第12話 宿の主人ロバート
今から服を脱がして治療するってことで、部屋から追い出された。
「おーい、ユバ。心配すんな。ギルミーはこの国でも有数の医者だ。解毒剤も飲ませて、あいつの腕でも治せないなら、それはもう運が悪いってことだ。だから自分を責めるな」
俺は宿の一階で、客の動線からは外れた従業員用の部屋でご飯を待っていた。
厨房からは慌ただしく働く従業員の声に混じって、一際でかい声が。あれはチルの父親、
ロバートの声だ。
「そろそろ出来るからなー待っとけ! だけどお前が
さすが元は魔王討伐パーティを率いていたロバート。
俺の気持ちをよく分かってくれている。しかしあんな大声で叫ばれたら、俺が
だけど、チルの父親ロバートはその辺の細かいことは気にしない男なんだ。
「メデルに、アンナに、ミキに、レレに、ルン。うちは魔王討伐パーティを優先して泊めてるが、アイツらほど面倒な客はいなかった……。特にレレなんて……飯がまずいとか年頃の女の子はこんなに食べないとか言って、隠れてうちの料理ゴミ箱に捨てたりしただろ。あの時、レレを殴らなかった自分を今でも褒めてやりたいぜ。あ、でも苦労しているユバの姿を見るのは全体的に楽しかったな! 店の奴らはいつお前の胃に穴が開くか賭けてる奴もいたぐらいだぜ?」
ああ、嬉しい。俺の苦労をわかってくれる人がいることが……。
まあ、とんがり帽子レレの偏食はひどいからな……しかし、レレ。ご飯をゴミ箱に捨てるとかそんなことしてたのか……知らなかった……。
「よーし! 出来た! 今、持っていくからなー待っとけ! お前が好きだった野菜炒め! ニンニクも入れといたぞ!」
――え。出来ればニンニクは遠慮させて欲しかった……。匂いがな……。
さて。俺がレイン峡谷から移転した場所は、ラニスターと呼ばれる国だった。
大陸中央にドカンと構える巨大国家で、中央に位置する国家としてのメリットを最大限に享受して、発展を続けている。それは例えば周辺国家との交通や物流の拠点としての優位性だ、他にも交通網の中心として他国の商業や文化を吸収し、国の発展に繋げている。
規模としては
「ほら、食え。たっぷり食べろ。新しい魔法を得た直後なんだろ。頬がこけてるからな、魔法持ちの俺やギルミーの目は誤魔化せねえぞ。しばらく気絶してただろ?」
ロバートが持ってきてくれた料理が机に置かれる。
熱気と香りが漂ってきて、お腹がぐうと鳴った。
「従業員用の
「いただきます」
「おう! 食え!」
煮込まれた肉、野菜のスープ、パン、そして目についたのが野菜炒め。
俺が好きな緑黄色野菜のブロッコリーやピーマン、オレンジ色のニンジン、そして白菜や玉ねぎが一緒に炒められ、しゃきしゃきとした食感が口の中で広がる。
たまらないのは、この店オリジナルのソースがピリ辛で最高。さらに炒められたにんにくの香り……こいつが野菜の甘みを引き立てて、食欲をそそるんだ。
ガツガツとロバートの作ってくれたご飯を食べていると。
「で。お前はなんの魔法を得た? 俺は好奇心旺盛の男だからな。
俺は突然、血だらけの女の子を抱えてこの宿
「
俺の言葉を聞いて、ロバートは子供のように顔を輝かせた。
「やっぱり転移か! すげえじゃねえか、やったなユバ!」
ロバートは身を乗り出した。満面の笑み。
ロバートの顔は普段、鋭く引き締まっている。
厳つい印象を与えることもあるが、笑顔を見せるとその印象は一変するんだ。その瞬間、ロバートの顔は明るく柔らかい印象を与え、人懐っこさが感じられる。
この男性ロバートが俺が移転した宿の代表であり、チルの父親だ。
「転移の魔法持ちは貴重でどんな仕事でも重宝される! 勿論、魔王討伐パーティだけじゃなく、全ての生業で役に立つ! ユバ、お前も知らねえわけじゃねえだろ!」
ロバートの顔は興奮で
元魔王討伐パーティを率いていたからこそ、転移の有用性を誰よりも理解しているのだ。
「転移は高えからなあ……」
ロバートは昔、魔王討伐パーティを率いていたが怪我で引退して、今は宿の経営を生業にしている。この宿を世界一にするって夢がある、相当な野心家だ。
「しかも、だ。パーティ全員を移転させるとなると恐ろしい出費だからな。何度借金をしたことか……」
でも特徴すべきはロバートのその若さだ。チルは今15歳ぐらいだと思うけど、この人はまだ30歳を少し過ぎたばかりって聞いていた。
その若々しい外見や鍛え抜かれた体つき、そして健康には気をつけているようで、血気盛んな20代後半にしか見えない。
これで年頃の娘がいるなんて……信じられないって。
そしてご飯を食べ終わるぐらいだった。
俺を呼ぶために、ギルミーさんとチルが1階に降りてきた。
あの子の治療が終わったのだ。
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