第11話 空が見えた

修学旅行二日目

 レンタルスキーウェアを身にまとった俺はスキーの初心者講習を受ける。先生はとても親切で優しく丁寧。俺はグングンと滑れるようになった。


「簡単じゃん!」


 1時間半の講習ですっかり滑れるようになった俺は、リフトの乗り方も教わり、早速山へとチャレンジする。

 これがまた上手く滑れる、滑れる。

 こうなったらやっぱり上へ行くっしょ!とさらに山の上へと向かった。


 午後には初心者コースでは物足りなくなり、中級コースをトライしてみる。1回目で難なく滑れた!


「俺って天才か?」


   よし!次は上級コースだ!




 この時の俺は完璧に調子に乗っていた。





 上級コースのリフトに乗ってみる。どんどん山を登っていく。

 リフトを降りるとそこは今までとは景色がまるで違って見えた。

 さすがに足がすくんだ。


「え?海斗?お前初心者だろ、ここはダメだって」


滑れる同級生が心配してくる


「大丈夫だよ、俺マジで才能あるから」


「かいとー!どうする?やめとくか?やめとくならリフトに乗って下ろしてもらえるらしいぜ?」


「やめる?大丈夫だよ!俺すべれるから!」



「ほんとか?無理するなよ。

 お前はゆっくり降りてこいよ!じゃ俺らはいくぜー?」


同級生は滑り出す。


「お、おー!」


俺も後を滑っていく。ゆっくりゆっくりと。


雪が深い、雪が深くて山の傾斜がわかりづらい。


前の人が滑ったあとを滑ってみる。


少し楽に滑れた。



   よかった、これなら大丈夫だ。




少しだけスピードをあげてみる。



    滑れる!いける、行けるぞ!




さらにスピードをあげてみる。




次の瞬間……



俺の人生が終わったと思った……




 視界全て一気に雪で覆われたとおもったら今度は、空が見えて、また雪に覆われた……




「いってーー……」



気づくと空を見上げていた……

雪に埋もれたところから空を見ていた……

動こうとしても、腕も足も手も、何もかも動かなかった……



  え…………





「かいとー!」



 名前を呼んでる声が聞こえる。


 遠くで聞こえる。



   おれはここだ!



 答えたいが声すら出ない……



 段々と意識がなくなるのがわかる……




   俺……死ぬのかな……




完全に意識がなくなった。

どれくらい意識がなかったのだろうか。俺は目を覚ます。


「海斗くん、海斗くん!

 お、反応あるね。

 海斗くん、落合海斗くんだね?わかるかな?助けにきたよ。もう大丈夫、すぐに引き上げてあげるからね」


「えっ…………たすける?」


オレンジ色の服を着た人たちが俺を取り囲んでいる。

レスキュー隊員だ。



「ヘリで運ぶからすぐ病院いけるからね。大丈夫だよ。連絡先とか、持病とか記してるようなものあるかな?」


「胸ポケットに、書いたものが……」


絞り出すような声で俺は答えた。

レスキュー隊員は俺の胸元を探す。母が用意してくれていた緊急連絡先のポーチを取り出す。

俺は寝たままで、ヘリへと運ばれる。


 生まれて初めて乗ったヘリがドクターヘリだ。

 色々と見たいのに、何度となく意識が遠のく。



「え?本当に?いいんですか?わかりました」


レスキュー隊員の驚く声でまた目が覚めた。


「海斗くん、起きた?キミは一体何者なんだ?」


「え?」


「創新会グループから、キミを高度救命医療病院まで運ぶようにとの指示だ。

 あそこは、ホントの重体じゃない限りなかなか引き受けてくれない病院なんだよ。

 すごいよ、よかったね。

 あそこの医師はどの先生も日本国内のトップレベルだ。きっときみは、十分に助かるよ」


「創…新…会……?、雄一郎……さん……」


 俺は涙が出そうになる。人生全て、あの瞬間に終わったと俺は思った。自分は死ぬのだと思った。もう、二度と誰にも会えず、何も手伝えず、人生終わったと思った。



 けど、あの人が俺を助けようとしてくれている。治そうとしてくれている。

 生きた状態でまた彼に会えると思うと、安堵感でついに涙が出てきた。



 ヘリの降下で、眠っていた俺は目が覚めた。



 扉が開く。俺は寝たまま降ろされる。俺の視界に雄一郎が入ってきた。


「雄一郎さん……」


 ヘリの音で俺の声は、かき消されていたのか、雄一郎は反応しない。


「雄一郎さん……雄一郎さん……」


 小さな声で何度も何度も繰り返し名前を呼ぶ。

 その都度反応を見るが、雄一郎にはこの声が届いてないのか、無反応が続く。

 またしても俺の目から涙が溢れてくる。


 俺はすぐさま処置室に運ばれた。

 雄一郎の顔が近づく。やっと俺の顔を見てくれた。


「海斗、話はあとでゆっくりとしよう。まずは処置だ。お前の身体は早急に手術が必要だ。俺らを信じて任せてくれるか?

 じゃ、しばらく眠っててくれ。いいな?」


俺は頷く。そして、眠らされた。




 次に目が覚めると俺にはたくさんの管が付けられていた。そして体は異常に寒く感じるものの、身体のどこを動かそうとしても動かなかった。


「落合さーん、目が覚めましたか?良かった。

 ここは回復室です。しばらくここで様子を見て大丈夫になったら病室へと行きましょうね。

 さて、受けられた手術についてなどは、先生からお話がありますから、それまではもう少し寝てて良いですよ。

 大丈夫、手術は大成功してますから安心して寝ててくださいね」


 優しそうな看護師さんである。



「主任、落合さんが目を覚ましましたよ。目を覚ましたら、ジュニアに連絡をしないといけないんですよね?ジュニアってまだここにいるんですかね?

 ってジュニア?え?」


バタバタバタバタ……

俺に急ぎ近づく足音がする


「海斗!目を覚ましたか?大丈夫か?

 良かったー…………」


雄一郎が俺の顔を撫でる。


「あれだけ、気をつけろって言ったのにお前は……。

 もしものために軽井沢の消防へ連絡しといてよかったよ、早々にここまで運んでもらえて。本当によかった。地元の変な病院に行かされなくて」


「もしものために……?」


「あぁ。知り合いにな、お前がいる近辺から出動依頼があったらお前かも知れないから、その時はすぐさまウチまで運んでくれるように頼んでたんだ。よかったよ、本当に。

 しかし、本当にお前が運ばれると知った時の俺の気持ちわかるか!

 このバカ野郎!

 初心者が山の上まで行くんじゃないよ!まだリフトから降りてすぐのとこだったから、連絡もすぐ取れて、ヘリも飛ばせたんだけど、もし、万が一山のどこかの沢にでも落ちてたらどうする?


 俺がどれだけ心配したか……。


 よかった、大事に至らなくて……。


 あ、悪いのは右足と、鎖骨と右腕だけだから。あとの内臓は大丈夫だったよ。ほんと良かった。

 とは言え、何一つ自分ではしばらく出来ないから、入院してリハビリ生活になるよ。普通の生活がおくれるまでの、長期入院生活だ。


 園には連絡しといた。お母さんがすぐにでもこっちに来ると言ったが、俺たちがいるから大丈夫、長期入院だから、荷物をまとめてからゆっくりとくればいいと伝えたよ。


 入院生活だが、決してお前に寂しいおもいはさせないから大丈夫だ。俺がお前を守ってやる。そばにいてやるからな」



「え…………」


   俺がお前を守ってやる?

   そばにいてやる……?



 雄一郎は俺の顔をなでる。俺は涙が止まらない。

 そして思い出していた。

 子どもの頃、ヒーローが俺に言ったセリフを……。



『大丈夫だよ、もう泣かなくて良いよ。

 僕が守ってあげるから。そばにいてあげる!』



雄一郎を見る

あの時のヒーローと同じ、優しい目で雄一郎は俺を見ていた……。

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