第33話 通じ合う想い

「海斗?泣いてる?なんで?」


「そんなの俺もわかんねぇよ。なんでかわかんねぇけど、涙が出てくるんだ」


「海斗、どうした?ごめん、海斗、ごめん。

 親じゃないのも、家族じゃないのも分かってる。勝手なことばかりしてごめん。嫌だったんだよなごめん!

 海斗、俺が悪い!だからごめん」


「いいよ別に。マンション買ったのだって怒ってないよ。そんなことで泣いてない。

 ただ、俺と雄一郎さんの想いが通じ合えてないのがつらいだけ」


「想い?」


「そう、想い。雄一郎さんの想いがわからない。俺は雄一郎さんのことなんでも分かってたいんだ。だけど、俺たちは通じ合うことが出来ないのかもしれない。分かり合えないのかもしれないって思ったらつらくて悲しくて……だから、泣けてきた。

 雄一郎さん、お願いだよ、話して欲しい。俺のことどう思ってるのか、何をどう考えて行動してるのか、心の中でどう思っているのか、何をしたいのか、心の中全てを話してくれよ」


「俺の思い考えを知りたいって?それはムリだ。そんなことは出来ないよ。

 そんなことしたら……お前は俺を嫌うだろう、そんなことをしてお前を失いたくない。」


「俺を失う?なんで?

 雄一郎さんの気持ち、考えてることを話すのがそんなに怖いことなの?

 雄一郎さん、話そう俺たち。ちゃんと話し合おう。

 じゃないと、その方が俺たちの関係が終わりそうだ」


「海斗……。

 俺は怖い。俺の心の中の考えを、本当の俺の姿をお前が知ったらお前は幻滅し、俺を嫌うだろう。それが分かってるから俺は怖いんだ。お前を失うことになりかねないから怖いんだ」


「雄一郎さん、俺のこと見損なわないでよ。

 俺は何があっても何を知っても、雄一郎さんのこと嫌わないし、離れてなんかやらないから!

 だから、話して。教えて。何考えてるのか、俺に話してよ」


「海斗……。

 俺は、いつでもお前と一緒に居たい。

 24時間、四六時中、いつでもお前と一緒に居たい。お前を俺という檻に閉じ込めたいんだ。もちろんそんなことは出来ないのはわかってる。そんなことを言ってお前を苦しめる存在にはなりたくない。だからなるべくそんな思いが出ないように努力してた。


 だが、『お前を一生守る』と決めたその思いは、何があってもやり遂げようと思ってる。お前のことを守ろうと、お前が幸せになれるように出来る限りのことをしようと22年間ずっと思い続けてた。

 けどそれって、時には暴走してお前を困らせることにもなってるんだよな。そこまでしてはダメだとわかりつつも、やってしまうんだ。特に、他の誰かがお前に何かしようとすることには、かなりの嫌悪感を抱いて邪魔をしてしまう。だから今回もマンションを独断即決で購入した。

 すまない。

 

 いつかはお前にも俺よりも大切な人が出来て、結婚したり子どもを育てたりするんじゃないかってことはわかってる。そんな日が来ることは覚悟してる。

 けど……」


「けど?嫌なんでしょ?」


「あぁ、分かってはいるが嫌だ。だからそんな人が現れないように、いつも監視してしまっている。そんな存在が出来そうなら俺は全力で邪魔をしてしまうだろう。


 すまない……。俺は悪いやつだ。

 親のように、兄のようにお前を包み込んでやるつもりで接しているが、心の中はお前を、お前の全てを独占したくて仕方ない。今だってこのまま東京のマンションに連れ帰って鍵を閉めたいくらいだ。

 お前の全てを把握しておきたい。

 お前が今どこで誰と会って何をしているのか……。常にそれが気になってしまう。


 これが俺だ。

 怖いか?嫌か?嫌なら言ってくれ。

 すまない……俺はお前のことが好きすぎておかしくなってる。

 すまない……俺はこんな愛し方しか出来ない」


 初めて雄一郎が涙を見せた。静かに雄一郎を抱きしめる。


「雄一郎さん、そんなことで悪い奴っていうなら俺は大悪党だ。

 俺は嬉しいよ。嬉しくて仕方ないよ。

 雄一郎さんが俺のことちゃんと好きそうでよかった。俺、もっともっと俺のこと愛してほしい。もっともっと俺を求めてほしい。もっともっと俺を雄一郎さんのなかで閉じ込めてもいいよ。雄一郎さんのマンションでの生活、本当に好きだったんだ。だけどいつまでも甘えてたら雄一郎さんに迷惑かかるとおもってた。

 雄一郎さんにとって俺がマンションに行って泊まったりする方がいいっていうなら、俺、もっとマンションに行くよ」


「迷惑?そんなわけないじゃないか。お前が去ったマンションは1人でいるには寂しすぎるから、あまりあれからマンションには帰らずに病院に泊まる回数を増やしてるくらいだ。

 いつでも帰ってきてほしいよ」


「雄一郎さん……

 俺ずっと雄一郎さんのこと好きだった。4歳の時からずっと。だから俺から何度もキスした。

 なのに雄一郎さんからのキスは俺が退院する前のあの病院でのキス以来ないんだ。わかってた?あれから何年経過したと思う?俺なにげにそれ気にしてるんだけど」


「ちょっとちょっと待て、海斗、いまお前が言ってる『好き』って恋愛の意味でのことを言ってるのか?」


「当たり前だよ、恋愛の意味で俺は雄一郎さんが好きって今言ってるの。

 え?なんでそこを確認?」


「いやいやちょっと待てよ、よく考えろ、お前が抱いているのは憧れであって恋愛じゃないと思うぞ?」


「は?何言ってんの?とぼけないでよ。

 雄一郎さん、俺の気持ちをそんなふうに思ってたの?なんだかな……なんでそんなふうに思ってるかな……。

 だから何もしてこなかったの?」


「お前にとって俺が恋愛対象ではなく家族のように思ってるようだから、俺は……」


「なんでだよ!こんなに俺は好きなのに。

 俺だってどれだけ病院で雄一郎さんが看護師と話してるのを見て嫉妬したと思う?不安になったと思う?

 俺、何度も何度もちゃんと雄一郎さんに好きだって、他の人見ないで欲しいって言おうと思ったんだよ。けどその都度何か色々あって言えなくて……。ちゃんと言わない間に誰かに雄一郎さんを取られたらどうしようって、ていうか、もしかしたら俺の知らないところで雄一郎さんは既に誰かと付き合ってるのかもしれないとおもったらつらくてつらくて……。

 どれだけ苦しい想いをしてたか分かってないだろ。

 こんな気持ちになるのに恋愛として好きじゃないとか言わないでくれよ。

 悲しすぎるよ」


「ごめん。」


「覚えておいて、雄一郎さんに何があってもおれは嫌いにならないし、離れたりなんかしない。そして、雄一郎さんを他の誰かに渡したりなんかもしない。

 もし、誰かに取られそうになったら命をかけてでも俺、雄一郎さんをつなぎとめるから。

 俺の愛だって結構ヤバいでしょ?」


「じゃ、俺の買ったマンションに住んでくれる?東京のマンションにももっと泊まりに来てくれる?」


「そう言ってるじゃん。毎日、雄一郎さんの用意したところに泊まるよ」


「海斗、後悔しないか?俺の愛を一度でも受け入れたら、二度とお前を離してやれないよ?」


「だから俺も同じだって言ってるじゃん?それでお互い良いって思ってるってことでしょ?何度も聞くなよ」


「キスしていいか?」


「いいよ。そんなことも聞かないでいっぱいしてよ。キスもそれ以上も……ずっと待ってんだから」


雄一郎からキスをしてくれた。実に9年ぶりの雄一郎からのキスである。

優しい優しいキス……かとおもいきや、どんどん激しくなる。荒々しくなっていく。貪るように貪欲に激しく息もできないほど雄一郎は海斗に襲いかかるようにキスをする。


「海斗……海斗……カイト……」


「雄一郎さん、ちょっと待って。

 その……初めてが車は嫌だよ。

 雄一郎さん、2人きりになれるところへ連れてって」


「わかった。どこかホテルに……」


「雄一郎さんのマンションがいい。東京まで連れてって。雄一郎さんの部屋でしたい」


「ここから遠いよ?それに、今から東京いくとお前、帰れなくなるんじゃ……」


「だから、今夜はゆっくり一緒に居たい、泊まりたいって意味で言ってるの。母さんが言ったように、月曜日の朝まで帰れば良いから。それまでは東京のマンションにいたい」


「わかった。帰ろう、俺たちの部屋へ」


雄一郎は、車を発進させた。


 おれは雄一郎さんにもたれかかる。そして手を重ねていく。


 今までだって決して遠い存在ではなかった2人。

 心の奥底では結ばれていると思っていた2人。

 だが、

 こうやってお互いの心を確認しあい、恋人となった今と先程までとの距離は明らかに違う。

 2人にとってはじめての恋人との距離は、それはそれは甘い甘い距離なのだった。

 心の距離の近さを実感しながら車はマンションへと進むのだった。


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