第13話 なんでそんなに俺にしてくれるんですか?

「失礼します」

夜、看護師の木村が食事を運んできた。


「まだお粥しか提供出来ないんですけど、好きかな?1人で食べるのも大変だと思うけど、できる限りたべてくださいね。少しずつ口からも栄養をとっていきましょう」


 俺のベッドにあるサイドテーブルに乗せてくれた。

 そしてもうひとつの料理が運ばれてきた。その食事は書斎机に置かれた。


「では、ごゆっくり」


 木村さんが出ると同時に雄一郎が入ってきた。


「よし、飯だ、飯だ!食おうぜ海斗。

 さて、お前は久々な食事だもんな。ゆっくり食えよ」


「雄一郎さんもここで食べるの?」


「あぁ、言ったじゃないか!飯だけじゃないよ、寝るのも今日から俺は毎日ここで寝る。

 医師の仕事以外は全部ここでやるから、寂しくないぞ、よかったな!

 右手はだいぶ動くだろ?スプーン持って頑張れ。食べるのもリハビリだからな」


「雄一郎さん、この部屋ってさ特別室なんだよね?」


「あぁ、それがどうかした?」


「なんで僕が特別室に?」


「ここじゃないと俺は落ち着いて寝れないからな。どした?ここじゃ不満か?何が不満?なんか足りないもの、欲しいものあるか?あるなら何でも言えよ」


「いやいや、そうじゃなくて……。料金高いんじゃない?」


「金が気になるのか?入院費などは気にするな。ここは創新会だ。お前の入院費などこの病院にいる限りは何も気にしなくていいさ。

 言っただろ?どれだけお前が俺の金を使おうと、そんなもんで使いきれるほど、俺の資産は少なくない。だから気にするな!」


「雄一郎さん!なんでそんなに俺にしてくれるんですか?そんなにされる理由がわかりません。

 どんなにしてもらっても俺には、何も返せませんよ」


「返す?お前が?おかしなことを考えなくていい。

 お前はただただ俺の言うことを聞いて、身体を治せばいいんだよ。

 もういいから早く飯を食え、冷めるぞ」


 核心には答えてもらえない。初めて会ったその日から何度も俺は何度も聞いていた。


『どうしてこんなにしてくれるんですか?』

『あなたは何なんですか?』


何度聞いても俺の疑問が解決するような返答は返ってこない。

他にも聞きたいことは山ほどあるけれど、聞いても笑うだけで、いつも核心には答えてくれない。俺は黙ってお粥をたべることにした。

 食事が終わるとまた雄一郎は出ていった。

 3時間ほどしてジャージ姿の雄一郎が帰ってきた。


「よし、寝るか!」


ベッド横のカウチソファをベッドに変え、ロッカーから布団を取り出し持ってきた。


「ホントにここで寝るの?」


「当たり前だろ?嘘ついてどうするんだ。

 今日はまだ初日だ。疲れてるだろ、ほらもう電気は消して寝るぞ」


 身体は、何もしていないのに疲れていた。

 沢山今までも寝ているのに、今夜もすぐに眠ってしまった。



 夜中、なぜだか目が覚めた俺は自分の足に違和感を感じた。薄目を開けて見てみると雄一郎が俺の足をさすってくれていた。


「元気になーれ、元気になーれ、動くようになーれ、動くようになーれ……」


小さな声で呟きながら足をさすりマッサージをしてくれている。そのマッサージはとても気持ちが良く、血行も良くなってきたのかポカポカしてきた。俺は起きたことも気づかれないようにそのまままた眠りについた。




「おはようございます。成瀬先生も起きてください」

看護師がカーテンを開けにきた。


 特別室に移って早くも数日が経過した。

 ここでは毎朝6時半に看護師が起こしに来てくれる。7時には朝食が運ばれてきて俺は雄一郎と一緒に食べる。

 朝食後、雄一郎は俺の顔を拭き、歯磨きを手伝って、着替えて出勤する。といってもエレベーターを降りていくだけだ。なので8時からミーティングというのに、7時55分にここを出る。毎日ギリギリ出勤だ。


 その後、昼前に診察をしてくれて一緒にお昼ご飯を食べる。


 昼を食べ終わると雄一郎はまた急いで仕事に戻り、その後夕方までは戻って来ない。

 夕方に来て俺の診察をして、ご飯を食べたらまた降りていく。その次に帰ってくるときはジャージ姿になり寝に現れるのだ。そしてその時間はいつも夜遅くなってからだった。本当に忙しそうである。


 だが、この日は違った。


 16時、突然雄一郎が大きなカウンターを引いて入ってきた。

「よっしゃー!さ!楽しみだったことを始めるぜ!」


「楽しみ?」


「フフフッ……今から俺がお前の身体を拭いてやるんだよ」


「え?……雄一郎さんが僕の身体を拭くの?」


「なんだよ、嫌なのか?俺は前に説明したぞ?俺がするって。

 それともお前は、俺よりも若い女性看護師がいいっていうのか?」


「え……」

想像するだけで顔が赤くなる。


「ほらみろ!その方が恥ずかしいだろ?だから俺がやってやるよ。安心しな、医療行為だ!」


 部屋に鍵をするとお湯などが入った洗面器の清拭セットを出してきた。

 顔は毎日拭いてもらっていたが身体は初めてである。


「身体って……どこまで……?」


 ガウンの紐がほどかれる……俺の心臓がうるさい。緊張する……。

 緊張を隠したい俺は質問する


「雄一郎さん、雄一郎さんって何歳?」


「なんだ?急に。やっと俺に興味もったか?いいだろ、特別におしえてやろうか」


雄一郎はゆっくりと俺の身体を拭きながら話し始めた。

「俺の年齢は今26歳だ。

 園にいったとき、会長が話したように俺は14歳なる直前に単身渡米して、必死で勉強して勉強して、なんとか2年飛び級したんだ。

 んで、17から医学部に入って6年間、医師になるためにみっちり勉強してやっと、医師国家試験に受かり晴れてお医者さまになったってわけさ。

 で向こうで働きながら日本でも医師として働けるように色々準備をしたんだ。


 去年の春、25歳でやっと日本で働ける許可がおりて凱旋帰国したってわけだ。

 ちなみに13歳の終わりから一度も俺はそれまで日本に帰ることはしなかった。1人、本当にひとりで必死に頑張ったんだぞ?偉いだろ!」


「なんでそんなに頑張れたの?」


「頑張れた理由?それは……秘密だな。いつか教えてやるよ」


 雄一郎はだんだんと俺の右足を拭き、左足の拭ける部分を拭いてきた。そして、おもむろに俺の大事なものを掴み拭き始める。


「え?え??ちょっちょっ……」


「動くな!大事な医療行為だ!ここは細菌が繁殖しやすいからな。入念にやってやるから安心しろ」


俺は震えるように呼吸を大きくした。


   冷静になれ!冷静に!医療行為だ!

   清拭するだけだ!拭くだけだ!



 わかってはいるが、アソコは反応してしまう。


 恥ずかしい!穴があったら入りたい!


「恥ずかしがるな、年頃のお前が全く反応しないのもそれはそれで問題だろ?

 ティッシュならそこにあるから今日はこのまま俺以外は誰もこの部屋には来ないからあとは好きにしろ。片付けは夜にしてやるから、自由にしろ。じゃあな」


そう言うと雄一郎は部屋を出て行った。

絶対、反応したオレのをみて茶化すかと思ったら真面目に対応し出て行った。そういうところは医者なのだ。


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