第13話 魔王討伐ギルドを脱退しよう

 ラニスター王都にある巨大建造物の中で、俺は待合椅子に座り順番を待っていた。


「27番でお待ちのかた〜、Aの受付へ〜」

「36番でお待ちのかた〜、Cの受付へ〜」

 心が落ち着いている理由はあの子が助かったからだ。 

 ギルミーさんによれば猛毒を持つ死の蜘蛛デッドリー・スパイダーの毒も鎮静化し、お腹の傷の跡も残らないという。死にかけたことによる精神的ショックが心配だけど、一日も寝れば意識を取り戻すだろうとのことだった。

 さすがB級の回復魔法。


 治療費用が心配だったけど、ギルミーさんは無料にしてくれるらしい。

 7月の反乱ジュライ・リバーではいつも妹のミキがお世話になっていたからとの理由で。手切金も使い切ったし、今の俺は一文無しに近いからありがたかった。

 常に7月の反乱ジュライ・リバーへ貢いでいたからな……。


 しかし医者のギルミーさんと呪われた盾持ちシールダーのミキは、性格から外見に至るまで何もかもが違う。特に性格は真反対で、ギルミーさんによれば、余りにも性格が違いすぎて喧嘩にもならないらしい。お互いに勝手にしろ、ってタイプとのことで。


 

「56番でお待ちのかた〜、Aの受付へ〜」

「75番でお待ちのかた〜、Cの受付へ〜」

 さて、俺がいる場所は魔王討伐パーティをサポートするために組織された魔王討伐ギルドである。ラニスター王都の中心、目立つ一等地でその権力を誇示している高い建物の1階ロビーで、俺の数字である99番が呼ばれる瞬間を待っていた。


 目的は――魔王討伐ギルドからの脱退だ。


 この世界には国家と同じぐらいの権力を持つ巨大な組織が幾つも存在している。

 それは魔王討伐ギルドであったり、悪名高い盗賊団だったり、魔法の指輪を研究する学術都市だったりと様々だ。


 だけど、俺は積極的に魔王討伐を望んでいた訳じゃない。ただ、7月の反乱ジュライ・リバーに求められたからギルドに参加していた消極派なのだ。


「おい。あれ、7月の反乱ジュライ・リバーのユバだ……」

「どうしてラニスターに? あいつ、サンジャ国にいるはずじゃ……移転の魔法で戻って来たのか?」

 

 そして俺が7月の反乱ジュライ・リバーを脱退したとの噂が、他国のラニスターまで伝わっている理由はこの魔王討伐ギルドにある。


「あれはユバだ! 7月の反乱ジュライ・リバーを脱退して今はフリーだろ? うちのパーティに入ってもらえるよう、声をかけないか?」

「ユバだ……アイツ、7月の反乱ジュライ・リバー面々の世話で、年がら年中胃腸薬が手放せないって話だぜ……」


 一定以上の規模の街には必ずこのような魔王討伐ギルドが存在する。

 魔王討伐ギルドは各国が力を合わせて運営している国と国の境目を超越した組織であり、ギルドに所属しているメンバーは常に命を失う危険を負いながら旅を続けている。


 メンバーの誰かが冒険の途中で死んだとか、誰かがパーティを抜けて新しいパーティメンバーを探したいとか、そんな情報が世界中の魔王討伐ギルドですぐに共有される様システムが組まれているのだ。


 そして7月の反乱ジュライ・リバーの場合は、だ。

 ユバが自分から抜けたという情報が各国の魔王討伐ギルドに共有され、ギルド所属メンバーの間で噂として広まっていた。

 多分、リーダーの聖騎士メデルあたりがギルドに俺の脱退を報告したんだろう。


 しかし7月の反乱ジュライ・リバーの奴らなあ。あいつら、俺を勝手な理由で追放したくせに……俺が自らの意志で抜けたことになってるのはどういうわけだよ。

 別にいいけどさ……。


「99番でお待ちのかた〜、Aの受付へ〜」

 俺の番号が呼ばれた。すくっと立ち上がり、Aと書かれた受付に向かう。

 ガラスで区切られた席の向こうには制服に身を包んだ女性が一人。


「えっと7月の反乱ジュライ・リバーのユバ・ノーフェルン様。あ! 失礼いたしました。もう7月の反乱ジュライ・リバーを脱退していらっしゃるのですね! それで本日はどのようなご要件で……新しいパーティの紹介などでしょうか? それでしたら、今ラニスターで話題になっているパーティがありまして!」

 新しいパーティの紹介? いやいや、勘弁してくれよ


「実は怪我をしちゃいまして……魔王討伐ギルドを抜けようと思います!」

 おっと。思わず声がうわずんでしまった。


 だけど……胸に広がるこの充実感はなんだ? 

 ギルドを抜けると伝えた瞬間から、身体から力が抜けていくような。

 ああ、俺……本当はこのギルド抜けたかったんだなあと、痛感した。


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