超空母「大和」「武蔵」「信濃」奮戦録

霊凰

第1話 超空母「大和」竣工

1942年8月


 視界にその艦が入ってきた瞬間、牧秀雄大尉は目を見張った。


 全長、最大幅が異常なまでに大きい艦だ。「赤城」――牧が2ヶ月前まで配属されており、ミッドウェー海戦で失われた帝国海軍最大級の空母と比較しても際だっている。


「どうみる? 松村」


「凄いでかい艦ですね。『翔鶴』『瑞鶴』で間違って違う艦に着艦してしまうパイロットがいたとの事でしたが、この艦に限ってそれはないでしょう」


 牧の問いに対し、97艦攻の偵察員席に座っていた松村務飛曹長が言った。


 牧は操縦桿を前に倒し、牧機は高度を下げ始め、母艦の飛行甲板が急速に拡大してきた。牧機の後ろには26機の97艦攻が後続しており、それらも順次高度を下げ始める。


 着艦時に事故が起こることはなく、3個中隊27機の97艦攻は無事に母艦に足を降ろした。「暑いな」と牧は小さく呟き、そこにこの艦の艦長である有賀幸作大佐が近づいてきた。


 81名の搭乗員が1列に整列し、牧は有賀に対して報告を行った。


「報告します。牧大尉以下97艦攻搭乗員81名。只今『大和』に着任しました」


「ご苦労。歴戦の勇者達の着任を歓迎する。『大和』へようこそ」


 牧の敬礼に対し、有賀は答礼を返し、牧以外の80名は解散を命じられた。


「・・・それにしても、『大和』が空母として竣工するとは夢にも思わなかったな」


 2人だけが残った飛行甲板上で、有賀は呟き、『大和』が辿った数奇な運命に思いを馳せていた。


 元々、「大和」は46センチクラスの主砲多数を搭載した巨大戦艦として竣工するはずだった。だが、連合艦隊司令長官山本五十六大将以下の所謂「航空主兵派」が「大和」の空母改装と、今後の戦艦建造の完全中止を強硬に主張し、紆余曲折を末、「大和」の空母改装が実現したのだ。


 空母として竣工した「大和」の搭載機数は常用機が零戦54機、99艦爆27機、97艦攻27機、補用機が3機種各3機づつであり、その巨体に相応しい搭載機数となっていた。


「ですが、今の戦局を鑑みるに、『大和』が戦艦としてではなく、空母として竣工したのは僥倖でしたな」


 牧は言った。2ヶ月前のミッドウェー海戦で空母4隻――「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」が失われた今、「大和」の存在は正しく「窮すれば通ず」であった。


「貴官の言うとおりだ。ミッドウェー沖に4隻の空母が潰えた今、『大和』が今後帝国海軍の機動部隊の中心に据えられる事は確実だ。『大和』艦長としては貴官達が一日でも早く『大和』に慣れてくる事を望む」


 有賀は言葉を続けた。


「機動部隊の新体制について既に聞かされていると思うが、本艦は商船改造空母の『隼鷹』『飛鷹』と共に第2航空戦隊を編制する。そして、2航戦は第2艦隊に配属される予定になっている」


 牧は頷いた。


 ミッドウェー海戦後に発足した機動部隊の新体制についてはおよそ2週間前に聞かされていた。


 空母機動部隊は第3艦隊として建制化され、第1航空戦隊の正規空母「翔鶴」「瑞鶴」、小型空母「瑞鳳」「龍驤」を基幹戦力とし、護衛艦艇として「比叡」「霧島」の2戦艦と巡洋艦6隻、駆逐艦12隻が配されている。


「なぜ、『大和』『隼鷹』『飛鷹』からなる2航戦は砲戦部隊である2艦隊に配属されたのですか? 2航戦は3艦隊に配属した方が戦力の集中という意味で非常に好ましいと考えますが」


「そのような意見もあったが、却下された。連合艦隊司令部はミッドウェー海戦の戦訓を鑑みて、空母の集中配備を嫌ったのだろう」


 有賀は牧の質問に答えた。


「それにしても、基準排水量6万トン越えの艦体に搭載機数108機というのはいささか少なく感じますな。3艦隊の『翔鶴』『瑞鶴』が基準排水量25000トンで搭載機数80機弱ということを考えると、『大和』には200機搭載できてもおかしくないと思います」


 有賀が笑いながら答えた。


「『大和』は一応最初は戦艦として建造が始まった艦だからな。そのせいで格納甲板に使える空間にも限りがある。もし、『大和』が最初から空母として設計されていたら、搭載機数200機とは言わずとも、搭載機数150機程度は可能だったかもしれんがな」


「成程。確かに『翔鶴』『瑞鶴』は最初から空母として設計された艦ですからね」


 牧は納得した。


「だが、この『大和』には『翔鶴』『瑞鶴』にはない立派な長所があるぞ。飛行甲板には20ミリDS板と75ミリCNC甲鈑からなる防御装甲が張り巡らされており、爆弾命中の2発や3発は問題にならない。そして、水線下の防御力も突出しており、魚雷1~2本ではほとんど速力低下もないように設計されている。この『大和』は正しく世界最硬の空母だよ」


 「大和」の防御力が我が事のように誇らしいのだろう。そういった有賀は胸を張った。


「頼もしい限りですな。帰還時に母艦が浮かんでいるというのは、我々搭乗員にとっては何よりも有り難いことですから」


 牧は最後にそう言ったのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

しばらく失踪していましたが、新作連載開始したいと思います。


今回は「大和」を空母化し、活躍させてみたいと思います。


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2023年9月11日 霊凰より
















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