第3章 トラック沖海戦第1幕 決戦構想
第19話 決戦構想 陸軍の夜鷲
1943年12月10日
1機のB24が被弾し、胴体後部から大量の黒煙を噴き出し始めた。
その下方を、3機の機影が通り過ぎる。2式複座戦闘機「屠龍」――1943年始めより戦線に本格投入された双発戦闘機がこの日、昭和18年12月10日の迎撃戦に参加していた。
「指揮所より全機へ。右方に新たな梯団!」
飛行第5戦隊高田勝重少佐の声が、無線電話機を通じて聞こえてきた。屠龍のパイロットである清藤龍虎飛曹長は、操縦桿を右に倒して、新たなB24の姿がぼんやりと夜闇の中に浮かび上がってきた。
清藤は機首を上向け、B24の上方を占位した。屠龍は機首に装備されている12.7ミリ機銃の他に、胴体下部に37ミリ機銃が装備されており、清藤はそれを用いようと考えたのだ。
「ちょっと左です」
「行き過ぎ。ちょっと右です」
偵察員席に座っている牧原都1飛曹の指示を受け、清藤は機体の位置を微調整する。
「ここだな!」
「はい。撃ちます!」
以心伝心とも言える感覚で2人の感覚が一致し、牧原は発射把柄を握った。陸軍機に標準装備されている12.7ミリ機関砲弾や、零戦に装備されている20ミリ機銃弾の火箭よりも遙かに太い、棍棒さながらの火箭が屠龍の下腹から噴き伸びた。
37ミリ弾は狙い過たず、B24に命中した。火花が盛大に飛び散り、そのB24は真っ逆さまになって墜落していった。
清藤機の真横で大規模な爆発が起こった。恐らく爆弾倉に37ミリ弾を喰らったB24が、搭載していた500ポンド爆弾の誘爆によって内側から破壊されたのだろう。
屠龍には胴体下部に37ミリ機銃を装備した「甲型」と、胴体上部に37ミリ機銃を装備した「乙型」が存在しており、今のは「乙型」の戦果に違いなかった。
空中が一瞬明るくなり、清藤は目ざとく新たなB24に狙いを定めていた。B24も自機が狙われている事に勘づいたようであり、機体各所から12.7ミリブローニング機銃弾が発射されていた。
清藤は紙一重とも言える操縦で、火箭を掻い潜る。途中1、2発程度命中したようだが、陸軍の新方針でこの「屠龍」は防御力が強化されたバージョンとなっており、致命傷になることはなかった。
「喰らえ!」
清藤は短く叫び、発射把柄を握った。機首が僅かに振動し、12.7ミリ機関砲弾がB24に命中した。37ミリ弾よりも遙かに非力な12.7ミリ機関砲弾ではB24に目立った損傷を与えることは出来なかった。
しかし、そこに違う「屠龍」が差し足忍び足で近づき、37ミリ弾を浴びせた。清藤はバックミラー越しにB24が墜落する様子を確認した。
清藤・牧原ペアが1機撃墜・1機撃破の戦果を挙げた時、B24の数は大きく激減していた。
右翼の油送管を傷つけられたB24が高度を落とし、自分達の梯団が集中的に狙われている事に気づいたB24が一斉に散開を試みるが、何とここで2機のB24が空中激突した。
「かっ――!!!」
清藤は噴き出し、多数の屠龍がそこにつけ込む。4機のB24が立て続けに被弾し、内2機が梯団から脱落した。
空戦は日本側が明らかに優勢であったが、屠龍の被弾機が皆無という訳ではなかった。
37ミリ弾の弾倉に被弾した屠龍が、機銃弾の誘爆によって爆散した。12.7ミリ弾をエンジン部に被弾した屠龍は速力を大幅に衰えさせ、戦場からの離脱を余儀なくされる。
トラック環礁が近づいてくる。B24は2隊に分かれており、海軍機が展開している春島、夏島を目指しているようだった。
程なくして、大幅に数を撃ち減らしたB24が次々に投弾を開始し、地上から爆発光多数が確認できた。空襲に備えて海軍機は大半が掩体壕に避難させてあるはずであったが、それでも清藤は心配になった。
「指揮所より全機へ。空戦終了」
高田少佐の声が聞こえてきた。大半の屠龍はまだ燃料、弾薬を半分以上残しているはずであり、投弾後のB24を狙う事も出来たが、高田はそこまでの深追いは不要と判断したのだろう。
屠龍の基地は春島、夏島の西側にある月曜島にあり、清藤機が月曜島の飛行場に脚を降ろしたのは15分後の事であった。
「どう見る?」
「どう見る、とは?」
清藤の質問の意図が分からなかったのだろう。牧原は首を傾げた。
「最近の米軍の動向についてだ。明らかに空襲の頻度が増えている」
「確かに・・・」
牧原は確かに清藤の言うとおりだと思った。飛行第5戦隊がトラック環礁に展開したのは、今年の9月の事であり、その時の空襲の頻度は1週間に1度といった感じであった。
それが今では2日に1回程度にまでペースアップしており、米軍の動きが活発になってきているのは明らかであった。
「そう言えば、近々大幅な戦力状況が行われるとの事でしたよね・・・」
「ああ。海軍さんも南方で猛訓練をやっているらしいからな。お偉いさん達は間違いなくこのトラック環礁に米艦隊が襲い掛かってくると考えているはずさ」
清藤はそう言い、牧原は体をこわばらせたのだった。
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