第15話 俺の知らない、すごい人
リハビリをしながら考える。
もし、祖母の言うように、昔の迷子の記憶が夢だったとしたらどこを探しても見つからないのが当たり前。だが、それなら母に聞いたあの時、母が泣くはずはない。だからあれはやっぱり実際に起きたことだ。
なのに、それを母も父も祖母には話していない……それだけ母にとってあの事はツライ事だったということなのだろうか。消し去りたいことだったのだろうか……。
リハビリを終えて部屋に戻ると、さらにお客さんが来ていた。
「会長?」
「海斗くん、大丈夫かい?早く会いに来たかったんだが中々時間が取れなくてね。
それに普段は雄一郎さんが居てくれてるから安心はしてたんだ。
今日は出張でいないと聞いて、それなら私が少しでも居てあげようと寄ったんだが……おばあさまが来てくれてたんだね。それはよかった。
ところで、リハビリはどうだい?大変かな?」
「すみません会長にまで心配かけて……身体はだいぶ良くなりました。まだまだ思うように動かせないですが、リハビリ頑張ってます」
「そうか、それはよかった。ゆっくりでいいからね、焦らずしっかりと治してくださいね。
1人で退屈しないようにと色々おもちゃなどを用意しようとおもったんだが、何がいるのか分からなくてね。
うちの若い秘書たちに聞いたら現金だのプリペイドカードなどと言うんだ。そんなもんは要らないだろ?だからごめんよ何も用意できなかった。
代わりと言っては何だが、綺麗な花を飾っておいた。少しでも気が晴れるといいんだがね。
それじゃ私はこれで失礼するよ」
「あ……ありがとうございます」
あっという間に会長は帰って行った。
「何も聞かなくて良かったの?」
「いいんだ、さすがに会長に直接聞くのは緊張するよ」
「そうね、あの人はやっぱり偉い人なだけあって、オーラがあったわね、おばあちゃんも緊張しちゃったわ。
さーて、そろそろ夕飯の時間ね、準備してくるわ」
祖母は、俺の夕飯の世話をして帰って行った。
スマホを見てみる。
着信履歴ナシ。
メッセージナシ。
いつもうるさいくらい話してくる雄一郎から何も連絡がない。
静かでいいや!
思う反面……
なんで連絡しないんだよ、雄一郎のバカ!
なんて思ってしまう。
そういえば
『寂しくなったらいつでも電話してこい』
なんて言ってたな……
再びスマホを見る
手に取る
やめた!
絶対俺は電話しないぞ!
スマホを伏せて俺は眠りについた。
翌日、目が覚めてすぐにスマホを確認するも何も着信ナシ。
「おはようございます、落合様。今日も外はいい天気ですよ。
今日は素敵な日になりますね」
「素敵な日?」
「はい。成瀬先生の記者会見、10時から行うそうでお昼のニュースには絶対載るだろうって話ですよ」
「記者会見?ニュース?どういうこと?」
「あらすみません、成瀬先生から落合様は家族だから何でも話す間柄と聞いてたので今回の北海道のことも話されてるかと……申しわけありません、出しゃばるようなことを話して……」
「家族……そんなふうに紹介されてたんだ。
それより記者会見て?教えてください、なんのですか?」
「北海道の病院で小児の心臓手術が昨日行われたんです。
アメリカでは何度も行われている手術方法らしいのですが、日本では初めてで。そこで、何度もアメリカでその手術助手の経験のある成瀬先生が今回呼ばれて手術を行われたんですよ。
そしてそれが見事に成功したんですよ。
日本初ですよ!
凄いですよね!私たちも大興奮です。
残念ながら、執刀医は年配医師なんですけどね。まだ若いからそういうのは助手になっちゃいますよね。
でも全国に成瀬先生のことは広まるはずです!
嬉しいですね!
お昼のニュースが楽しみです」
木村看護師は意気揚々と部屋を出て行った。
昼のニュースで手術の報道が流れた。
日本初!快挙と大々的に報道されていた。成瀬も助手としてきちんと紹介された上で記者から執刀医よりも多くの質問をされ堂々と答えていた。
午後からのリハビリに行くとそこら中の人たちが成瀬の手術や会見のことで持ちきりだった。
みんな自分のことのように喜んでいる。
「凄い人だったんだな……」
「成瀬先生のことですか?そりゃそうですよ!これで日本中から成瀬先生に診てほしいっていう患者さんが殺到するかもしれませんね。
さらに、成瀬先生はイケメンで独身で御曹司!
彼を狙う女性が今までだってたくさんいたけど、さらにわんさか来ちゃうかもですね。
先生ってどんな人が好みなんでしょう?
落合くん、なんか聞いてる?
先生から彼女の話とか、好みとか!聞いたことないんだよね。彼女いるのかな?」
リハビリ室にいる看護師たちまで色気付いている。
「さぁ、興味ないんじゃないですか?
俺、部屋に戻ります」
ムカついた。
雄一郎に群がろうとする女どもだと思うと吐き気がしそうになった。
俺はさっさと部屋へと戻って行った。
そして俺は思っていた。
雄一郎さん!
頼むから今は帰ってこないでくれ!
今帰ったら
アンタは、狙われるだけだ!
だから今は帰ってこないでくれ!
願わずにはおれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます