第15話 守勢の第3帝国 戦局流転
1942年11月9日
1
「ベルリン」「ドナウ」から発進した第2次攻撃隊は、PQ21船団の輸送船に襲い掛かり、瞬く間に多数の輸送船を撃沈破した。
それに対し攻撃隊が失った戦闘機・攻撃機は5機に過ぎず、帰還してきた攻撃隊は凱歌を上げて「ベルリン」「ドナウ」に着艦してきた。
「ベルリン」「ドナウ」は今年の1月から2月にかけて竣工した新造空母であり、基準排水量18000トン、搭載機数60機を誇る。配属されたパイロットもベテランが優先的に配置されており、空母着艦の様子も危なげが無かった。
着艦時に風防の外に手を出して手を振るパイロット、飛行甲板の縁付近で機体を宙返りさせるパイロットもおり、その顔色も明るかった。
「首尾は上々のようだね? ザクセンベルク少佐?」
「ベルリン」艦長ラインハルト・ザイラー大佐は愛機のBf109T(艦載機型)から降りてきたゴットハルト・ザクセンベルク「ベルリン」戦闘機隊長に話しかけた。
「はい。米輸送船団の上空には護衛空母から発進したと思われるF4Fが30機程度いましたが、第1次攻撃隊に随伴していた27機のBf109Tで十分に押さえ込むことが出来ました」
「更に雷撃隊も戦果を挙げており、第1次攻撃では護衛空母2隻撃沈、第2次攻撃では10隻以上の輸送船を撃沈破しています」
「大いに結構。第3帝国の勢いに陰りが見えた今のような戦局にこそ、我ら空母機動部隊の力が必要になると私は信じている」
ザクセンベルクからの戦果報告を聞き、ザイラーは満足そうに頷いた。ザイラーは出撃前に、今後の空母機動部隊の戦力拡充がなされるかどうかは、この戦いの戦果次第と言い渡されており、今の所は合格点に達していると思われた。
ザクセンベルクは敵輸送船団に対する第3次攻撃隊を実施するのかを聞いてきた。ザイラーはもちろんそのつもりであり、戦隊指揮官にも既に同意を貰っていた。
だが・・・
このタイミングで、索敵に出ていた機体から緊急信が飛び込んできた。
「米空母『レンジャー』及びに、英空母と思われる艦船2隻を発見。位置はポイントDより南に100キロメートル、東に50キロメートル」
2
この時、米空母「レンジャー」、英空母「イラストリアス」「ヴィクトリアス」からなる混成部隊(第8任務部隊、正規空母3隻、巡洋艦4隻、駆逐艦28隻)は、PQ21船団からの緊急信を受け、20ノットの艦隊速度で航行していた。
TF8(第8任務部隊)司令官アルフレッド・E・モントゴメリー少将は、旗艦「レンジャー」の艦橋で幕僚達と共に今後の方針を検討していた。
「まず、PQ21船団の損害どうなっている? 船団は進撃を継続しているのか?」
モントゴメリーの問いに答えたのは通信参謀のR・P・マコーネル少佐だった。
「護衛空母『サンガモン』『スワニー』、輸送船9隻沈没。輸送船8隻撃破との報告が、護衛空母『サンティー』艦長より入ってきています。尚、撃沈破された輸送船の内、4隻が航空機用の油を満載した油槽船だったため、消火活動に手間取り、船団の速度は極端に鈍っているとの事です」
マコーネルの報告から、モントゴメリーは仮説を組み立てた。恐らく、PQ21船団を攻撃したのはドイツ空母から発進した航空機であろうと。PQ船団が攻撃された地点は大西洋のど真ん中であり、それ以外の可能性は考えにくかった。
「情報部からの報告の中に、ドイツが今年の初めに中型空母2隻を竣工させたとの情報がありました。本官はドイツに空母建造など不可能と考えていましたが、状況を鑑みるにドイツは空母の建造・訓練・実戦投入に成功したようです」
首席参謀ジョージ・R・ヘンダーソン中佐もモントゴメリーと同じ事を考えたのだろう。建造が噂されていたドイツ空母の存在について言及してきた。
「ならば、我らTF8の出番ですな」
参謀長カール・F・ホールデン大佐が意気込んだ様子で言った。索敵に出たドーントレスがドイツ艦隊を発見次第、モントゴメリーが即座に攻撃隊発進を命じる事を確信している様子であった。
「ドイツ空母が2隻出てきているとすると、その総搭載機数は100機から150機の間といった所であろう。TF8の力で撃破することが出来るかね? TF8の3空母の総搭載機数は144機だが・・・」
(良い司令官ですな。モントゴメリー少将という人物は)
敵を決して過小評価せず、現状を的確に判断しようとするモントゴメリーの姿を見て、ヘンダーソンは腹の底で呟いた。モントゴメリーは他でもないこの「レンジャー」の艦長を務めた経験があり、その時に指揮官としての素質を身につけたのかもしれなかった。
「大丈夫です。ドイツ空母はPQ21船団に対して2波に渡る航空攻撃を仕掛けた直後であり、その搭載機数は目減りしているはずです」
ヘンダーソンはモントゴメリーの背中をそっと押すように進言した。モントゴメリーもヘンダーソンの返答に満足したようであった。
そして、程なくしてドーントレスから「ドイツ空母発見」の連絡が入り、モントゴメリーは第1次攻撃隊の発進を命じたのだった。
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