第26話 この出会いは運命なんだ

 俺は母佐和子から衝撃の過去を聞かされた。


「雄一郎さんは知ってたの?いつからこのことを知ってたの?」


「お前が椎名さんの子供ということは最初から知ってたよ。」


「最初から?」


「そう、最初から。

 お前は覚えてないだろうが、俺とお前はお前が迷子になったときよりも前に会ってるんだ」


「前に?なんで?どういうこと?」


「お前の本当のお父さん椎名さんな、一度病気になって倒れたことがあるんだ。そこを偶然通りかかった俺の父親、純一郎というんだがその父が助けたことがあるんだよ。父も医師だったんだが、椎名さんと同じでもう亡くなってる。事故だ。

 んで、父に命を助けられたことがあるからといって、椎名さんはその後毎年命日に墓参りをしてくれてたんだ。


 ある日の命日に椎名さんはお前、海斗を連れてきてくれたことがあるんだよ。

 お前は恥ずかしがって椎名さんの足からまったく離れないで必死に掴んでた。ちょっとでも離れそうになると、『怖い、怖い』と言ってグズってすぐ椎名さんの足に顔を埋めてたよ。だからこっちの顔なんて1ミリも見てなかったよ。

 その仕草が本当に可愛くてな。


 あー、この子は本当にお父さんが大好きで離れられないくらい信頼してるんだろうなー、こんな親子関係、いつまでもずっと続いてて欲しいなー


 ってみてて思ってたんだ。

 俺にとって羨ましい親子関係だなって。

 

 そしたらある日、俺は新聞に載っているひとつの交通事故の記事を読み愕然とした。


 車同士の正面衝突事故で、一つの車は横転したと書かれている。その横転した車には親子3人が乗っていて、夫婦が亡くなったと……。その夫婦の名前は『椎名航平』

 後部座席にいた4歳の男の子は奇跡的に助かったと書かれていた。


 あの子だ!あの人だ!

 あんなに親子仲良かったのに……

 あの子はどうなるんだろう

 親が2人とも亡くなって生きていけるのだろうか

 

 心配になりながらその日は学校へ行き塾からの帰り道、気になって椎名さんから届いていた年賀状の住所をみてそっちに向かって回り道をしてたんだ。

 そこで道路で泣いてる男の子を見つけた。


 俺は慌ててその子に声をかけた。

 その子は自分の名前を『しいなかいと』とちゃんと言えた。

 そして、『家が無くなった、お父さんもお母さんもいなくなった』と話してくれたんだ。

 あの時は俺の顔も何も見れなかった男の子がちゃんと自分の現状を言えたことに思わず泣きそうになったよ。


 そして思った。

 この子との出会いは運命なんだと。

 だからこの子は、おれが助けないといけない、支えないといけないと思ったんだ。


 だがどうしたらいいのかわからず、とりあえず交番まで歩いたんだ。

 お前の小さな手を引きながら、


 『この小さな手を俺が絶対守ってやる!

  親を失った悲しみも何もかも

  俺が1番理解できるから。

  だから俺がこの子を守るんだ』


 って堅く決心したんだよ。


 そして、海斗を迎えにきた落合のご両親にその時初めて会った。

 親なわけないその母は、海斗へ向かって言ったんだ

 『わたしがあなたの本当のお母さんなのよ

  私があなたを産んだのよ。

  これからは、お母さんが一緒にいるからね、

  一緒に暮らせるからね』と。


 理解できなかった、何を言ってるんだろうと。驚いている俺に向かって、落合和弘さんお前の育ての父親がな、話してくれたんだ。

 椎名さんは離婚されてて、その元妻であり、海斗の産みの母親がこの佐和子さんなのだと。

 俺は落合さんに言ったんだ。


 『俺も一緒に海斗を守らせてくれませんか?

  俺、椎名さんとも知り合いなんです』


 だけどそれは断られた。自分たちで守るから大丈夫とね。

 そして、落合さんは俺に名刺もくれた。

 何かあれば自分に言って欲しいと。


 それから俺はさくら園のことや海斗のことなどを調べ始めた。

 お前が元気で生活できているのか心配で心配で。


 そしてわかったんだ。

 いくらお前のことを心配しても俺はお前を守るとか言っておきながら何も出来ないことに。

 そういうことが言える人間にはそれなりの力がないと言えなかったんだと気づいた。


 だから俺は自分に力を持とうと、そのためにアメリカに行こうと決めた。最先端の医療を学び、自分を追い込み、切磋琢磨してこようとね。


 アメリカに行く前にでもどうしても一目お前に会いたくて一度、さくら園に行ったんだ。


 そこには海斗は居なくて

 和弘さん、佐和子さんとお会いして話をした。


 お二人から、俺と海斗が会うのはやめて欲しいとお願いされた。


 『海斗はあの後混乱状態が続き、いつのまにか東京での生活のことを忘れているようです。

 なので、海斗が自然に当時の記憶を蘇らせるまで、もしくは大人になって真実を受け止めれるようになるまでは真実を伝えたくないと思っています。

 だからあの時のお兄ちゃんだと名乗らないでほしい。

 もし海斗が思い出したときには自分たちから話すからそれまでは待って欲しい』


 と、お願いされたから俺は、交換条件を申し出て陰ながら見守らせてもらうことを約束させてもらった。

 それが、今も続いているさくら園への寄付だ。寄付をすることで、間接的ではあるが海斗の生活費を補償できる。それに園に寄付をすることはうちの病院からしても慈善事業で好まれる行為だから誰も反対意見なく出来たしね。

 その代わりに、海斗の様子を年に数回おしえてもらうことにした。年賀状や暑中見舞いにはいつも写真付きで連絡をもらってたんだよ。


 その後俺は約束通りお前に話しかけることなくひっそりと遊んでいる海斗を見るだけにしてアメリカへと旅立った。

 

 そして俺はアメリカでの成果を得て、お前を守れる力がついたから帰国したんだよ。


 そこからはお前の知っての通りだよ。

 アメリカから帰国してもまだ高校生で大人とは言えないお前には会いに行くまいと思ってたんだが、和弘さんが亡くなったと聞いて、おまえが無理して何かを諦めるようなことはないか、父親を失いお前がまた悲しんでるかもしれないとおもったら、居ても立っても居られなかった。

 だから俺はお前にあの時のことは名乗らないで、会いに行く決心をしたんだ。そして、あの日、お前と再会したというわけさ。」


 全てが繋がった。

 ずっと疑問だったこと全てが解けた日となった。

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