第14話 夢……だったのか?
18時、夕飯の時間になった。雄一郎が2人分の食事を運んでくる。
「少年よ、どうだ?リラックス出来たか?
身体が綺麗になるとどんどん動きたくなるだろ?これからはどんどん元気になってくぞ!」
俺はさっきの清拭のことで恥ずかしく、まともに雄一郎の顔が見れない。
「お!今日の夕飯はハンバーグじゃないか!最高だね」
何事もなかったかのように接する雄一郎。恥ずかしく思っているのは自分だけだ、気にするな!と背中越しに言われているような気がした。
やっぱりチャランポランに見えるこの人は
これでも医者なのだ。
ホッとする自分がいた。
雄一郎の言うように、この日から俺の身体はどんどん治っていく。やっとリハビリも開始され、毎日寝て過ごすだけだった日々は終わりを告げ、今度は毎日勉強にリハビリにと忙しくなってきた。
そして雄一郎との奇妙な生活も慣れてきて毎日が楽しかった。他愛ないバカ話をしたりふざけて遊んだり、一緒にテレビを見たり、院内を散歩したり。日々充実した1日が送れている。
時にはつらいつらいリハビリになっても雄一郎は献身的にそばにいてくれた。
励まし、一緒に頑張ってくれた。
俺はいつしか、このままいつまでもずっと一緒に居れたらな、なんていう思いさえ芽生えていた。
ある日の早朝、いつものように朝食を食べていると雄一郎が神妙な顔で話してきた。
「海斗、大事な話があるんだ。早く言わないとと思いつつ、今まで言わなくてすまない」
「な……なに?」
「実は……」
ドキドキする。何があったんだろう?
「俺はこれから、出張だー……悲しい……行きたくないー、ここにいたいー、お前と離れたくないよー、ちくしょー、行きたくないー。
けど、行かなければならない……つらいなー
お前を1人になんてしたくないのに……すまない」
「はっ?出張?いつまで?どこに?」
「明日の夜には帰れるとは思うが、最悪明後日の帰りだ。
行き先は北海道。年に数度は北海道の病院での仕事があるんだ。わかってはいるんだ。だが、今回は断りたかった。まだまだお前の世話が必要だからな。
だが、どうしても俺が執刀しないといけないオペがあって……だから行かないといけないんだ」
「は?長くても明後日には帰ってくる出張?
そんなことにこんなにタメてお前は話したのか?
それのどこが大事な話なんだ?
仕事で北海道行かなければいけない?いいじゃないか、行ってこいよ。何が問題なんだ?
何言ってんだ?」
「何って、だから!お前が寂しく夜を過ごすことになるんだぞ?大丈夫か?って心配してるんだよ」
「俺は高校生男子だぞ?そんなこと心配する必要無いだろ」
「わかってるのか?
食事も1人で取るんだぞ?嫌だろう、家では1人になることなんてなかったお前が、賑やかなところで生活してたお前がさ、1人でご飯を食べるなんて慣れてないだろ」
「え……」
「まぁ、今回は本当に俺は北海道行かないとどうしようもないから、行ってくるよ。おまえの後のことは人に頼んでおいたからお前はいつも通りに過ごせよ。
寂しくなったらいつでも電話してこいよ。
よし、じゃ行ってくる」
雄一郎は、施設が併設している家で育った俺が、うるさいほど賑やかなところで生活していた俺が、病院で1人、寂しくならないようにわざと一緒に居てくれていたということなのか。
何のメリットもない俺との生活を、面倒を見てくれていたのは見返り目当てとかではなく、ただ単に寂しくならないようにしてくれていたのか?
なんて優しい人なんだ……
でも、バカだなぁ、俺はもう高校生だ
1人で寂しくて泣いたりするような
ガキじゃねーよ
ふと、幼少期のことを思い出した。
ヒーローと出会った時の俺は、泣き虫だった。
嗚咽しながら泣いていた。
変なこと思い出したな……
さ、勉強の準備をしよう
雄一郎が出発して3時間。
通常通り、家庭教師がきて勉強していた。
そのとき扉がノックされた。
コンッコンッ
「こんにちは」
「!!おばあちゃん」
「かいちゃん、元気になった?あらお勉強の時間だったのね、ごめんごめんおばあちゃん外で待ってようか?」
「海斗くんのおばあさんですか?こんにちは家庭教師の小田です。ちょうどいま終わったところなんで僕が帰りますのでどうぞどうぞ」
「あらそう?お昼ご飯までにはきてあげようと思って来たんだけど、良かったかしら?」
「どうしたの?急に。入院のこと知ってたの?」
「かいちゃんが手術後まだ寝てる時に実はおばあちゃん来たのよ。手術は無事に成功したって聞いて、でもしばらくは回復室から出られないって言われたから帰ってたのよ。
それからは毎日成瀬さんからかいちゃんの体の様子は送られて来てたから本当に安心したわ。
元気になれて良かった。
今日は、成瀬さんから2日ほどここを離れるから、かいちゃんのお世話をしてくれる方がいないって聞いて来たのよ。
おばあちゃんは、かいちゃんのために何でもするから遠慮なく言ってね」
「ありがとう」
「さぁ、まずはお昼ごはんね。取りに行ってくるわ」
祖母が来ると安心する。
2人で並んでお昼ご飯を食べて、最近の祖母の話を聞きながら楽しく話していた。
「しかし、特別室っていうのは綺麗で広いわねー。成瀬さんには感謝しないとね」
「あのさぁ、おばあちゃん、聞きたいことがあるんだけど……」
「ん?」
「おばあちゃんの家からここまでって遠いよね?」
「うん、電車で1時間半かかったよ。どうしたの?」
「おばあちゃんの家の近くで、俺、迷子になったことある?」
「ん?迷子?おばあちゃんの家で?ないない、そんなことなかったわよ。どうしたの?」
「じゃぁさ、成瀬さんがどうしてこんなに良くしてくれてるのか理由知ってる?」
「ん?成瀬さんは何て?」
「答えてくれないんだ。
でもさ、普通、施設に寄付をしてくれてるからってこんなにしないよね?
だから、どうしてこんなにしてくれるのか、僕怖いんだ」
「かいちゃん……」
「だから教えて、成瀬さんとの関係について、何か知ってない?」
「おばあちゃんが聞いてるのは、かいちゃんのお父さんが創新会の人にとって、とても大切な人だったらしくて、それで今でも仲良くて、繋がってるって聞いてるわ。
それ以上の詳しいことは何も……ごめんね、役に立たなくて」
「うううん、父さんと?初めて聞いた。誰とどんな繋がりがあったんだろう。普通、接点なんてないと思うんだけど……父さんは一体誰と仲良かったんだろう……。
おばあちゃんもう一つ、教えて。
俺の子供の頃、迷子になった話、聞いてない?」
「迷子ねぇ。さっきからその事を聞くけど、そんなことあったかなぁ。かいちゃんそれは本当にあったこと?」
「え?」
「かいちゃんの夢とかじゃないの?」
「え……」
「そんなことがあったんなら、おばあちゃん知らないはずないんだけど、聞いたことないわ。
さあ、そろそろリハビリ行く時間になるわ。準備しましょう」
夢……だったのか?
俺と祖母はリハビリ室へと向けて出発した。
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