第6話 父親の偉大さ
世の中はクリスマスシーズン一色の12月23日。
我が家は葬式やら何やらと忙しく過ごしていた。
学校も冬休み突入というタイミングだったので、自分も、施設で預かっている子たちも、みんな学校のことを考えなくて良い、その点はとても助かるタイミングであったが、突然の主人を亡くした喪失感で誰もが動揺し、冷静ではいられなかった。
「息子さん、これなんですがどうしましょう?」
喪主は俺がつとめている。
誰よりも冷静で、今この場にいる誰よりもしっかりしていたからだ。葬儀社との打ち合わせや住職の手配も全部俺が務めていた。
母は、施設の子どものたちと一緒に泣き腫らし、憔悴しきっていた。
「海斗くん、大丈夫?」
親戚や施設で働いてくれてる人たちはみなこのように声をかけてくれる。
「俺は大丈夫です」
「さすがね、もう高校生だもんね。しっかりしてるわ。」
「良い息子さんに成長してるのね、これなら安心だわ」
「やはりこれも血かしら?お父さんに似て、賢くしっかりしてる。とてもいいわね」
聞こえるように褒めてくれる。
褒められるようなことはしていない
本当は俺だってツライし、しんどいし、
泣きたい
子どもの頃のように、
何もかも、
わからないほどに泣き腫らしたい
けど今俺がそれをすると
誰が葬儀の準備するんだ?
誰がこの家を支えるんだ?
誰が、母を支えるんだ?
これからは俺は
母を守らないと
母を支えないといけないんだ
一生懸命、気を張り対応し続けた。
あっという間に日々は過ぎていった。
初七日も過ぎ、少しだけ自分に余裕ができた俺は家長としてこれからの家のことを考えていた。
母は未だに憔悴しきっている。そんな母を心配して行政から社会福祉士の井上さんという、今までも何かあれば助けに来てくれていた男性職員の方を派遣してくださり施設の方の運営を助けてくれていた。
そして井上さんに教わりながら、俺もできる限り関わっていた。
「井上さん、次は何をしましょうか?」
「海斗くん、じゃ手紙の整理ををお願い出来るかな?お父さんへの手紙がすごくたくさん来てるんだ。全国から。
ひとつひとつ、海斗くんがお父さんの代わりに読んであげてくれないか?
さすがにこれは僕が開けて読むわけにはいかないからね」
そういって渡されたのは段ボールいっぱいある手紙だった。
父の知り合い、施設の関係者、施設の卒業生、近くの学校関係者、寄付という形で関わってくださっていた方々……本当に多くのかたから手紙が送られてきていた。
俺はその一つ一つに目を通していった。
全て、父に対する感謝の念が書かれていた。
途中何度も胸が張り裂けそうになりながらも、俺は読み続けた。
そして知る、父親の偉大さ。
「井上さん、父ってすげー人だったんですかね?」
「海斗くんからしたら、普通の父親と思ってかもしれないけど、僕なんかからしたら、君のお父さんは物凄い素敵でカッコよくて、出来た人で、尊敬以外の何者でもない人だったよ。
僕の人生において、あんなに素敵な人と出会うことは、きっともうこれからは、ないんじゃないかって思うくらい、素敵で尊敬していたよ」
父親の偉大さ……
失って初めて知る偉大さなのでした。
「海斗くん、こんな手紙も発見したんだけど、これも今、読むかい?」
渡されたのは一つの白い封筒
表面には、『海斗へ』と見慣れた字で書かれていた。
父から俺への手紙だ。
「これは?」
「金庫にあったんだ。見つけた時に海斗くんの心が落ち着いたら渡そうと思って持ってたんだ」
俺は手紙を見つめた
「どうしよう……これ……
なんだ?どうしよう……」
生まれて初めてもらった父からの手紙
持つ手が震える。
「別に今すぐ開けなくていいと思うよ。無理しなくて良いと思う」
「うん、ありがとう。
今はまだ……やめとくよ。
いつか、いつか見ようと思うその時まで、この手紙は俺の部屋にしまっておくよ」
俺は手紙を自分の部屋の机の引き出しに、隠すようにしまった。
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