第31話 親友からの提案
「海斗さんですか?お久しぶりです、アキラです。さくら園の……。
あの……園長が倒れられました。今から病院へ来れますか?」
慌てて電話を切り車に乗った。
人はいつまでも生きているわけない。
そして
人は突然この世からいなくなってしまうもの
分かってたはずなのに
誰よりも
わかってるはずなのに
また自分は
何も言えないまま
失ってしまうのだろうか……。
地元の病院に着くと園のスタッフもみんないてくれた
「母さんは?」
「海斗くん、大丈夫。過労だろうからゆっくり休めば大丈夫だって」
「過労って……大変なの?」
「実は最近、主要スタッフが突然辞めちゃって……。
そんな中、ちょっと夜に遊びに出る子とかもいて、昼夜関係なく園長頑張ってて……。
海斗くん、忙しい?学校とか就職活動とか大変?
もしよければ園長のそばにいてあげれないかな?
大学終わってほんの少しの時間でもいいの。園長きっと喜ぶから。だめかな?」
「え……」
雄一郎との関係をはっきりさせて
距離を縮めようと思ったのに……。
神は
俺たち2人に時間を与えてはくれないのか……
俺たちは
そういう関係にはなれないのか?
運命の相手ではないのか……
俺は、自宅へ帰ることを選んだ。
母の入院を機にさくら園に帰った。就職も創新会からは内定をもらったがそれは断り、さくら園で働くことに決めた。
ここでの生活がはじまりかれこれ2年が経った。
毎日が一生懸命で、雄一郎とは相変わらず気持ちの話はしていない。あの時出来なかったから余計に話せなくなった。今は連絡をとりあうだけの関係になってしまった。
「海斗、お客さんよ」
母はあの入院以来元気で生活できている。睡眠時間もお互い交代しながらなんとか確保していた。
「今いいか?」
学生時代の友人、若林京介がやってきた。家での生活が復活してから時折我が家に来るようになった。彼は不動産業で成功し、現在さくら園横に大きなマンションを建築中。さくら園にも寄付をしてくれている。
「なぁ海斗、彼とはどうなってる?」
京介には、雄一郎とのことを全て話している。
「別に。進展なし」
「そっかぁ……。じゃやっぱり……。
あのさ、そこに建築中のマンションのことなんだけど、俺も住むんだけどさ、お前も住まない?一部屋お前に提供しようと思ってる。お前とおばさんの家だ。
いま2人はここに住んでいて24時間休みなく働いてるだろ?交代でもいいから、マンションに住んで身体をきちんと休めるてほしいって思ってるんだ。
家賃なども何もいらない。おれが提供するから。
2人とも俺にとって大事な人だから、身体を大事にしてほしいんだ。
……早死になんてしてほしくないからな。
な?これは提案じゃなくて、お願いだ。
お前のためだが、おばさんのためでもあるんだ。
頼むよ、受けてくれ」
「お前の作ってるこのマンション、めちゃくちゃ高いやつだろ?それを簡単に言うなよ。
そんなもんもらえるようなもんじゃないだろ!
でも心配ありがとうな。母さんの体は心配だ。またいつ倒れるかと……だからこれをきっかけにちゃんと話し合って考えてみるよ」
京介は帰って行った。
落合の父は、早くに病死した。
母佐和子も2年前に過労で倒れた。
確かにここの仕事は過酷だ。スタッフが万年足りない。常に24時間対応を迫られている。
京介の建てるマンションに住む、場所も隣だし便利でとてもいい。
だが……
おれはどうしたらいいか考えていた。
毎日その日の出来事を、雄一郎へLINEに書いて送るのが寝る前のルーティンとなっていた。雄一郎からの返信はスタンプだけが基本。内容が気になる時だけ電話がかかってくるのだ。
そして今日は、京介からの提案いただいた家の話を送っておいた。手術日ということもあり、海斗が寝る時間になってもまだ、雄一郎の既読はついてなかった。
創新会は、さくら園に相変わらず巨額の寄付を続けてくれている。その関係で雄一郎は、2ヶ月に一度視察に来るのだが、今月はもう来る予定はなかった。
「おはようございます」
さくら園の朝は早い。
子どもたちが起きるよりもずっと前の朝5時半にはみな動き始める。
だから俺はその前に起きて、部屋にある写真立てへの挨拶から始める。もちろんその写真たてには椎名の両親が写っていた。
「今日も頑張るよ、お父さん、お母さん。
行ってきます」
台所へと向かうとまずは朝食と弁当作り。その後は子供達を起こしていき順々に登校させていく。最後の保育園組が行くとその日の出勤してきた方と、朝まで勤務してくれていた方との引き継ぎを兼ねた朝礼が始まる。
その日に話し合っておかないといけないこと、今後の予定などをみんなで確認するのである。
「今日は午後から創新会の代表が来る予定ですので各自、会った際は挨拶などよろしくお願いします。」
!!!!!!
園長からのこの言葉で俺は驚いた。
「今月はもう来ないんじゃ……」
思わず俺は聞き直す。
「海斗はあとで園長室へきてください。では今日も一日よろしくお願いします。解散。」
慌てて園長室へいく。
「園長どういうこと?今日くるなんて聞いてない」
「あら、てっきり海斗が呼んだのかと思ったけど違うの?今朝早くにメールがきてたのよ。用事があるからくるって。
うちじゃないなら、他の用事でもあるのかしら。
ま、いいわ。知らないなら。さ、仕事に戻りましょう」
朝礼後は、掃除と山のような洗濯物が待っている。施設中すべての掃除を終えたら今度は事務室へ入り、メールや事務処理、さらに子どもたちの様子を記録のためにパソコンへ入力していく。
昼間は子供もおらず静かで少しだけのんびりと出来るのだ。
そんな俺の時間割を把握している雄一郎は、決まって昼間にいつもくるのだ。
もうすぐ雄一郎さんが来る!
おれは何度となく鏡をチェックする。ワクワクが止まらない。
「こんにちは。創新会です」
来た!
俺は玄関に走って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます