第40話 僕は恋人です
飛行機から窓の外を眺める。そこには雲の波と、太陽がまぶしく照らしている。
窓の外は平和だった。
「雄一郎さんは、水曜日朝一の飛行機で北海道に着いて、そこからセミナーの方の迎えの車に乗り病院へと向かったの。何度も北海道に行ってるらしいけど、いつもと変わらない行動だった。
そしたらね、突然車が横から急発進してきてぶつかって、車ごと横転……。
すぐに病院に運ばれたんだけど、雄一郎さんの意識はなく、大変危険な状態だった。
もちろん家族にはすぐに連絡がいって、会長さんの耳に入った。会長は、知ってすぐに海斗にも連絡しようと何度も電話をかけてくれてたそうなんだけど、あなたが研修に行っているなんてことは知らなかったみたいで、ずっとあなたからの折り返し連絡を待ってたんだって。
金曜日、海斗から返信がないことで、初めてさくら園に連絡が来たの。
雄一郎さんのことを聞いてすぐに海斗に連絡を取ろうと私もしたけど、あと24時間ある研修、いま切り上げて北海道に向かっても、残りの研修を受けてから北海道に向かってもどっちにしろ海斗は、雄一郎さんの顔を見ることもそばにいくこともできないって、会長から言われたわ。
家族じゃない海斗は、面会謝絶の病室には入れないんですって。
だから会長と話して、研修を終えてから雄一郎さんのことを教えようということにしたの。
今朝まで、雄一郎さんの状態は落ち着いていたわ。だから大丈夫、間に合うって聞いてたんだけど、昼に連絡があって、雄一郎さんの状態が悪くなったって。
危篤状態にあるって言われたの。
雄一郎さんが一番会いたいのは海斗だろうから、だからそばに行ってあげて。会えないかもしれないけど、出来る限り近くに居てあげて。ね。」
外を眺めながらおれは涙が止まらなかった。
事故は水曜日の朝か……
俺のスニーカーの紐が切れた時だよな……
嫌な予感したんだ
あのとき。
雄一郎! 雄一郎!雄一郎!
愛してる
愛してる
愛してる
頼むから俺を1人にしないでくれ……
空港に着きすぐにタクシーに乗った
病院に着くなり俺はダッシュで総合受付に行った。
「成瀬雄一郎の病室はどこですか?どこにいけば会えますか?教えてください!」
「成瀬雄一郎さん……ですか?
失礼ですがあなたは?」
「落合海斗です」
「おちあい……あのご関係性は?」
「恋人です」
「え……?フフフ。マスコミの方かなんかですか?
成瀬さんは男性ですよ。恋人なんて……
あの、嘘ならもう少しマシな嘘をつかれたらどうですか?
申し訳ありませんが、ご家族以外の方にはご案内できませんのでお引き取りください」
完璧にニセモノ彼氏だと思われてしまった……。
あぁ、これか……。
『パートナーシップ制度でいいから結婚しよう』
ってあれだけ雄一郎がこだわっていた問題は
これなんだな……。クククッ……。
笑えてくるぜ。
俺はどれだけ愚かだったんだろう
プロポーズを受けてたら
俺は今ごろ雄一郎の横に居れたのに……
「俺のことは成瀬の家族みんなが知っています!
どうか雄一郎の場所を教えてください!
成瀬の家族に連絡してください!俺がいまここにいると!早く!」
「え……そう言われましても……」
受付2人の女性は目を合わせ考えている。
「すみません、規則なので出来ません。
面会のためにこちらから家族にも連絡は取りません」
「そんなぁ……俺は本当に恋人なんですよ!お願いします!教えてください!お願いします!」
受付の2人は首を横に振る。
どうしたらいいんだ……
ゆう……
会いたいよ……
ゆう……
受付カウンターのところで、俺は疲れ果て、座り込んでしまった。
「あ……あの困ります、お客様、困ります」
受付の2人があたふたしているが、俺は動く気力がない。
その時だ、聞き慣れた声が聞こえた。
「カイトくん!」
振り向くと、伸次郎の実の息子、英次郎がいた。
「英次郎先生!」
「海斗くん、こっちだよ!
君のお母さんから、君がこっちに向かったと連絡があったんだ。だからそろそろ来るかもと思って降りてきたんだ。
よかった間に合って。
さ、こちらへ。会ってあげてくれ!そして、君の力で兄さんを呼び起こしてくれ!頼む!」
おれは走った。
今まで生まれてきて走るなんて行為は数え切れないほどあるが、どんな時よりも必死で早く走った。
走りながら俺の脳裏には雄一郎との今までの思い出が走馬灯のように流れてきた。
4歳の迷子の時や、再開したあのさくら園の洗濯干し場や、俺の部屋で初めてのプレゼントをもらったことや、入院生活での同棲生活。そして、初めての嫉妬やそしてキス……そして、やっと結ばれた夜。
どの思い出も幸せそのものだった。
どの思い出も雄一郎からの愛で溢れていた。
案内された病室へいくと、管がたくさん挿された雄一郎が、眠っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます