第8話 おしゃれスーツを着た男性
パンパンパン!
突然手を叩く音がした。
「ハイハイハイ!」
手を叩くその人は、おしゃれスーツに身を纏い背も高く男性な顔立ちのイケメン男性が話しかけてきた。
「お取り込み中のようだけど、すみませんが僕たちとの約束の時間なんでね。
息子さん、あなたが海斗さんですよね?僕は創新会のものです。
こっちで僕らとお話いいですか?
すみませんが僕らには滞在時間が限られてるんでね。あちらで会長がお待ちです」
おしゃれスーツをビシッと着こなした男性が壁にもたれて立っていた。
「創新会の方ですか?すみません、すぐに向かいます。
京介ごめん、お客様が来られたみたい。俺行かないと!
また学校で話そう!じゃあな」
俺は慌てて残りの洗濯物を干し、おしゃれスーツの男性の方へと走っていった。
「すみませんお待たせして……」
「いえ、時間より少し早く来てしまったのはこちらでもあるので。
それより先ほどの彼は、キミの彼氏?つきあってるの?」
「え?……。クラスメイトです……単なる。
彼には彼女居ますので……」
「へー……あの子彼女いるんだ。てっきり海斗くんのこと好きなのかと思ったけど」
「そんなことないですよ。さっきもフラれたし……」
ドン!
男は突然俺の目の前に腕を伸ばし、顔を近づけてきた。
「へー……。
フラれた?てことはキミは彼のような人が好みなんだな」
目は切長で鋭く、そしてこの時の声はとても低く……怖く感じた。
目も声も、何もかも怒っているように感じた。
殺されるんじゃないかと思えるほどの恐怖を感じると同時になぜだか胸が高鳴るのを感じた。
俺たちは応接室に向かう途中、和室からの声がするのでそちらに行くと、中年の男性が仏壇の亡き父へ線香をあげてくださっていた。拝み、振り返りと
「雄一郎さんもどうぞ」
とても優しい表情でいう。
するとおしゃれスーツの男が仏前に座った。
この男の仕草はどれも綺麗だった。
線香に火を灯しあげます。ひとつひとつの仕草はどれも、とても綺麗だった。
「それでは応接室にご案内します」
俺、井上さん、中年の男性、若い男性は向かい合い腰掛けた。
「あなたが海斗くんだね。やっと会えたね。
初めまして。
私は創新会グループで現在会長をしています、成瀬伸次郎と申します。
あなたのことは子どもの頃から、お父さまからいつも話を聞かせてもらっていてね、写真も毎年年賀状でいただくのをとても楽しみにしていたんですよ。
今まではどうしても、あなたが学校の時間しかここには来れなかったから、初めてお会いさせてもらいますね。
あぁ、あなたの話を聞きたいんだけど、いいかな?」
中年のこの伸次郎という男性は、物腰はとても柔らかく、いかにも優しく良い人!というのが滲み出ているような人である。
「はい。なんでも」
「よかった!じゃ、聞くね?
キミは高校2年生になったね。
学校はどうかな?勉強は出来てる?友達はできたかい?もしかして、彼女とかもいるのかな?部活は?学校のことで困ってることはない?
あぁ、それから、休みの日は何してるの?
楽しい時間は何?アルバイトとかもやってるの?塾とかは行くの?お小遣いはもらえてる?
あー、好きな食べ物とかは?何が好き?何が嫌い?」
予想だにしないほどの怒涛の質問攻めだった。
「えっと……、えっと……、一つ一つ答えますね。
学校はとても楽しいです。友人もできました。勉強は苦手ですけど、精神保健福祉士を目指してます。だから学校行ってるって感じです。
彼女は……」
ちらっと俺はおしゃれスーツを見る、男はじーっと俺を見ている。
「彼女はいません。部活も中学の時はバスケをやってたんですけど今はやってません。学校のことで困ってることですか?とくにないですね。
休みの日は、園を手伝うか自転車でフラフラと走ってます。フラフラと……どこいくわけでもなく走ってます。
アルバイト……では無いんですが、この園を手伝うことでお小遣いをもらってます。
塾は行ってないですね。それは贅沢だし、それに時間を拘束されたくないんで。
好きな食べ物は、オムライス。嫌いな食べ物は、苦いピーマンかな。こんな感じです」
伸次郎は頷きながら温かい目で聴いてくれた。
「雄一郎さんからも質問があればしたらどうですか?」
「それじゃ聞かせてもらう。
君の答えで、これからの創新会からの寄付に響くわけじゃないから、正直に本当のことを答えてほしい。
キミの将来の夢はなんだ?本当になりたいものはなんなんだ?」
将来の夢?
そんなものは分かりきっている
さっきも伝えたはずなのに何なんだ?
「僕はこのさくら園を継ぎたいと思ってます。
だからその為に今は勉強しています」
「それは本心か?何となく、周りの影響で諦めたりしてないのか?本当になりたい職業は他にないのか?」
随分と失礼なやつである。
「本心ですよ。なりたいと思ってます。
ていうかあなたは誰なんですか?」
みんな驚いて目を合わせている。
その時母が入ってきた。
「成瀬雄一郎さん……ですよね。
お久しぶりです。日本にはいないと思ってました」
雄一郎は、立ち上がり母に深々とお辞儀をした。
「ご無沙汰しています、落合さん」
「これは失礼、海斗くん僕から説明をさせてもらうね。この子は僕の息子で雄一郎と言います。14歳のときから自ら決断してアメリカに行っててね、こう見えて飛び級で外科の医師になってるんだよ。
そしてこの夏、やっと日本でも医師として働けることになり、帰国してもらったんだ。
普段はうちの病院で外科医としてインターンからスタートして働いているよ。
そして、これからはここ、さくら園の担当は彼にやらそうと思っています」
「雄一郎さんが?」
母はひどく驚いている
「えぇ、落合さんさえ良ければね」
「そうですか……。いつかはそうなると思ってましたよ。おかえりなさい、雄一郎さん。これからはよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。
では早速今後について話しましょう。
寄付額ですが、今後も変える予定はなかったのですが、施設長も亡くなり、スタッフひとりひとりの負担が増えたことでしょう。
もし寄付額を増額しスタッフを1人2人増やせて、みなさんの負担が楽になるならそうしてもいいのでは?とおもってます。いかがですか?」
雄一郎をみる。真剣に今後の話しをしている彼は、カッコよく綺麗で見惚れてしまう。
そんな俺の視線を感じたのか、突然こっちを見てきた。
ドキッとした。目が合うだけでドキドキしてくる。
俺は慌てて視線を逸らした。
もう一度雄一郎を見る。
俺のドギマギを感じ取り、嘲笑うかのように微笑んでみせた。
なんなんだこの人は!
大人の余裕か?
「それじゃ最後に、僕は初めてここに来たので、施設内を見学してもよろしいですか?」
「えぇ。どうぞ思う存分、なかの様子をご覧になってください」
母が答える。
「それじゃ、案内を海斗くん頼むよ」
何で俺が?そんなこと言えるわけない。
だが、彼と一緒に歩く思うだけでドキドキする。彼に見られてると思うだけで緊張してしまう。
「こ……こちらへどうぞ」
俺は、雄一郎に施設内をひとつひとつ案内していくことになった。
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