第35話 男の約束

 土曜の朝、目が覚めると横にグッスリと眠る雄一郎の顔があった。疲れてたようで顔を触ろうが何しようが全く起きそうにない。


「こんなに疲れてたんじゃんか…」


顔をなで、おでこにキスをしキッチンへと行った。


「本当に色々買ったんだな」


 皿にコップに箸……ありとあらゆるものが2個づつある。

 自分のことをずっと思っててくれたことをひしひしと感じながら久しぶりに雄一郎と食べる朝食を作っていると、突然後ろから雄一郎がやってきた。


「何作ってる?」


「おはよう、雄一郎さん。やっぱ雄一郎さんは和食がいいんだろうから味噌汁作ってるよ」


「ありがとう」


首筋にキスをしてくる。


「くすぐったいよ」

「海斗、愛してる」

「おれも愛してるよ」


 俺たちは朝食を食べソファでまったりとしていた。


「海斗、お母さんとはどうだ?少しは仲良くなったか?」


 あの2年前の母の入院で俺は雄一郎のマンションからさくら園に戻っての生活をしてきたのだが、退院してきた母とは、距離が生まれていた。母への許し方がわからなくなっていた。

 仕事では会話はするが、プライベートとしての会話はほぼなく毎日過ぎていっていた。


「なんていうか、あんまり話さなくなったよ。どこで信じれないところがあるんだよな」


「本当の親子なんだからさ、いつかはわだかまりを取らないと。生まれた時は確かに色々あったかもしれないけど、でもずっと育ててくれたんだよ?」


「わかってる。けどさ、育てながら本当の父親のこと話してこなかったのはズルいんじゃね?

 自分に後ろめたさがあるからといってさ、言わないで存在すら隠してたなんて卑怯だよ。

 俺は本当の父親のこと20年間知らなかったんだよ?

 あーもーいいんだって。

 せっかく雄一郎さんと一緒に今いれてるんだから、変な話すんのやめよーよ。

 おれ、シャワー浴びてくる。

 ね、あとから出かけようぜ。恋人たちらしく!」


 俺はシャワーへと向かった。


   わかってるさ。

   俺だってわかってる。

   このままじゃいけないってことは。

   でも仕方ないじゃんか……

   どこかで許したくないんだから……


 その後2人でデートに出かけた。映画を見てショッピングを楽しんだりして過ごした。


 今宵はディナーに訪れた。

 シャンパンで乾杯しコース料理を堪能している。


「海斗、これからのことなんだが……」


「うん、なーに?」


「俺はまだまだ外科医としてやっていこうと思ってる。だからこれからもお前のところへ行く回数は変わらないかもしれない。すまない。

 さくら園についてだが、お前はどう思ってる?

 お前は跡を継ぐ気なのか?」


「え……。跡は継ぐつもりだよ。そのために2年前帰ったんだし。

 それに色々あったけど、さくら園を継ぐことは子どもの頃から決めてたし。

 だから、今もそれは変わらないよ」


「そうか」


「なに?なんか気持ち悪い、何が言いたいの?」


「ここ最近考えている構想があるんだ。

 さくら園にずっと寄付という形で関わってきた創新会なんだが、これからはうちのグループに入らないか?うちのグループの一つの組織としてなったら、園にもっとお金も力も注げられる。そうすることで、曖昧な勤務時間ももっと明確にシステム化出来る。

 結果、お前も園長も負担が減らせれる。

 やることは変わらないが、もっと見守ってやれる、手を差し伸べやすくなる。

 まぁ、報告は毎月、もしくは毎週事務局までやってもらわないといけないけど、それにはお前がくればいい。そのついでにその……」


「俺にマンションに泊まれと?

 雄一郎さん、要するに毎週報告でおれが病院訪れた際に俺に会えるのが嬉しいから、そうなる為の理由付けを考えたってことでしょ?」


「………」


「職権濫用、だね。

 でも嬉しいよ。考えとく。」


 その夜もまた、雄一郎のマンションにおれは泊まる。


「いいのか?尻がつらいなら別に今日はしなくても……」


「おれがシたいの。

 雄一郎さん、明日には俺は帰らないと。だからしっかりと抱いて。俺の肌を雄一郎さんが忘れないようにしっかりと抱いて」


「忘れるわけないだろ、こんな夢のような時間を俺は忘れないよ。

 愛してるよ、海斗。心の底からお前のことを愛してる」


「おれも愛してる。今も昔もそしてこれからもずっと……」


また今宵も愛しあうのでした。


  

 

 月曜日、雄一郎のマンションから帰ってから、創新会について改めて調べ直していた。

 病院、薬局、研究所、老人施設、リハビリステーション、レストランに本屋まで。幅広い分野を運営している。

 そしてそんな大きな組織のトップが雄一郎の育ての親、伸次郎さんなのだ。


「とんでもない人たちなのかもしれない……。これをみんな雄一郎さんが継ぐの?」


 身震いしそうな感覚もした。

 確かに、これだけ大きな規模のグループに入れば資金は問題ないが、きっといろいろな制約も出てくるのに違いない。これは本当によく考えないといけないことだ。


「海斗さん、お客さまです」


 スタッフが呼びにきた。玄関に行くと京介がきていた。


「海斗、ちょっといいか?お前の部屋で話したいんだが……」


 俺たちは俺の部屋に移動した。


「海斗、成瀬雄一郎って人が、金曜日にうちの不動産屋に来て、『落合海斗と一緒に住むからここのマンションを買う、だから社長に連絡してくれ』と言ってきて、本当に購入申し込みをしてきたんだ。入店5分でさ。

 スタッフが慌てて俺に連絡してきたよ。

 お前から、ヒーローの名前は聞いたことなかったけど、きっとこの人がお前のそういう人なのかなっておもって。

 とりあえずお前が一緒に住むかどうかは置いといて、一部屋お前に渡そうと思ってた部屋を売る方向で今、手続きに入ったんだが……。

 海斗、あの人は本当にお前の知ってる人なのか?

 成瀬さんってその……」


「あぁ、そうだよ。

 お前の思ってるように、彼が子供の頃の俺を助けてくれた人。

 マンションのこともあの人から金曜日に聞いたよ」


「一緒に住むって言ってたけど、そうなのか?この前お前、何も進展なしって言ってたけど」


「あぁ。木曜日の時点では本当に何もなかったんだ。そうなんだけど……

 今は恋人だから。」


「え?今はコイビト……?

 そうか、じゃあの人にあの部屋を売ってもいいんだな?その人、危ない人ではないんだよな?」


「あっはっは、大丈夫だよ。雄一郎さんのほうが京介のことを、警戒してたよ。

 ごめんごめん、報告してなくて。大丈夫だから。

 あと、ありがとうな。進展できたのは、京介のおかげだって思ってる。

 もし、今後お前に恋の予感がしたら今度は俺がきっかけを作って恩返しするよ」


「彼と進展出きたんならいいけど。

 俺の恋?そんな時がいつかきたらじゃ、頼むよ。

 よしじゃ、彼にあの家を譲ることにするね」


「ありがとう。ところでその家だけど、一体いくらなんだ?」


「『お前にあげる』と言ったら贈与税とかかかるけど、あくまで彼の家だからよかったな。

 あの家は、3LDKで5千万だよ。安いって言われたよ。じゃ再来月には入れるから。またその時言うよ。俺はこれで」


京介は帰って行った。


「五千万か……」



 俺が事務室に戻ると母がやってきた。


「海斗、話があるんだけど……」


 何かを察知したのか、母の顔は険しかった。


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