第21話 探し求めた場所

「ここは、どこだ?」


 周りを見渡す。どうやらどこかの住宅街に迷い込んだようだ。

 とりあえず思う方向に歩いてみる。


 てくてくてくてく。

 何もわからない道を進むのというのは恐怖が漂うものだ。だが不思議とここは怖くない。


 なにも変哲も無く興味も湧きそうなものは何一つないのに、そんな道普通ならそそられないのに、なぜかこのまま歩きたいと思った。


 何かあったかいような気がした。


 そして俺は何かに導かれるように歩いていた……。




 ふと、そこの角を曲がりたくなった。



 角を曲がる



 その先にあったのは



 俺の目に入ってきた光景は




 あの日



 あの時



 幼少期の俺が見た建物があの当時のまま

 そこに鎮座していた



 

 ずっとずっと探し続けていた


 あのときのあの交番があった。


 ヒーローにつれてきてもらった、迷子で歩いていたあのときの交番だった。



 毎週毎週探しまくった、交番だ。



「ここは……あのときの?嘘でしょ?」


 

 幼少期にみた光景が、東京のこんな住宅街にあるわけがない。住まいの園から、ここまでどう考えても車で何時間もかかってしまうこの場所に、幼少期の自分が居るはずがない。それなのにどこからどう見てもあの時の記憶にある交番そのものだった。



「どうして……どうして……?

 そんなはずない

 そんなはずないんだ

 じゃどうして?

 どうしてこの交番に見覚えがあるんだ?

 確かに、この交番はあの時の交番に間違いない


 俺が見間違えるわけない

 じゃ

 どうして……どうして……」



 “キキーーーー!”


 また頭の中で車の急ブレーキの音と光景が見え聞こえてきた。


ガッシャーーンガラガラガラガラ……


 “かいと!かいとー!かいとー!

 あなただけは……あなただけは助かって……”


 小さな俺の身体を血で真っ赤に染まった大きな手が覆っている。




 頭が混乱する。

 あまりの混乱で頭痛が始まった。

 今まで一度もよぎったことのない記憶が見えた。

 俺はその場で膝から崩れ落ちた。

 涙がドバッと溢れてきた。



「カイトー!カイトー!」


 後ろから名前を大きな声で呼ばれ抱きしめられた。


 ゆっくりとその人を見る。


「雄一郎さん、雄一郎さん、雄一郎さん……」


「大丈夫だ海斗、大丈夫だ。俺がここにいる、俺がいるから大丈夫だ!」


「え?なにが?何が大丈夫なの?

 ねぇ雄一郎さん、ここはどこ?どこ?

 ねぇ雄一郎さん、教えてよ。

 ここはどこ、どこなんだよー!

 雄一郎さん!雄一郎さん!

 教えてよ!ここはどこなんだよー!

 なんで俺はここを知ってるの?なんで?

 教えてくれよ……。


 なんで……なんで……

 なんで俺はこんなにも今、つらいんだ?

 つらいよ……悲しいよ……苦しいよ……

 なんで?なんで?

 ねぇゆういちろうさーん……

 おしえてくれよー……

 なんでなんだよー……

 ゆういちろうさーん……うあー」


 道を行き交う人が僕達をみる。だがそんなことは気にしない。俺は雄一郎の胸の中でわんわん泣いた。なぜだか分からないけどひたすらつらくて悲しくて涙が止まらなかった。


 雄一郎は俺を優しく抱きしめ続けた。


「大丈夫だよ……大丈夫だから……

 俺はここにいる……ここにいるから。大丈夫だ」



 言い続けてくれていた。


 あの時の少年と同じように……。

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