第3話 奴隷市場を見つける
雨に打たれながら、歩いている。
背中を丸めて、外套のポケットに両手を突っ込んだ。
聖騎士メデルから受け取った金の感触が右手から伝わる。
「……」
彼女達からは好かれてると思っていた。
数年も一緒に旅をしたんだ。
旅の道中で予定にない凶悪なモンスターに襲われることだってあったし、人に騙されて一文無しになったこともある。その度に助け合って――頭を振って思い出を消す。
結局、あいつらは俺から巻き上げるだけ巻きあげて、関係は終わった。
「……」
聖騎士メデル、司教アンナ、盾持ちミキ、とんがり帽子レレ、行き遅れ確定のルン姉。
もう二度と顔も見たくない。なんの縁も持ちたくない。
天使に願う魔法は決まっていた。
早く街を離れて、天級の指輪を使ってしまおう。
寂れた町の中心部に足を踏み入れたかと思うと、雨がさらに強くなった。
町の人々は戸締まりをして、それぞれ建物の中に逃げ込んでいく。窓からは明かりが漏れ、窓を覗き込めば人々が暮らしている様子が見えるんだろう。
小雨がさらに強くなると、街路に店を構える露天商から。
「おおい、あんた! こいつは本降りになるぞ! 傘、売ってやろうか!?」
「……」
俺はポケットに突っ込んだ右手から、金貨を一枚取り出して、露天商に渡した。
「釣りはいらない」
「ウハ! なんて日だありがてえ! 兄さん! あんた、今日はでっかい幸運に見舞われるぜっ!」
だけど露天商から受け取った傘はボロボロだった。
傘はすでに破れており、少し歩くと雨水が漏れてきた。
どこがでっかい幸運だよ、ふざけんな。
さっきから不運しか起きないじゃんか。
「……はあ」
俺はため息をついて、道の脇に傘を捨てた。
雨に打たれながら再び歩き始める。
骨の髄まで濡れていたが、気にもならない。
早く町から出て、俺に魔法を与えてくれる天使を呼び出したかった。
俺はいつかあいつらのために使ってやろうと思って、ノーフェルン家から飛び出す際に盗んでいた天下の逸品、天級の指輪の存在を。
魔王と戦う時に、誰かが瀕死の傷を受けるだろうことは予想に難しくない。
だから、その時に使ってやろうと思っていた。
俺は仲間をびっくりさせてやろうと思って――もう止めよう。虚しいだけだ。
もうすぐ、町の入り口に辿り着く。
天使を呼び出すのに安全地帯の町を出て、モンスターが出るかもしれないレイン峡谷地帯に逆戻りするんだ。それは愚かな行為と笑われるだろうけど、それでよかった。
「……」
町の中にいればあいつらと出会う可能性がある。それだけは避けたかった。
もう二度と彼女たちの顔を見たくなかった。
「奴隷だ! 活気ある奴隷が4人! まずは1人目! 見てくれ、この盛り上がる筋肉を! 本人は語らねえが、かつては名のある戦士だったことは間違いねえ! 掘り出しもんだ! 剣闘士として育ててもよし! 護衛にしても良しの逸品だぞ!」
その声が聞こえてきた建物は古く、看板は錆びついていた。
もう夜の遅い時間だ、町の店はほとんど閉まっており、人通りも少ない。
「……」
俺は立ち止まった。
髪や服から雨を滴らせながら、大きく息を吸って、建物の中に入る。
「さあさあ2人目の紹介はこいつだ!」
美しく装飾された壇上に4人の男女が並べられていて、中には子供の姿もあった。奴隷たちは、縄で縛られ膝まづいている。
「背は大人の半分のチビだが、れっきとした成人だ! さっきの奴と違って戦闘には役立たないかもしれないが、こいつには教養がある! どこかの知識人の従者として長年世話をしてきたらしいが、知識人顔負けの――」
建物の中には、夜だと言うのに大勢の人々が集まっていた。
買い手たちは壇上の奴隷たちを眺め、自分の財布と睨めっこしているようだ。
「……」
俺は深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
ポケットに突っ込んだ右手から感じる感触、こいつの使い道が決まった。
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