第12話 今日からここが俺の家だ!
「じゃ落合さん、これから移動しますね」
今日から俺は回復室を出て、一般病棟へ移ることになった。もちろんまだ起き上がることも何一つ出来ないので、ベッドごと移動していく。
これで雄一郎さんに会える回数は
減るんだろうな
回復していくのは嬉しい反面、ことあるごとに顔を見せてくれていた雄一郎に会えなくなるのが少し寂しく思えた。
エレベーターに乗り、降りてもまだだいぶ進む。
するとまた別のエレベーターに乗り上がっていく。
大きな病院だから一般病棟は遠いんだな……
エレベーターから降りると景色が一変した。今までは壁一面、クリーム色の優しい色で壁は塗られていたのだが、ここはダークブラウンの落ち着いた色合いで広がっている。よく見えないが、素材も違いそうだ。
ベッドを運んでくれている看護師さんたちの足跡もしなくなった。どうやらタイルではなく絨毯のようだ。
ん?なんだ?
一つの部屋に入っていく。
「落合さん、お部屋につきましたよ。
それじゃベッドを変えますね。移動します。いちにさん!」
ベッドへと移された。とても気持ちのいい布団をかけられた。今までとは比べ物にならないほどの 、ベッドの寝心地だ。
回復室のベッドだって別に悪いわけじゃないけど、ここのは別格だ。
俺は部屋を見渡す。
大きなモニターに応接セットに、書斎机?。ミニキッチンまでありそうだ。
広い……
俺の部屋が2つも3つも入りそうだ。
「失礼します、落合海斗さまですね?
わたくし、特別室フロア担当主任看護師の木村と申します。
今後は、いつでもどんなことでも構いません。何かして欲しい時、困った時、なんなりとコールを鳴らしてください。できる限りのお世話をさせていただきますのでよろしくお願いします。
それから担当医師の成瀬先生ですが、今あいにく大きな手術中なので後ほど、夕方かな?こちらに来られます。通常、部屋を移動された場合、すぐに医師に診てもらうのですが、どうしましょうか?今だけは他の医師が診にきても大丈夫でしょうか?
それとも、成瀬先生じゃないとということならば、お待ちになりますか?」
「ちょっ、えっ……え?。ここは特別室?て言いました?え?」
俺は明らかにテンパっていた。
「はい。こちらは特別室です。
落合様にはこちらをご利用してもらうようにと、申し付けられております」
誰から?などとは愚問だから聞かなかった。
「そうですか……僕で間違いは無いんですね。
えっと、木村さん、ではよろしくお願いします。
僕は別に医者は雄一郎さん……じゃなくて、成瀬先生じゃなくてもいいです。誰でもいいです。
そもそも僕の担当医は、成瀬先生だったんですね?」
「はい、ご存知なかったんですか?成瀬医師は、あなたを診るために今こちらに出勤されてますよ。直直に診てもらえるのは本当に凄いことなんですよ」
「え?普段がここに勤務なんじゃ……」
「いえいえ、ほとんどがうちに出勤なのですが、週に通常2日は総合病院のほうへ行かれてるんですよ。
それが今は全てをここにされてて、さらに休みも返上されて。本当に毎日ここにいらしてます。
こんな事初めてですよ。
よほど落合様が大事なんですね。
さて、それでは成瀬先生に確認して、今すぐ診ていただく医師を決めてこようと思います。
落合様はお疲れになられたでしょうから、少し間でもゆっくりとしてくださいね。
右手は動くと聞いてますが間違いないですか?
右手の横、こちらに当室内のリモコンを置いておきます。当室内のほとんどをこのリモコンで行えますのでご自由にお使いください。
また、落合様の携帯電話もこちらに。充電も済んでおります。
それでは私はそろそろ失礼します」
木村は部屋から出て行った。
俺はスマホの電源を入れる。沢山の着信、メッセージが入っていた。あの事故から6日も経っていた。
一つ一つのメッセージに返事をしているとあっという間に1時間以上が経過した。
代わりの先生が診にくるように言っていたが一向に来ない。
俺は疲れていつのまにか眠ってしまった。
ガチャッ
部屋の扉が開く音で目が覚めた。
「海斗、お待たせ」
雄一郎が、入ってきた。俺はうっすら目を開け、寝ぼけて甘えるように手を差し出した。雄一郎は手を握ってきた。
「どした?大丈夫か?ん?どこか痛いか?
それとも寂しかったか?」
「な……なんでもない」
自分の行動に驚き、慌てて手を引っ込めようとするが、雄一郎のほうが力が強く手離してくれない。
「ごめんな、手術が長引いた。
よしよし、とりあえず身体の状態を確認しよう」
身体の隅々まで確認しながらガーゼ交換をしてくれる雄一郎。患者と医師なのだからあたりまえだが何度やっても裸を見られるのは恥ずかしい。
「よし、今日の状態も順調だ。
さて、海斗お前いまだに自分がどれだけの怪我をしたかわかってないだろう?そろそろ説明をしようかと思うが、一人で聞くか?それともお袋さんがきてからにするか?お袋さんにはお前が眠ってる間に説明してるがな」
「は?1人で聞けるよ」
「フフッそうか?じゃ。
頭部は強打、左腕、鎖骨、左足に骨折があるのと、腰骨はなんとか打撲で済んでるよ。打撲は他にも、右腕も背中にもあるからとにかく全身傷だらけだ。
ということでまだまだ当分動けないからな。
入院期間は、お前が1人で生活できるレベルまで泊まってもらうから、おそらく数ヶ月はこのままだ。
退院目標は、ゴールデンウィークってとこか?」
「は?まだ2月初めだぞ?あと3ヶ月は入院てこと?
家のことも、勉強のこともあるのに……」
「施設にはアルバイトを増やすように伝えている。
それから勉強は問題ない、おれが教えてやるよ」
「嫌だね、なんであんたから教わるのさ。絶対嫌だ」
「お前のお袋さんにもそれは断られたよ。お前がいいって言ってくれたら、貫こうかと思ったが……仕方ない。
じゃ明後日から平日昼間は家庭教師にきてもらうことにするよ。
体調のこともあるから最初は1日1時間からスタートしよう。様子を見ながらな。
それから、今の状態だと動けないから心配ないけど、この部屋以外に出ることは禁止だ。部屋を出れるようになったら段階を踏んで許可をするからそれまではこの部屋にいるように。
それから……」
「まだあんのかよ?」
「これが最も重要なことだ。
清拭、身体を拭くことなんだが、お前の身体を拭くのは俺がやる。着替えも。何もかもな。
つまり、お前の世話は俺がやるから、そのつとりでな。
もちろん夕方に拭いてあげるようにするよ。そのあとのご飯の介添えもいるしな。
俺は忙しくなるから大変だし。てことで、この部屋に俺は住むことにする。
今日からここが俺の家だ!」
「は?」
「じゃ俺はもう少し仕事してくるから。じゃあな」
そう言うと雄一郎は俺の髪をくしゃと触り出て行った。
「ちょっとちょっと待って!どーいうこと?
え?この部屋が家?は?どう言うことー?」
俺の質問は聞こえていたはずだが無視して部屋から出て行かれてしまった。
嫌な予感しかしねぇ…………
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