第10話 南太平洋海戦 傑作重巡の力
1942年10月27日
第4戦隊、第5戦隊、第2水雷戦隊も敵巡洋艦、駆逐艦との砲戦に突入していた。
巡洋艦同士の戦いは、第4戦隊、第5戦隊が「愛宕」「妙高」「摩耶」の3隻、敵巡洋艦も3隻であり、数的には互角だった。
近藤信竹中将は「愛宕」に敵1番艦、「妙高」に敵2番艦、「摩耶」に敵3番艦への砲撃を命じ、真っ先に直撃弾を得たのは、他ならぬ近藤が座乗している「愛宕」だった。
「命中!」
「よぉっし!!!」
艦橋見張り員の歓声が「愛宕」の艦橋に飛び込み、伊集院松治「愛宕」艦長は拳を天に突き上げ、満足の声を上げた。
敵1番艦から放たれた20センチ砲弾が飛来する。1発が「愛宕」の右舷側、2発が左舷側に落下し、そそりたつ水柱が艦橋からの視界をさえぎった。
「機関より艦橋。2番缶室に浸水発生!」
「速力維持に支障はないか!」
「速力維持に支障無し! 本艦続けて33ノットで航行中!」
伊集院は機関室に確認を取り状況を確認した。速力低下は発生していないようであり、伊集院は胸をなで下ろした。
「愛宕」は斉射に移行し、これまでに倍する砲声が轟いた。「愛宕」は第1斉射を放ち、基準排水量11350トンの巨体が右舷側に傾いだ。
「『妙高』被弾! 火災発生!」
ここで僚艦の被弾が報告された。敵2番艦と撃ち合っている「妙高」は先手を取ること叶わず、先に被弾してしまったようであった。
「弾着、今!」
の報告が上がり、伊集院は敵1番艦を見た。敵1番艦の周囲に多数の水柱が奔騰し、その奥に2つの爆発光が確認された。
敵1番艦の鋭い艦首が水柱を断ち割り、敵1番艦が姿を現す。
敵1番艦は艦の前部に集中的に被弾しているようであり、黒煙は艦の前部から絶え間なく噴出していた。敵1番艦の詳しい被害状況は分からなかったが、主砲塔の1基程度は潰したと伊集院は確信していた。
「愛宕」が装填を待つ間、敵1番艦から放たれた射弾が飛来した。
着弾の瞬間、主砲斉射時のそれとは明らかに異なる衝撃が「愛宕」を襲った。機械的な破壊音が響き、伊集院は壁に寄りかかって自らの体を支えた。
「第3高角砲損傷!」
砲術長が報告し、被害状況が明らかになった。たった今「愛宕」を襲った20センチ砲弾は艦橋直下に配備されている12.7センチ連装高角砲を直撃し、スクラップへと変貌させたのだった。
「主砲さえ無事なら、他は全て軽傷だ!」
伊集院は自らの胸中の思いを叫び、それに答えるかのように「愛宕」は第2斉射を放つ。
後方からも強烈な砲声が聞こえてきた。「愛宕」に続き「妙高」か「摩耶」のどちらかが敵巡洋艦に命中弾を与え、斉射に移行したのだろう。
敵1番艦も斉射に移行した。だが、発射炎は艦の中央部、後部からのみであり、艦の前部に配置されている第1主砲は沈黙していた。やはり、先程の「愛宕」の第1世射弾は、伊集院の手応え通り、敵1番艦の主砲塔1基を粉砕していたのだ。
「愛宕」の第2斉射弾が、敵1番艦を捉える。
10発の20センチ砲弾の内、9発までは海面を叩くだけで終わったが、1発が命中した。命中箇所は艦橋の上部であり、敵1番艦の艦橋はその高さが3分の2まで減少していた。
敵1番艦の射撃間隔が間延びし始めた。艦橋への直撃弾によって艦長か砲術長のどちらか、あるいは両方が戦死して指揮系統に支障を来しているのだろう。
射撃間隔が間延びする前に、敵1番艦が放った20センチ砲弾が「愛宕」に2発命中した。「愛宕」の第3主砲が衝撃によって旋回不能となり、「愛宕」の主砲火力は2割が失われた。
だが、被弾に怯むことなく「愛宕」は畳みかけた。「愛宕」が放った第3斉射弾は敵1番艦の艦首に直撃した。敵1番艦の艦首は非装甲部だったため、直撃した20センチ砲弾は貫通し、水線下で炸裂した。
敵1番艦の姿が何重にもぶれ、30ノット以上は出ていたであろう速力が急激に低下した。度重なる被弾によって敵1番艦は射撃不能となっているようであり、「愛宕」に飛翔してくる敵弾はいつしかなくなっていた。
敵1番艦の速力低下を考慮して弾着修正がなされ、更に3発の直撃弾が出たところで伊集院は「射撃中止」を命じた。
敵1番艦は完全に停止しており、右舷側に大きく傾いていた。火災煙は艦数カ所から絶え間なく噴出しており、艦底部からは重油が漏れ出していた。
敵1番艦が完全に戦闘・航行不能になり、沈没を待つだけの鉄屑に凋落したことは明らかであった。
そして、敵1番艦だけではない。
「摩耶」と撃ち合っていた敵3番艦も艦底部を集中的に痛めつけられており、隊列から落伍しかかっている。「愛宕」「妙高」「摩耶」は敵巡洋艦との砲戦にあと1歩で勝利出来る所まで来ていた。
(流石だな。帝国海軍の巡洋艦戦隊は)
司令長官席でじっと座っていた近藤は改めて明らかになった帝国海軍巡洋艦戦隊の強さに感嘆していた。高雄型・妙高型といったクラスは米海軍が近年竣工させている新鋭巡洋艦よりも1世代前のクラスだが、それでも米海軍の巡洋艦を圧倒する実力を有しているのだ。
見事としか言いようがなかった。近藤は満足な表情を浮かべた。
だが、新たに飛び込んできた凶報が、近藤を青ざめさせたのは次の瞬間だった。
「『金剛』大火災!」
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