第18話 お互いの気持ち……なにもかも……

 翌春、俺と京介は晴れて同じ大学に受かり、花の大学生となった。


「京介、学部が違うとなかなか会えなくなったなぁ」


「そだな。じゃ俺は急ぐから」


 俺は福祉学部、京介は経済学部。建物から違うから、滅多に会わなくなった。相変わらず京介は放課後にはすぐに家へと戻り仕事をしている。マンションをついに建設するらしい。どこまでもすごい奴だ。


そして俺はというと


「雄一郎さん!」


校門の外に赤いスポーツカーが見えて走る。

雄一郎が休みとわかると、俺はいつも『会いにきて!』と頼むようになった。用事がない限り、雄一郎は文句一つ言わずに車を飛ばして俺に会いに来てくれる。


「しっかり勉強したか?大学生」


「やってるさ!俺を誰だと思ってんだよ。

 それより雄一郎さん、前回来てくれてから1ヶ月も経ったよ!もう少しさ、仕事休んだら?」


「大学生、お前みたいに俺は暇じゃないんだ。それにたまに会うからいいんだろ?

 さて今日は何しようか」


「今日は買い物いきたい!新しい店が出来たんだ。

 ちょっとみたけど、絶対雄一郎さんに似合う服を置いてる店があったよ!

 ね?だから行ってみようよ、いいでしょ?」


 雄一郎の帰らないといけない時間ギリギリまで俺はデートを楽しむ。ときには映画に行ったり、水族館や遊園地、ウインドウショッピングを楽しんだり……。雄一郎と巡る場所はどこも楽しくてその時間が嬉しかった。

 ただ、デートと思っているのは自分だけで、雄一郎がどう思っているのかは未だにわからない。気持ちも、何もかも核心については相変わらず何も聞けれていなかった。


「海斗、じゃそろそろ俺は帰るよ。また休めそうな日は教えるよ、その時はまた来るから」


雄一郎さんに抱きつく。


「休みって、いつ?明日?」


「明日って……。ハハッ、子どもか!

 いつも言ってるだろ?俺はそんなに頻繁には休めないんだよ。こうみえても、俺は売れっ子医師だからな!

 ハハッ。

 次の休みにも必ず来るから。それまでいい子して寝てろよ」


しぶしぶ俺は離れる。


「関東の大学にすればよかった。そしたらもっとたくさん会えたのに……」


「大学選びのときに何度も言ったろ?

 俺の近くの大学を選んだって、俺の休みが少ないんだから会える回数は今と変わらないよって。

 だからこれでよかったんだよ。お前は施設のこともあるし、お母さんのこともあるし、地元を選んで正解だと思うよ。

 それに、そばにいるのに会えない……その方がつらいと思わないか?だから、これでいいんだよ。

 お袋さんにもよろしくな。あんまり頑張り過ぎて倒れられたら大変だから、ちゃんと休むように言っといてくれ」



 俺は車を降り、運転席側に回った


「雄一郎さん……」


雄一郎に窓を開けさせ、俺は雄一郎にキスをする。


「じゃあまたな」


雄一郎はキスなんて何事でもないように帰って行く。


   今日も俺は確認しなかった

   お互いの気持ちも、父のことも

   なにもかも……



 会うたびに幾度かのキスは交わす。

 だが一度たりとも"好き"という感情をどちらも言ったことはない。

 キス以上なことはなにもない。

 これが今の俺たちの関係。

 兄弟でもなく、友人でもなく、恋人でもない。

 何とも表現しがたい、これが俺たちの関係。






「夏休みだー!!」


 大学2年の夏を迎えた。

 明日の7月21日、カレンダーには赤マルがつけてある。なんと雄一郎の誕生日なのだ。


「どうせ今年も仕事してるんだろうから、俺から会いに行ってやる。

 俺から会いにいくなんて、初めてだから驚くよな」



 今日の俺のスケジュールはただ一つ!

 雄一郎への誕生日プレゼントを買う!これだけだ。


 しかしこれが難題。何を選べば大人の雄一郎が喜ぶのか、さっぱりわからないのだ。

 大きなデパートの中をウロウロ……していた。


「海斗?お前、落合海斗じゃね?」


誰かに呼ばれ振り返ると高校の同級生がいた。


「ん?おぉ久しぶり!Maxだよな?すげー大人っぽくなったな。同級生とは思えないよ」


 彼の名前は土居誠。通称Max。

 どこかの国と日本のハーフらしくて、めちゃくちゃ体も大きく雰囲気もとっても大人っぽくて色っぽい。だからここでも目立ちまくっていた。


「海斗、久しぶりだな。お前地元の大学なんだよな?雰囲気も何もかも変わんないなー。

 で、こんなところで何してたんだよ」


「Maxはいま東京住まいだっけ?

 お前のことだ、大学でもきっとモテモテなんだろうな。

 今さ、明日知り合いが誕生日だからプレゼントを探しに来たんだよ。

 そうだ!お前なら何が欲しい?といっても相手は29歳になる人なんだけどな」


 Maxは真面目に考えて答える


「そうだなぁ……、その人がお前にとって大事で離したくない人なら、俺なら首に巻くものを選ぶね。

 ネックレスかネクタイとか、スカーフとか!

 この人を自分に縛り付けてやるって意味で。逃さない、離したくないって願いを込めてプレゼントするな」


俺は大きく頷く


「こえーよそれ。

 けどさすがMaxだ!いいこと言う。ありがとう!参考にさせてもらうよ。じゃあな!」


    縛りつける……

    逃さない……


 俺はアクセサリーコーナーで、チェーンがとてもかっこいいネックレスを手に取った


「これだ、これがいい」


意を決して購入した。


「待ってろよ雄一郎さん!明日俺が会いに行くよ」


空に誓いを立てて帰路へと向かった。

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