第1章 南太平洋海戦
第2話 南太平洋海戦 攻撃隊発進
1942年10月26日
超空母「大和」の初陣の機会は、1942年10月26日にやってきた。
ガダルカナル島で絶賛苦戦中の陸軍を救うべく、連合艦隊(GF)司令部は第2艦隊及び第3艦隊の派遣を決定し、それを迎撃すべく米海軍も空母2隻からなる空母機動部隊を派遣し、ここに史上3度目となる空母対空母の決戦が行われる事が決定的となったのだ。
両軍は互いに索敵機を発進させ、午前4時50分に「翔鶴」から発進した97艦攻が敵機動部隊の1群を発見した。
3艦隊司令長官南雲忠一中将は即座に「第1次攻撃隊発進」を命じ、「翔鶴」「瑞鶴」「瑞鳳」「龍驤」の4空母から第1次攻撃隊が発進していった。
第1次攻撃隊
「翔鶴」 零戦4機 97艦攻20機
「瑞鶴」 零戦8機 99艦爆21機
「瑞鳳」 零戦9機
「龍驤」 零戦9機
そして、敵艦隊発見の報告は第2艦隊にも伝えられ、第2航空戦隊の「大和」「隼鷹」からも第1次攻撃隊が発進していった。2航戦には本来「飛鷹」も所属しているが、機関故障によって「飛鷹」はこの海戦に参加していない。
第1次攻撃隊
「大和」 零戦27機 99艦爆27機
「隼鷹」 零戦12機 99艦爆17機
その後、米軍偵察機の奇襲によって「瑞鳳」が発着艦不能に陥るというというアクシデントがあったが、「翔鶴」「瑞鶴」「龍驤」「大和」「隼鷹」は第2次攻撃隊が出撃し、米機動部隊も約150機からなる攻撃隊を2波に分けて3艦隊に差し向けていた。
そして、これらの中で一番最初に目標を捉えたのは、3艦隊から発進した第1次攻撃隊だった。
「村田一番より全機。前方に敵機多数!」
第1次攻撃隊の総指揮官を務めている村田重治少佐の声が、「瑞鶴」戦闘機隊隊長佐藤正夫大尉が搭乗する零戦の機上レシーバーに響いたのは、目標までの距離が30海里まで迫った時であった。
「来たな。『赤城』や『蒼龍』の無念を晴らしてやるよ!」
佐藤は闘争心を剥き出しにし、前方を凝視した。
黒点の数が徐々に増え、それが徐々に飛行機の形を整える。米海軍の主力戦闘機であるF4F「ワイルドキャット」で間違いないだろう。
機数はこっち側の零戦の総数を上回っているようであり、F4Fが一斉に加速し、攻撃隊との距離を詰めてきた。
「いくぞ! 『瑞鶴』零戦隊!」
佐藤は下令し、8機の零戦が一斉にエンジン・スロットルをフルに開いた。零戦の華奢な機体が急加速し、体が僅かに後方に仰け反った。
F4Fの両翼に発射炎が閃いた。数十条、いやひょっとしたら100条に迫ろうかという火箭が零戦隊目がけて殺到してきたが、零戦は既にそこにはいなかった。
佐藤も急旋回によって敵弾を回避しており、後方に位置していた1機のF4Fに狙いを定めた。
F4Fの搭乗員は佐藤機の接近に気がついたのだろう、F4Fの太い胴体が右に左にと振れ、狙いを狂わせようとしてきたが、佐藤は迷うことなく7.7ミリ機銃の発射把柄を握り、7.7ミリ弾が放たれていた。
7.7ミリ弾は狙い過たずF4Fの機体に吸い込まれ、F4Fの機体が大きくグラついた。そこに追い打ちと言わんばかりに佐藤は機銃の発射レバーを切り替え、20ミリ機銃を発射した。
20ミリ弾は直進性に欠け、命中率は良好とは言えなかったが、この時は狙いのF4Fは既に手負いであったため、発射された20ミリ弾の半数以上がF4Fに命中した。
F4Fはエンジン部を粉砕されたのだろう、盛大に黒煙を噴き出しながら佐藤の視界から消えていった。
佐藤が1機撃墜の戦果を挙げた時には、空中戦は乱戦の様相を呈しており、「翔鶴」「瑞鳳」「龍驤」の各零戦隊も艦爆隊、艦攻隊を守るために大いに奮戦していた。
99艦爆の編隊目がけて突進していたF4Fが、横から零戦の銃撃を浴びせられ撃墜されるが、その零戦も後ろから襲い掛かってきたF4Fによって撃墜される。
佐藤機にも2機のF4Fが突っ込んできた。
F4Fの両翼に発射炎が閃く直前、佐藤は反射的に操縦桿を左に倒した。迫り来る火箭は全て零戦の下腹を通過してゆき、その機動をなぞるようにしてF4Fが通過していった。
「あらよっと!」
佐藤は掛け声と共にフットバーを踏み込み、零戦の機体が回転した。佐藤の視界が一回転し、それが終わった時、佐藤の零戦はF4Fの後方を占位していた。
何が起こったのか分からなかったのだろう。搭乗員が動揺したF4Fの動きが明らかに鈍くなり、佐藤がその隙を逃すことはなかった。
放たれた7.7ミリ弾はF4Fの風防を木っ端微塵に撃ち砕いた。コックピット内が血の泥濘に染まり、そのF4Fは黒煙を噴き出すことなく墜落していった。
艦爆隊、艦攻隊が速力を上げた。佐藤達がF4Fと渡り合っている間に、空戦の戦場は敵機動部隊の上空へと移動していたのだろう。
艦爆隊、艦攻隊が輪形陣に次々に突入を開始しようとしており、それを見届けた佐藤はF4Fとの更なる戦いに身を投じていったのだった・・・
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2023年9月12日 霊凰より
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