第36話 勝手なことは出来ない

「京介くんが来てたのね?家の話よね?海斗、今夜夜ご飯食べながらゆっくり話そうか」


「あぁ。家のこともだけど、たくさん話さないといけないことが実はあるんだ、だからこれから園長室に行くよ」


   話す!すべて!

   


 俺は不動産屋のホームページからマンションのページと、創新会グループの概要をざっと印刷したものをもって園長室へ入りソファへ腰掛けた。

 そして、母に京介からの提案のこと、雄一郎さんがそのことで焦りマンションを購入したこと、そして、その後の話で、雄一郎から言われた創新会グループ入りの話も何もかも話した。

 さらに雄一郎と付き合い始めたことも全てを話したのだった。


「海斗、雄一郎さんはどこまで本気なの?

 創新会のグループにさくら園が?どうしてそんなことを言うのかしら……」


 母は頭を抱えるような仕草をした。

 正直その反応に俺は驚いた。

 母は、過去のことを知ってからと言うもの、俺の言うことやりたいことに対して、全く否定しない。全て賛成してくれていた。だから今回もマンションや、グループへの参加もOKをくれるだろうと思ってた。反対されるとしたら、それは交際かもしれないと思ってたんだが、まさかのグループ傘下に難色を示すとは思ってなかった。

 

「海斗がね、うちにきた4歳の時からずっと雄一郎さんのことを追いかけてたのはわかってた。私たちに隠れてコッソリ探してるのも知ってた。

 でもそれは、あの場所に帰りたくて、4歳まで育った昔の家も恋しくてなのかなって思ってたの。


 だからお母さん、怖くてね……。


 あなたとやっと一緒に住めるようになったのに、またあなたを失うんじゃないかって不安だったの。


 雄一郎さんのほうからも海斗のことを何度も聞かれてた。会いたがってた。それ分かってたけど、母さんはあなたに会わす勇気がなかった。

 怖かったの。ごめんなさい。


 自分の過去を知られるのが怖くて。そんな自分はなんて卑怯なんだろうって何度も責めたけど、それでも怖さのが上回ってて……できなかった、話せなかった。


 4年前、過去のことを知った海斗がうちに帰ることをやめて、雄一郎さんのマンションに住むと決めて、お母さん1人になって考えた。本当にたくさん考えたの。

 16年間、無理やり雄一郎さんとのことを遠ざけたんだから、雄一郎さんの元へ行って帰ってこないのは当然だって思った。

 無理やりあなたを連れ帰ろうなんて、そんなことは全く思わなかったし、やろうとも思わなかったよ。

 あなたは、住む場所を自由に選べば良いって思ったから。


 2年前、さくら園に帰ってきてくれたと病室で聞いたときは本当に嬉しかったわ。でもその反面、あなたに申し訳なさが更に生まれた。

 またあなたを私は縛り付けてしまったのだから。


 ごめんね、帰らせてしまって……」


「別に、いやいや帰ってきたとかじゃないよ」


 母と4年ぶりに会話ができているような気がした。


「俺だって、このさくら園を昔から継ぐ気ではいたんだ。それは、母さんや父さんののことを知っても変わらないよ。

 だから帰ってきた、それだけだよ」


「ありがとう。あなたがさくら園のこと大事に思ってくれてるのは十分伝わってる。

 本当にありがとう。

 お母さんのこと、いつも支えてくれてありがとう。

 あなたがいてくれて何度も何度も助けられたわ。

 

 お母さんね、あなたと一緒にいれなくてつらいことはあったけど、あなたを産んだことを後悔したことは、一度もないのよ。

 

 そして、あなたには、愛を間違えない子に育ってほしいって思って育ててきた。

 お母さんとお父さんの子だからこそ、あなたには幸せになってほしいって。


 だからあなたがこの人だって決めた人が現れたら、お母さん、全力で2人が永く幸せでおれるようにサポートしようって決めてたのよ。

 どんな相手でもね。


 だからあなたが雄一郎さんと一緒に生きていくというならお母さんは何も反対しないわ。

 雄一郎さんの気持ちも十分わかってるしね。あなたたちなら幸せに暮らせるって思うよ。

 おめでとう。気持ちが通じ合えたのね。


 そんなあなた達が、一緒にさくら園のことを考え運営していくためにも、さくら園が創新会に入る方がきっとやりやすいのよね?

 私もそうだと思うわ。

 

 だけど、それだけは出来ないわ」


「な、なんでだよ?そこまでわかってくれてるのに、なんで?」


「ここは、落合の家が代々守ってきた施設なのよ。

 私とあなたは、落合の家の子ではないでしょ?

 母さんが嫁に来なければ、ここは、成瀬家と関わることがなかったところよね?

 それなのに、母さんと海斗で勝手に創新会グループに入ることを決めるなんて出来ないわ。

 それだけは、海斗の言うことを聞けないわ」

 

「母さん……」


 母との会議を終え、俺は自室へと帰った。


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