第14話 守勢の第3帝国 2隻のドイツ空母

1942年11月9日


 ルール地方空襲の仕返しは、「通商破壊」という形で2日後に返された。


 ドイツ第3帝国のちょび髭総統の肝いりで建造された2隻の正規空母ベルリン級正規空母――「ベルリン」「ドナウ」から発進した2波に渡る攻撃隊が、援ソ船団であるPQ21船団に襲い掛かったのだ。


「フリッツ(ドイツ兵の蔑称)接近中!」


「取り舵一杯だ! 海軍3流国の攻撃などかわしきってやるわ!」


 PQ21船団に配属されている護衛空母の1隻――サンガモン級護衛空母「サンガモン」の艦橋で、C・W・ウィーバー艦長は獅子吼していた。


 サンガモン級はシマロン級給油艦から改装された護衛空母のクラスであり、今年の8月から相次いで4隻が竣工している。前級のボーグ級と比較すると船体が大きく、飛行甲板が大きいという特徴があった。


「艦長より砲術。対空射撃は雷撃機を優先しろ。ペラペラ装甲のサンガモン級に魚雷をぶち込まれては叶わんからな」


 ウィーバーは「サンガモン」砲術長フレッド・ハリス中佐に命じた。ハリスから即座に復唱が返され、「サンガモン」の艦上が急速に慌ただしくなってきた。


 「サンガモン」の周囲で砲声が轟く。通称護衛用に大量建造された護衛駆逐艦が一斉に対空射撃を開始したのだ。艦隊型駆逐艦よりも武装が劣る護衛駆逐艦といえど数は何と48隻であり、船団の上空はたちまち爆煙に覆われた。


 フリッツが1機、2機と火を噴く。被弾した機体の中には、何とかして態勢を整えようとした機体もあったが、それは無駄な努力というものであり、程なくして海面に叩きつけられて爆発四散していった。


 だが、全機を阻止できた訳ではなく、転舵を開始した「サンガモン」に10機以上のフリッツが殺到してきた。


「雷撃を仕掛けてくる気だな!?」


 フリッツの機動からウィーバーは敵の思惑を悟った。そもそも、よく見てみると来襲したフリッツの中に急降下爆撃機は含まれていないようであり、攻撃機は全て雷撃機のようであった。


 ハリスが「射撃開始」を命じたのだろう。「サンガモン」が自身を守るべく飛行甲板の両縁が真っ赤に染まり、対空射撃が開始された。


 5インチ砲弾、40ミリ機銃弾、20ミリ機銃弾が次々に炸裂し、1機のフリッツがプロペラを吹き飛ばされて、海面に滑り込んだ。


 それを見ていた「サンガモン」の乗員は口笛を鳴らし、ウィーバーが撃墜戦果を報告したことによって「サンガモン」艦内の士気も最高潮に達しようとしていた。


 それに応えるかのように「サンガモン」の対空火器は更に2機のフリッツを撃墜してみせた。ウィーバーもこれなら何とかなるかと思ったが、投雷を終えたフリッツが次々に離脱していった。


「全乗員! 何かに掴まれ!」


 ウィーバーは艦内放送でそう叫んだ。先程までの「海軍3流国の攻撃などかわしきってやるわ!」という強気はアメリカ本土にまで吹き飛んでおり、今は魚雷が「サンガモン」の下腹を抉らないか、間違っても弾火薬庫が誘爆しないかヒヤヒヤものであった。


「雷跡1、右舷通過! 雷跡1、左舷通過!」


「よーし! よしよし!」


 見張り員が雷跡の行方を報告し、ウィーバーは拳を握りしめる。このまま全ての雷跡が何処へと消え去ってくれると良かったのだが・・・


 「サンガモン」は突如として海面下から突き上げられた。ウィーバーは「あ、当たっちまったな」と直感したが、被雷箇所はウィーバーが想像した箇所よりも最悪の場所であった。


 「サンガモン」は、艦尾に魚雷を受け、操舵室を一撃で粉砕されたのだ。舵を失った影響で「サンガモン」は海上のメリーゴーランド状態と化し、被雷箇所からは轟々たる音と共に海水の流入が始まっていた。


 そして、そこにもう1本命中した。今度は艦首に命中したようであり、ペラペラ装甲を余裕で貫通した魚雷は「サンガモン」の艦内で炸裂した。発生した爆発エネルギーによって艦首は引きちぎれ、その報告を受けたウィーバーは決心を固めた。


「艦長より全乗員。総員上甲板、総員退艦準備だ」


「もう総員退艦ですか!?」


 ウィーバーの命令に対し、ダメージ・コントロール・チームのチーフが頓狂な声を上げた。ウィーバーの決断が余りに早いと思ったからだろう。


「馬鹿。魚雷を艦首、艦尾に1本ずつ喰らった護衛空母なんぞどうせ助からん。こんなプラモデルもどきの護衛空母を救うために命なんざ張っちゃいかんぞ」


 ウィーバーの言い草は多少乱暴ではあったが、それでもチーフは十分に納得することが出来たのだろう。敬礼し、きびすを返して上甲板へと走って行った。


「さて、全員の退艦を見届けてから俺も退艦するとするか。それまで間違っても転覆なんかするんじゃないぞ。『サンガモン』よ」


 最後にそう言ったウィーバーは、「サンガモン」の艦橋を後にしたのだった。


 こうして、「サンガモン」は沈没することになったのだが、この時打撃を受けていたのは「サンガモン」だけではなかった。


 「サンガモン」の姉妹艦に当たる「スワニー」もまた魚雷3本を喰らっており、不運な「スワニー」は弾火薬庫が誘爆し、既に轟沈していたのだった。













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