第21話 決戦構想 揃えられた兵力②

1944年1月4日


「・・・トラック環礁に展開している基地航空隊のみで、米艦隊に対抗することは不可能。これは軍令部、GF(連合艦隊)司令部の共通見解です」


 永野のかんしゃくが収るのを待って、南雲は口を開いた。


「ならば、我が方の方針はただ1つ。基地航空隊と機動部隊の力を結集し、米艦隊を打ち破るのです」


 そう言った南雲は新しい書類をテーブルに滑らした。


第2艦隊

第1戦隊 戦艦「陸奥」「長門」

第2戦隊 戦艦「伊勢」「日向」「扶桑」「山城」

第4戦隊 重巡「愛宕」「高雄」「鳥海」「摩耶」

第5戦隊 重巡「妙高」「羽黒」「足柄」「那智」

第7戦隊 重巡「熊野」「鈴谷」「利根」「筑摩」

第2水雷戦隊 軽巡「能代」、駆逐艦「島風」

 第31駆逐隊 駆逐艦「長波」「朝霜」「岸波」「沖波」

 第32駆逐隊 駆逐艦「藤波」「早波」「玉波」「浜波」

第3水雷戦隊 軽巡「阿賀野」

 第17駆逐隊 駆逐艦「谷風」「浦風」「浜風」「磯風」

 第18駆逐隊 駆逐艦「不知火」「黒潮」「雪風」

 第19駆逐隊 駆逐艦「野分」「嵐」「萩風」


第3艦隊

第1航空戦隊 正規空母「翔鶴」「瑞鶴」、小型空母「瑞鳳」

第2航空戦隊 正規空母「隼鷹」「飛鷹」、小型空母「龍鳳」

第3戦隊 防空戦艦「金剛」、戦艦「榛名」

第1防空戦隊 防巡「青葉」「衣笠」「古鷹」「加古」

第60駆逐隊 駆逐艦「秋月」「照月」「涼月」「初月」

第61駆逐隊 駆逐艦「白露」「時雨」「村雨」「夕立」


第4艦隊

第3航空戦隊 正規空母「大鳳」、小型空母「千歳」「千代田」「龍驤」

第5航空戦隊 超空母「大和」「武蔵」

第11戦隊 戦艦「比叡」「霧島」

第2防空戦隊 防巡「台北」「台中」「台南」「基隆」

第63駆逐隊 駆逐艦「新月」「若月」「霜月」「冬月」

第64駆逐隊 駆逐艦「春雨」「五月雨」「海風」「山風」


「第2艦隊はともかく、こうして見ると空母戦力の充実が目を見張るな」


 編成表を見た永野は呟いた。第3艦隊、第4艦隊の中核となる空母は、1943年以前に戦列に加わっていた在来の7隻――超空母「大和」、正規空母「翔鶴」「瑞鶴」、商船改装空母「隼鷹」「飛鷹」、小型空母「瑞鳳」「龍驤」に、新造艦の超空母「武蔵」、装甲空母「大鳳」、他艦種からの改装艦3隻を加えた全12隻となっている。


 超空母「武蔵」は「大和」の同型艦であり、搭載機数は零戦、彗星、天山合わせて108機となっている。細かい所では「大和」との違いもあり、対空火器の装備数やレーダーの精度は「大和」よりも「武蔵」の方が優れている。


 「大鳳」は、帝国海軍が史上初めて竣工させた装甲空母だ。バルバス・バウ(造波抵抗を減らすための球状艦首)、艦橋と煙突が一体化した構造、長10センチ高角砲などの新機軸がふんだんに盛り込まれており、来るべき決戦では「大和」「武蔵」と同様の活躍だ期待されていた。


 他艦種からの改装艦3隻というのは、潜水母艦「大鯨」から改装された「龍鳳」、水上機母艦から空母に改装された「千歳」「千代田」の3隻の事であり、1艦当たりの搭載機数は約30機となっている。


「第2、第3、第4艦隊は、現在は蘭印方面で訓練中と聞いているが、その経過はどうなっている!?」


 永野が訓練状況の確認を求めた。いくら新造艦多数を加えて戦力を強化したといっても、肝心の決戦に間に合いませんでしたでは全く話にならないからである。


 その質問には黒島が答えた。黒島は第3、第4両艦隊に配属された新造空母、新鋭防空巡洋艦の訓練が予定よりも遅れている事、度重なる消耗によって空母艦載機のパイロットの練度確保が十分ではないことを説明し、訓練完了には最低でもあと2ヶ月はかかるだろうという見通しを示した。


「2ヶ月だと!? それでは米軍の来襲に間に合わんのではないか!?」


 永野がまたかんしゃくを起こしたが、これに関しては南雲も同意見であった。米軍も潜水艦からの情報や現地に潜伏しているスパイからの情報などによって、帝国海軍の訓練状況はある程度把握しているはずである。


 米軍からしてみれば、こちらの訓練完了に付き合う義理はなく、その前にトラックに殺到してくる事は火を見るよりも明らかであった。


「第2艦隊の栗田長官(栗田健男中将)、第3艦隊の小沢長官(小沢治三郎中将)、第4艦隊の城島長官(城島高次少将)には、訓練未了の場合であっても、米艦隊来襲時には即座に出撃する旨を伝えてありますが・・・」


(想像以上に厳しそうだな)


 黒島の説明を聞きながら、南雲は腹の底で呟いた。そもそも蘭印からトラック環礁まで艦隊を動かすのに4日程度かかるので、1日乃至2日程度は基地航空隊が単独で米艦隊の猛攻を支えなければならないのである。これでは敵に各個撃破の機会を与えるに等しかった。


 南雲はその点を指摘したが、これに関しては索敵を密にして米艦隊の動きを極力早く察知するしか対応方法がなく、これといった代案は出てこなかった。


 ある程度の確認は済んだと永野は判断したのだろう。永野は会議の散会を命じ、南雲や黒島といった面々は軍令部長室から退室したのだった。















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