前の空母航空戦力であった。


 空母群が停泊している場所から少し離れた所には、戦艦が7隻停泊している。


 ノースカロライナ級戦艦「ノースカロライナ」「ワシントン」、サウスダコタ級戦艦「インディアナ」「マサチューセッツ」「アラバマ」、アイオワ級戦艦「アイオワ」「ニュージャージー」。


 いずれもが開戦後に竣工した新時代の新鋭戦艦であり、艦上に堂々と屹立している40センチ主砲は、未だに我らが合衆国海軍の主役であるということを自己主張しているかのようであった。


 これらの艦は、「氷河」作戦を担当する第5艦隊に配属されており、第5艦隊旗艦重巡「インディアナポリス」では、「氷河」作戦前の最後のミーティングが始まっていた。


「さあ、日本軍を叩き潰す作戦の最終ミーティングを始めようか」


 第5艦隊司令長官レイモンド・A・スプルーアンス大将は、居並ぶ幕僚を見渡した。


 会議は参加兵力の確認から始まり、全員の視線が壁に貼られている第5艦隊の編成表に集中した。


第5艦隊

TF38(第38任務部隊)

 第1群 正規空母「ホーネット2」「ヨークタウン2」

     軽空母「ベロー・ウッド」「バターン」

     重巡「ボストン」「キャンベラ」「ボルティモア」

     防巡「オークランド」「サン・ファン」

     駆逐艦14隻

 第2群 正規空母「バンカーヒル」「ワスプ2」

     軽空母「モントレー」「カボット」

     軽巡「サンタフェ」「モービル」「ビロクシー」

     駆逐艦12隻

 第3群 正規空母「サラトガ」「レキシントン2」

     軽空母「プリンストン」

     重巡「インディアナポリス」

     軽巡「バーミンガム」「クリーブランド」

     防巡「レノ」

     駆逐艦13隻

 第4群 正規空母「エセックス」、軽空母「カウペンス」

     軽巡「ビンセンス」「マイアミ」

     防巡「アトランタ」

     駆逐艦14隻

 第7群 戦艦「ノースカロライナ」「ワシントン」「インディアナ」

       「マサチューセッツ」「アラバマ」「アイオワ」

       「ニュージャージー」

     重巡「ニューオーリンズ」「ミネアポリス」「サンフランシスコ」

       「ウィチタ」

     駆逐艦14隻


TF51(第51任務部隊)

 海兵隊 第3海兵師団、第4海兵師団、第5海兵師団

 陸軍 第27歩兵師団


「第5艦隊は、3日後に真珠湾を出港。中継地点のクエゼリン環礁を経由し、トラック環礁近海に進出します。第1段階ではTF38の艦載機を用いて、トラック環礁に展開している敵基地航空隊を撃滅。その後の第2段階でTF51の兵力を用いてトラック環礁の占領に取りかかります」


 第5艦隊参謀長カール・ムーア大佐が口を開いた。


「質問宜しいか?」


「どうぞ」


 TF38.1司令長官ジョゼフ・J・クラーク少将が手を挙げ、ムーアは頷いた。


「第1段階で敵基地航空隊を叩くとの事だが、確実に日本軍の機動部隊はトラック救援に出てくるはずだ。基地航空隊と機動部隊を同時に相手取る事になった場合の優先目標はどっちかね?」


 クラークの質問は鋭かった。この優先順位を決めるというのは想像以上に重要な事であり、ミッドウェー海戦での日本軍はこれが出来ずに空母4隻の失って敗退している。


「その場合は、敵機動部隊を優先するようにお願いします」


 ムーアは答え、スプルーアンスも頷いた。おそらくだがこのクラークの質問は事前に予想されていたのだろう。


「敵潜水艦の対処は大丈夫ですか? 1943年以降、日本軍の潜水艦の活動が活発になっているとの情報が入っていますが・・・」


 次に質問したのは、TF38.2司令長官アルフレッド・E・モントゴメリー少将だった。


「真珠湾近海でも、クエゼリン環礁近海でも我が軍の駆逐艦が潜水艦狩りを行っており、現在までに敵潜6隻撃沈の戦果が挙がっています。敵潜水艦への対処は完璧です」


 ムーアはモントゴメリーの質問に答え、その後も何個かの質問があったが、最終ミーティングは問題なく終了したのだった。












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