第12話 南太平洋海戦 最後の航空攻撃

1942年10月27日


 第1航空戦隊「瑞鶴」「龍驤」、第2航空戦隊「大和」「隼鷹」から発進した攻撃隊101機は、米機動部隊の残存部隊を視界に収めていた。


「雷撃隊目標、戦艦。艦爆隊目標、駆逐艦」


 攻撃隊の総指揮を務めている「大和」艦攻隊長牧秀雄大尉は直ぐさま攻撃目標を振り分け、雷撃隊を低空へと誘導した。


 1航戦の「瑞鶴」「龍驤」の艦攻隊は敵戦艦の左舷側に回り込み、2航戦の「大和」「龍驤」の艦攻隊は敵戦艦の右舷側から突撃した。


 艦攻隊の前後で、左右で閃光が閃き、爆煙が沸き立つ。敵戦艦の対空砲火は昨日の空襲と今日の金剛型戦艦「金剛」「榛名」との砲戦で大分減殺されているはずであったが、防御力が貧弱な97艦攻にとってはそれでも十分な脅威であった。


 牧は操縦桿を倒し、97艦攻が更に降下した。最早海面に手が届きそうなほどの低高度であり、牧が僅かにでも操縦をしくじれば、海面に叩きつけられる事必至であった。


 「隼鷹」隊の1機が右翼を吹き飛ばされ、もう1機がエンジン部から黒煙を噴き出した。2機が撃墜された「隼鷹」隊は総数6機の内、3分の1を投雷前に失ってしまったのだ。


 「大和」隊にも被撃墜機が出る。1機、2機、3機と櫛の歯が欠けるように97艦攻が失われ、宝石よりも貴重な9人の搭乗員が散華した。


 敵戦艦――通信傍受によって「サウスダコタ」と艦名が判明した米新鋭戦艦の動きに異変が生じた。97艦攻から放たれるであろう魚雷を回避すべく、転舵を開始したのだ。


「ちっ!!!」


 牧は鋭く舌打ちした。「サウスダコタ」の転舵によって「大和」の艦攻隊は「サウスダコタ」の艦尾から追いかける形になってしまったのだ。この状況下で投雷を強行すれば、対向面積が狭さから最悪の結果を招く可能性があった。


 ならば――牧は、操縦桿を左に倒して進路を変更した。「サウスダコタ」の艦影が右後方に流れ、「大和」隊は「サウスダコタ」の左舷側から再突撃する形となった。


 「サウスダコタ」が急拡大してくる。健在な2基の3連装主砲だけではなく、高角砲の形までもがはっきりと見えてきた。


 牧は把握していなかったが、「瑞鶴」「龍驤」隊が一足早く投雷し離脱していた。投雷に成功した97艦攻の機数は10機前後といった所であり、放たれた魚雷を回避するために「サウスダコタ」は再び転舵した。


 だが、「サウスダコタ」が転舵しきる前に右舷煙突直下、右舷後部に1本ずつ魚雷命中の水柱が奔騰した。「サウスダコタ」は熱病の発作を起こしたかのように痙攣し、牧はその瞬間を見逃さなかった。


「用意! てっ!」


の掛け声と共に、牧は投下索を引いた。重量物を切り離した反動で97艦攻の機体が浮かび上がったが、操縦桿を倒す事によって懸命に押さえつけた。


 2番機以降も次々に投雷する。「大和」「隼鷹」隊合わせて14機が投雷し、14条の雷跡が「サウスダコタ」に殺到した。


 まず、艦首付近に1本が命中する。長大な水柱が前甲板の高さを超えて伸び上がり、第1主砲塔に大量の海水が降り注いだ。


 次に左舷中央部に立て続けに2本が命中した。「サウスダコタ」の左舷中央部には実に10メートルに達する風穴が開き、そこから凄まじい量の海水が、「サウスダコタ」の艦内に流入する。


 最後の1本は艦尾に命中し、「サウスダコタ」の舵を完全に破壊した。


「4本命中!」


 偵察員席に座っていた松村務飛曹長が弾んだ声で報告した。


「決まったな」


 牧は「サウスダコタ」の沈没を確信した。「サウスダコタ」は我が軍の「長門」「陸奥」よりも強力な艦であろうが、昨日に魚雷1本を喰らい、金剛型戦艦「金剛」「榛名」から放たれた36センチ砲弾多数を喰らい、今魚雷6本を喰らった戦艦がとても浮力を保つことが出来るとは思えなかった。


 そして、牧の予想通り、程なくして「サウスダコタ」は急速に沈降を開始した。艦爆隊も敵駆逐艦6隻に直撃弾を与えて3隻は沈みつつあった。


 「サウスダコタ」はこの2時間後に海面下に姿を消し、これが1942年10月26日から1942年10月27日にかけて行われた「南太平洋海戦」の幕切れとなったのだった。


南太平洋海戦 海戦結果

日本側

沈没 駆逐艦「涼風」「巻波」

大破 戦艦「金剛」、重巡「妙高」

中破 正規空母「翔鶴」、小型空母「瑞鳳」

小破 重巡「愛宕」「摩耶」、軽巡「五十鈴」


米側

沈没 正規空母「ホーネット」「エンタープライズ」、戦艦「サウスダコタ」、重巡「ポートランド」「ノーザンプトン」、軽巡「サンディエゴ」「ジュノー」、駆逐艦8隻

大破 重巡「ペンサコラ」、軽巡「サン・ファン」、駆逐艦2隻

中破 駆逐艦1隻

小破 駆逐艦3隻


 「南太平洋海戦」の結果は以上の通りとなり、帝国海軍はミッドウェー海戦で失われた「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」の仇を取った。米海軍の動きも不活発になり、帝国陸海軍はガダルカナル島、西部ニューギニア、ラバウルからの撤収作戦を成功させ、戦線はしばらくの間停滞することになるのだった。


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これにて、第1章の「南太平洋海戦」終結です。


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霊凰より


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