第11話 医者ギルミー

 一瞬にして転移で切り替わる光景。

 7月の反乱ジュライ・リバーの元仲間。呪われた盾持ちミキの姉が経営する小さな診療所はさっき転移した宿と同じ町に存在する。そこへ、俺は転移したのだ。


「へ…………ゆ、ユバ? ユバ、だよな?」

「ご無沙汰しています、ギルミーさん」


 室内には大きな木製のテーブルがあり、壁際に置かれた棚には医療器具や薬が整然と並べられていた。部屋の奥には小さな手洗い場、壁には手書きの看板が掛けられていた。

 その看板には「ギルミーの診療所」と書かれていた。

 ギルミーさんの丁寧な診療と高い等級の回復魔法が売りの診療所だ。


「ああ……確かにご無沙汰しているが……転移の魔法か……? それ以外に考えられないが……ど、どうした? また面倒ごとか? 馬鹿妹がまた何かやったか……?」

 いつも冷静なギルミーさんが流石に驚いている。

 そりゃあ、そうだよな。突然、俺が目の前に現れたらそうなるだろう。今は休憩時間なのだろう、薄い白衣が着込みながら、椅子に座りコーヒを飲んで机には雑誌が広がっている。


「ギルミーさん、患者が……今にも死にそうな女の子がいます。猛毒を持つ死の蜘蛛デッドリー・スパイダーの毒を受けただけじゃなくて、お腹からかなりの出血があって――俺にはどうすることも出来ません。だから来てください」

「えーと……まずはお前が落ち着け……患者はどこに? 7月の反乱ジュライ・リバーの誰かか? まさか私の妹のミキか? あいつ、また馬鹿な真似をしでかしたんじゃないだろうな!」

「ついてきてください!」

 とりあえず俺はギルミーさんの腕を掴んで。

「ついていくが、どうして私の腕を掴む必要がある? セクハラだぞ」

転移テレポ


 そして、俺は再び宿の3階にある自室に戻った。

 俺に腕を掴まれたままのギルミーさんは、余りの衝撃に飲みかけだったコーヒーカップを床に落とす。

 絨毯を引いてなくてよかった。きっと染みになっていただろうから。


「……転移の魔法か。お……おい。ユバ。お前、何級の転移の魔法を得た? 私が持つ回復と同じB級……か? いや、B級の転移魔法をもった過去の偉人といえど……ここまでのものとは……」

 さすがギルミーさん。

 高い等級の回復魔法を持つ彼女は、俺が行った転移の異常性にすぐ気づいたようだった。だが、そんなギルミーさんの問いかけを邪魔する存在が――。


「う、うわあああああああ。またユバさん帰ってきたああ! しかも今度はギルミーさん連れて! ねえ、どうやったの!? 神様にでもなったの??」

 自分でも驚いているよ。S級の転移魔法。半端なすぎる。

 そこでギルミーさんがベッドに寝かした女の子に気づいて、一瞬で医者の顔つきに。


「「猛毒を持つ死の蜘蛛デッドリー・スパイダーの毒に、腹部から激しい出血。アンナやレレの時よりもひどいな。ユバ、解毒剤は飲ませたってことで良いんだな?」

 そして脇の机の上に置かれた空になった解毒剤に気付き。


「飲ませているか。相変わらず手際が良いなユバ。7月の反乱ジュライ・リバーにお前みたいな男がいてよかったよ……それでチル、止血処理はどこまでやった――?」

「え、えっと! はい! 止血処理は、やりました!」

「そうか、じゃあ次は沸騰させたお湯を持って来い! 後は大量のタオルを! 勿論、清潔なやつだぞ!」

 テキパキとチルに指示を出す医者のギルミーさん。


「ここからは私の仕事だからユバ、お前は休んでおけ。ひどい顔をしているぞ」

 そこから先は俺のやることは無くなった。

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