第20話 決戦構想 揃えられた兵力①
1944年1月4日
「ああ。海軍さんも南方で猛訓練をやっているらしいからな。お偉いさん達は間違いなくこのトラック環礁に米艦隊が襲い掛かってくると考えているはずさ」
という清藤の話は的を射ており、東京霞ヶ関の軍令部では毎日のように討議が続けられていた。
「最近、米軍の動きが活発になっているというのは真かね!?」
軍令部総長永野修身大将は、開口一番召集された軍令部員達に疑問をぶつけた。明らかに口調が強かったが、それは最近永野に健康不安説がささやかれていることに起因しているのかもしれなかった。
永野の体調を心配しつつ、口を開いたのは軍令部次長の南雲忠一中将だった。
「はい。トラック環礁に展開している第11航空艦隊の司令部からの報告が根拠です。1つ、B17、B24による空襲の頻度が高まっている事。2つ、トラック―ラバウル間で米潜水艦の跳梁が激しくなっている事。3つ、ラバウルに展開している米軍機の数が加速度的に増えている事です」
南雲はご存じの通り、ミッドウェー海戦で正規空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」を喪失してしまった敗将であったが、南太平洋海戦で米軍の正規空母2隻、新鋭戦艦1隻を撃沈した事が評価され名誉挽回となり、今は軍令部次長の椅子に収っていた。
「米海軍の機動部隊に関してはどうなっている!?」
「それは私から説明を」
南雲が口を開きかけたが、それに関して1番詳しいのは軍令部第3部長の矢野英雄少将であり、矢野が説明を始めた。
「まず、開戦前に米海軍が保有していた正規空母はヨークタウン級が3隻、レキシントン級が2隻、『ワスプ』『レンジャー』の7隻でした。これら7隻の内、今現在も生き残っているのは『サラトガ』『レンジャー』のみであり、『レンジャー』は大西洋にいます」
「そして、米海軍は一昨年末よりエセックス級と言われる新造空母を2ヶ月乃至1ヶ月半に1隻のペースで竣工させています。他にも軽巡改装の軽空母の存在も確認されており、仮に1ヶ月後に米海軍が来襲するとすると、正規空母6~7隻、小型空母6~7隻の陣容になるというのが第3部の統一見解です」
「戦艦、巡洋艦、駆逐艦はどうだ!?」
永野は空母以外の艦艇の確認も忘れなかった。来るべきトラック環礁を巡る戦いでは、戦艦が果たす役割が多いだろうというのが永野の個人的な考えであった。
「コロラド級戦艦、ニューメキシコ級戦艦、テネシー級戦艦といったいわゆる旧式戦艦は参戦しても輸送船団の護衛がせいぜいでしょう。機動部隊に随伴可能な速力を持つ新鋭戦艦はノースカロライナ級が2隻、サウスダコタ級が3隻、そして未知のクラスの戦艦が2隻です」
「そして、巡洋艦は20~30隻といった所であり、『ボルティモア』というクラスが新たに多数戦列に加わっています。駆逐艦は100~140隻の間といった所であり、まず間違いなく半数以上は新鋭艦で固められているはずです」
「・・・第3部長の報告をまとめると、空母は大小合わせて12~14隻、新鋭戦艦7隻、巡洋艦20~30隻、駆逐艦100隻以上か。容易ならぬ敵だな」
永野が矢野の報告を集約し、南雲も内心驚かざるを得なかった。南太平洋海戦後、帝国海軍の空母戦力は米海軍のそれと比較して圧倒的優位に立っていたはずであったが、その優位は僅か1年ちょっとの間で崩れ去ったのだ。
「我が方の迎撃態勢はどうなってる!?」
「こちらがトラック環礁に展開している第11航空艦隊の戦力配置図です。捕捉として陸海軍協定によって月曜島、火曜島に配備された陸軍機についても記してあります」
南雲は1枚の書類をテーブルに滑らした。
春島 第101飛行戦隊 零戦107機、彩雲2機
第111飛行戦隊 彗星21機、99艦爆41機
夏島 第102飛行戦隊 零戦99機、彩雲3機
第112飛行戦隊 彗星19機、99艦爆39機
秋島 第103飛行戦隊 零戦101機、彩雲2機
第113飛行戦隊 天山33機、97艦攻40機
冬島 第104飛行戦隊 零戦87機、彩雲4機
第114飛行戦隊 天山29機、97艦攻31機
月曜島 飛行第3戦隊 飛燕44機
飛行第5戦隊 屠龍28機
飛行第7戦隊 99式襲撃機56機
火曜島 飛行第11戦隊 鍾馗66機
飛行第14戦隊 疾風24機
「・・・成程。戦闘機だけで556機、攻撃機も含めると800機以上といった所か」
永野の顔色が心なしか良くなった。敵機動部隊の搭載機数は推定約1000機といった所であり、十分に渡り合えると考えたのだろう。
だが、軍備・兵器を担当する軍令部第2部長黒島亀人少将の見解は違った。黒島は米空母の搭載機がF6F、ヘルダイバー、アベンジャーといった新鋭機に置き換わっている旨報告し、F6Fの性能は零戦の最新型の52型よりもほぼ全ての面で勝っていることも付け加えた。
「『烈風』はどうなった! 確か零戦の後継機で、2000馬力級のエンジンを搭載する機体という触れ込みだったはずだが!」
ここで永野は「烈風」――零戦の後継機として地味に開戦前から開発がスタートしていた機体の存在を思い出した。
だが・・・
「烈風に関してですが、今だに戦線投入のめどは立っておりません。肝心の2000馬力級エンジンの調整に手間取っており、開発責任者の体調不良というアクシデントも重なったものでして・・・」
黒島が申し訳なさそうに言い、永野は拳を机に叩きつけた。
(次回、第21話に続く)
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