第18話 第1次大西洋海戦 戦果と課題
1942年11月9日
ドイツ機動部隊に対する攻撃は、周囲の護衛艦艇を切り崩す所から始まった。
ドイツ機動部隊はベルリン級正規空母「ベルリン」「ドナウ」の他に、巡洋艦2隻、駆逐艦12隻が配備されていたが、その中で2隻の巡洋艦が真っ先に狙われたのだ。
「さあ来い! ドーントレス・アベンジャー!」
巡洋艦「モルトケ」の艦上では、ある曹長が天を睨み、獅子吼していた。
巡洋艦「モルトケ」はモルトケ級軽巡洋艦の1番艦として建造された艦であり、全長170メートル、基準排水量7000トンの艦体に、10.5センチ対空砲12門、37ミリ連装機銃10基20門の火力を備えている。
艦橋にはドイツ自慢のレーダー・アンテナが多数設置されており、艦橋もこれまでのドイツ巡洋艦とは一線を画した洗練されたフォルムとなっている。
このクラスは、ドイツ海軍が初めて建造した防空巡洋艦であり、海軍中央も強い期待を寄せていた。
上空では、直衛のBf109Tが戦闘を開始していた。曹長はBf109Tの方がF4Fよりも性能的に優れている事を把握していたが、数はF4Fの方が多いようであり、全く楽観出来る状況ではなかった。
それでも数の劣勢をくぐり抜け、何機かのBf109Tがドーントレス・アベンジャーに突っかかる。ドーントレスがエンジンに一撃を喰らって墜落し、コックピットを粉砕されたアベンジャーが火を噴くことなく高度を落とす。
「射撃開始!」
砲術長が命令を下し、まず射程の長い10.5センチ対空砲12門が砲門を開いた。
この砲は米軍のアトランタ級防空巡洋艦に標準搭載されている5インチ砲と比較すると、あらゆる面で劣っており、そのせいで対空砲火で「モルトケ」が撃墜できた敵機は僅か1機に留まった。
続けて37ミリ連装機銃が射撃を始めたが、こちらは何と1機のドーントレスを撃墜することも叶わず、最終的に「モルトケ」に投弾したドーントレスは7機を数えた。
1発、2発目までは、「モルトケ」の左右両舷に落下し、水柱を奔騰させるだけで済んだが、3発目が「モルトケ」に命中した。
第1砲塔の真上から黒い塊が吸い込まれた――曹長がそう認識した直後、赤い閃光が弾け、曹長の視界が真っ赤に染まった。
この一撃で10.5センチ対空砲1基が物の見事にスクラップになってしまい、併設されていた第2砲塔も砲塔を支える台座のゆがみによってこれまた射撃不能となってしまった。
4発目、5発目、6発目は外れる。被弾時の衝撃から立ち直った曹長は「モルトケ」にこれ以上の被弾はないのでは無いかと思ったが、それは全く甘い見積もりであった。
最後に投弾された7発目は、「モルトケ」の艦橋の真上から襲い掛かった。
天空からの災厄に、「モルトケ」の艦橋は押しつぶされ、そこにいた艦長以下の「モルトケ」の幹部乗員の大半を殺傷した。
そして、大量の破片が「モルトケ」の甲板上にも降り注ぎ、曹長は指揮していた機銃座に詰めていた全員に頭を守るように命令した。本当ならば艦内に避難したい状況であったが、それは出来なかった。
甲板上は地獄の様相となっていた。ガラス破片で喉を掻き切られた水兵が血反吐をぶちまけながらのたうち回り、服に着火した水兵は、炎が全身に回りやがて微動だにしなくなった。
「モルトケ」が被弾し、曹長が自分達の事で精一杯になっている間に、アベンジャーの編隊は輪形陣の内部に侵入している。
「ベルリン」「ドナウ」が飛行甲板の両縁を真っ赤に染め、空母の航跡が弧状に刻まれる。アベンジャーが1機、2機と火を噴いた。
だが、アベンジャーのパイロット達は誰もがヤンキー魂全開であり、そして勇敢だった。
アベンジャーが次々に投雷し、最終的に「ベルリン」「ドナウ」に1発ずつが命中した。両艦共に速力は低下したが、辛うじて沈没することはなかった。
その後、第2次攻撃隊が来襲したが、これは第1次攻撃隊よりも大幅に機数が少なかった事が幸いして、「ベルリン」「ドナウ」共に更なる打撃を受けることはなかった(ドイツ側の第4次攻撃隊の戦果は米空母「レンジャー」に魚雷1本命中のみ)。
こうして、「第1次大西洋海戦」は幕を下ろし、空母機動部隊の有用性を理解したちょび髭総統は即座に空母建造の促進化を決定した。今回の海戦で見つかった課題も改善策が検討され、順次実施されていった。
ベルリン級正規空母は最終的に6隻が出そろうことになるが、それらの活躍はまた今度のお話である。
そして、太平洋戦線に目を移すと、1943年8月に待望の超空母2番艦「武蔵」が竣工し、帝国海軍の精鋭航空隊はトラック環礁で大いに奮戦し、戦線を維持していた。
対する米海軍も1942年12月31日に竣工したエセックス級空母1番艦「エセックス」を皮切りにして、何と「南太平洋海戦」から僅か1年半の間で、正規空母7隻、軽空母6隻を揃えるまでになった。
そして、1944年2月に戦機は熟し、日米両軍はトラック環礁で大いに激突することになるのだった・・・
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これにて、第2章終了です。
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