第7話 突然の訪問客

 父が亡くなり、年末年始もあったこともあり、あっという間に3週間が経った。

 母も落ち着きを取り戻し、施設の管理がまた出来るようになった。


「手伝うよ」


 俺は毎日起きたらすぐに、母の元へ行き自ら手伝いをかってでていた。

 母を守ること、助けることが俺にとって今一番やらないといけないことだとわかっていたからだ。

 そしてそれは、かつてヒーローが俺を助ける、そばにいると言ったように俺は母のそばで助けようと思っていた。


「おはようございます」


 井上さんもまだ毎日来てくれている。


「おはようございます井上さん。いつもありがとうございます。

 で、今日は僕は何からしたらいいですか?」


「海斗くん、明日から学校だよね?準備は大丈夫なの?」


「はい、ちゃんとやれてますよ。大丈夫です」


「そう?ならいいんだけど。

 実は今日は、施設にとって大事な大事なお客様が来られるんだ。そしてその先方は海斗くんに会いたいといってるんだが、一緒に応対を頼めるかな?」


「もちろんです僕でよければ。で、誰なんです?」


「創新会という、関東を中心にある大手の医療グループなんだ。海斗くんは知ってるかい?」


ガシャン!

 洗い物をしていた母が皿を一枚割った。


「井上さん、創新会が海斗に会いたいと?」


母が慌ててこちらに来た。


「はい。海斗さんにもぜひ会いたいと。いけませんでした?」


「いえ……。わかりました……。」


 俺は違和感を感じたが、なぜか母にそれ以上聞こうとは思わなかった。




 俺はいつものように家の片付けや洗濯などを手伝う。

 そしてひと段落がついた頃、事務室へいくと井上さんが1人パソコンの前に座っていた。


「井上さん、創新会は関東からわざわざ何をしにくるんですか?」


 母が事務室にいないのを確認して聞いた


「海斗くん、さくら園は我々行政からの助成と一般からの寄付で成り立っているのは知ってるよね?

 その状況下でどこの施設も経営はギリギリで行われているもんなんだけど、さくら園は他の施設よりも金銭的に少しだけ裕福なことも知ってる?


 それは紛れもなく、大手からの多額の寄付があるからなんだ。

 そしてその多額の寄付をしてくださっているのが、創新会なんだよ。

 昔からずっと支援し続けてくれているようだ。

 なぜさくら園にこれほどまで高額な寄付をしてるかは僕には分からないけどね。


 創新会は、毎年年に一度、春にこの施設を訪ねてきていたようなんだけど、お父さんからこの話を聞いたことない?知らなかった?


 僕からしたら、1番のスポンサーに『線香をあげたい、様子を見にいきたい』と言われて断る理由などないと思って、他の方同様に、お母さんに聞くまでもなくお受けしたんだよ。

 さっき聞いたらお母さんは、いつかは来るだろうと思ってたけど、学校が始まってみんながいない平日の昼間に来るんだろうと思ってたみたいだけどね。


 今日10時に来られるとは……で驚かれてたそうだよ。

 いま9時だからあと1時間ほどでこられると思うよ」


 時計を見る、時刻は9時08分。


   創新会……

   俺でも知ってる関東にある大病院グループだ

   だがうちと関係があるなんて聞いたことない


   なんでそんな大きなところがうちと?

   父とどんな関係だったんだろうか……



 俺は考えながら自分の仕事へと戻った。




「かいとにーちゃーん、おきゃくさんだよー」


   来た!


3度目の大量の洗濯物を干しているときに呼ばれた。俺は洗濯物をそっちのけで玄関へと走って向かった。


 玄関の外に出てみる


 そこに立っていたの



「おまたせしました!って京介?」



 京介だ!



 俺は少しだけパニックになった。


   お客様が京介?京介が創新会?

   え?え?



「久しぶり。突然来てごめん、少し話せる?」


「あぁ少しだけなら……。

 てお前、創新会じゃねぇよな?」


「ソウシンカイ??なんだそれ?」


「いや、いい。なんでもない。違うなら良いんだ。

 洗濯物を干しながらでもいいか?この後お客さんが来る予定だからそれまでの時間なら話せるよ」



 俺は家の裏手にある洗濯干し場に京介と向かった。


「海斗……元気になったか?

 お父さんのことを年末には知ってたんだけど、大変だろうからと思って今まで顔出さなかった。ごめん」


 京介の話を聞きながら、俺は洗濯物を干す。


「謝ることじゃねぇよ。

 立場が逆なら俺もどう連絡すればいいかわからなかったろうし」


「すまなかった………」


「………………」


俺は沈黙が嫌いだ。何かを言わなければと焦るからだ。


「京介、あのさぁ、あの時のことなんだけど……」


「あの時?」


「冬休み前の終業式の日のこと……」


「あぁ……」


「あのときは本当にごめんな。忘れてくれって言いたいけど、忘れられないよな?」


 あの時……、おれは誰もいない教室で京介にキスをしようとした。

 寝ている京介に一方的に……激怒されても仕方のない行為だ……。


 京介からの返事を待つ時間はとても長く感じる。


「海斗、俺、いま彼女いるから。ごめん……。

 でも、よければ……」


京介がそこまで言ったところで、パンパンパン!突然手を叩く音がした。


「ハイハイハイ!」


俺は音の方を見る。

手を叩くその人は、おしゃれスーツに身を纏い背も高く端正な顔立ちのイケメン男性がそこにいた。


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