第17話 第1次大西洋海戦 雷撃機乱舞

1942年11月9日


 TF8(第8任務部隊)に対する攻撃隊第1波は、米空母「レンジャー」、英空母「イラストリアス」「ヴィクトリアス」から第2次攻撃隊が発進した約1時間後に殺到してきた。


 各艦の艦上では「対空戦闘!」の号令が飛び、空襲を告げるブザーが鳴り響いた。下士官、高角砲員、機銃員、ダメージ・コントロール・チームが慌ただしく一斉に配置に付き、多数の命令や復唱が交わる。


 「レンジャー」が最高速力の29ノット、「イラストリアス」「ヴィクトリアス」が同じく最高速力の30ノットにまで増速した。飛行甲板では3隻合計29機のF4F、マートレット(アメリカがイギリスに貸与したF4Fの名称)が待機しており、1番機から順に発艦を開始する。


「敵の攻撃機は雷撃機オンリーだったな。全艦海面付近の動向に気を遣え」


 TF8司令官アルフレッド・E・モントゴメリー少将は命じた。


「了解です。太平洋戦線で消えた『ヨークタウン』『エンタープライズ』『ホーネット』のような無様は晒しませんよ」


「その心意気だ、艦長」


 クリフトン・スプレイグ「レンジャー」艦長の返答にモントゴメリーは頼もしさを感じた。この「レンジャー」はヨークタウン級空母よりも貧弱な空母であったが、この艦長の下でなら数十発の魚雷を全て回避することも可能ではないかという手応えを感じた。


 モントゴメリーは双眼鏡を使って、輪形陣の外側に視線を向けた。29機の直衛戦闘機が敵機の大群に挑みかかっていく様が確認でき、早くも黒煙を噴き出して墜落していく機体の姿も確認することができた。


 どちらが優勢かは「レンジャー」の艦上から判別できなかったが、確かなことは空戦の戦場が徐々にTF8の上空に近づいてきているということだった。


 第79駆逐隊に所属するグリーブル駆逐艦4隻――「リヴァモア」「エバール」「ケアニー」「グレイソン」が対空砲火の口火を切った。それを皮切りにして他の艦艇も対空砲火を撃ち上げ始め、TF8の上空は瞬く間に黒煙で覆い尽くされた。


「面舵一杯!」


 スプレイグは航海室に命じた。「レンジャー」は老朽化によって艦の動きが鈍くなっているため、早めの転舵が肝心であった。


 雷撃機が徐々に海面付近に降下してきた。各艦の対空砲火はその動きに追随し、2機の雷撃機が火を噴いた。


「敵雷撃機、2グループに分かれました!」


「敵機、『イラストリアス』に向かう!」


「敵機、『ヴィクトリアス』に向かう!」


 見張り員からの報告が連続して入り、スプレイグは「レンジャー」に向かってくる敵機がいないことを悟った。2グループに分かれた敵雷撃機は「レンジャー」よりも真新しい2隻の英空母に狙いを絞ったのだろう。


 「イラストリアス」「ヴィクトリアス」が転舵する。この2隻は「装甲空母」といって飛行甲板の防御力は高かったが、水線下の防御力は従来の空母並であり、是が非でも魚雷を回避する必要があった。


 まず、「イラストリアス」に向かって3機の雷撃機が投雷した。その投雷は遠距離から見ていたモントゴメリーやスプレイグから見ても及び腰の投雷であり、「イラストリアス」の艦長が故意に艦をぶつけない限りは命中しそうになかった。


「『イラストリアス』魚雷回避!」


 この後も、「イラストリアス」は魚雷を回避し続け、最終的に被雷を0に抑える事に成功したが、「ヴィクトリアス」はそうもいかなかった。


 「ヴィクトリアス」に襲い掛かった雷撃機の機数は「イラストリアス」の倍近く、それが「ヴィクトリアス」の運の尽きであった。


 「ヴィクトリアス」は放たれた魚雷の4本目までは辛うじて回避することに成功したが、直撃したのは5本目からだった。


 被雷箇所は左舷後部であり、推進軸1基が即座に使用不能になった。隣接する缶室にもおびただしい破片が飛び散り、「ヴィクトリアス」の速力はいきおい22ノットにまで低下した。


 そこに2本目が今度は右舷側に命中した。被雷の瞬間、艦体が大きく持ち上がり、多量の黒煙が被雷部より噴出した。


 「ヴィクトリアス」が更なる被雷を回避すべく艦首を左に振った。だが、魚雷2本を喰らった「ヴィクトリアス」の動きは鈍かった。


 3本目、4本目、5本目の水柱が奔騰する。懸命に回避運動を行っていた「ヴィクトリアス」は完全に動きを止め、多量の重油が周囲に広がり始めた。


 「レンジャー」の艦橋からは、「ヴィクトリアス」の様子が黒煙に妨げられてはっきりとは分からなかったが、右舷に急速に傾きつつあるようであった。


 モントゴメリーは「ヴィクトリアス」が最早助からない事を悟った。水面下に魚雷5本を喰らっては、米海軍の新鋭戦艦ですら助かるか分からず、それよりも防御力で劣る「ヴィクトリアス」が助かる道理はなかった。


「『ヴィクトリアス』総員退艦発令されました!」


「敵機、離脱します!」


 2つの報告が入り、モントゴメリーは部隊の隊列を整えるように命じた。あと最低1度はドイツ機の空襲があると考えたためであった。


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霊凰より

















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