第4話 冬の夕暮れに……
学校の休み時間という時間全てに京介の彼女がうちの教室に来るようになった。学校帰りも京介は俺とではなく駅まで彼女と帰るようになった。
他の誰とも話させないかのように独占力が凄い彼女に遠慮して、俺は京介の横に立つことも話すこともやめた。
「海斗、ちょっといい?」
京介に彼女が出来て1週間、京介から話しかけてきた
「今週の土曜日なんだけど……」
「あぁ、休み時間に話してるの聞こえたよ、彼女とデートなんだろ?
いいよ、俺のことなんか気にしないで彼女と出かけろよ。
ほんと、もう俺につきあわなくていいから。
もともとヒーロー探しは俺がひとりでやってること。お前には関係ないことだろ。
今のお前が大事にしないといけないのは、俺のことじゃなくて、彼女さんのことだろ?
だから彼女さんを大事にしてやれよ。
今まで付き合ってくれてありがとうな」
俺は精一杯の笑顔で言って教室から出て行った。
「海斗……ごめんな」
背中越しに京介の声が聞こえた
ツライ……
京介は何も悪くない。
彼女を大事に、1番に考える。それをしてほしいと伝えたのは俺だ。
なのに、俺の心のなかは雨が降っている。切なさが込み上げてくる。
「海斗、帰ろうぜ!」
「あぁ」
ひと月もすると、俺に声をかけるのは京介ではないことが当たり前になっていた。
当然ながら、土曜のヒーロー探しも俺ひとりで行っている。
「きょうすけー、かえろ?」
毎日毎日、甘えた声で京介のもとへと彼女がやってくる。ウキウキしながら、京介の腕に絡んでいく。
「ねぇねぇ、今日こそカフェしてかえるよね?早く行こ!」
見てられねぇ……
と思いつつも何故か京介のほうを見てしまう。
ギロッ
そんな俺の視線が嫌なのか、時折彼女は、俺のほうを見る目が鋭く睨んでくるときがある。
『私の京介に近づかないで!』
そんなふうに訴えているようで、俺は益々京介との距離を開けていく一方だった。
京介と違って俺は社交的だったから、京介以外にもクラスで話せる友人はいる。だから学校でぼっちになることはない。
だが心はぼっちだった
寂しかった
京介と彼女をみると嫌悪感がした
時はすぎ12月、冬休み前終業式の寒い日。
俺は朝から元気で、いつもより早く起きて朝食へと向かう。
「おはよう!母さん、親父!おはよう、みんな!おはよう」
「どした?今日はやけに機嫌がいいな。
明日からの冬休みがそんなに楽しみか?」
「あったりまえだろ?
待ちに待った冬休みだ!
なんだか今日はいい1日になる気がするんだよ!」
「そうかそうか。それじゃ通知表に期待するとしよう。
ハハハッ。
将来、お前はここを継ぐんだろ?だから後継者に見合ったしっかりとした成績が来るんだろうな?」
と、親父
「え?期待していいの?海斗、やったーお母さん嬉しいわ」
と母。
「いや、そういうんじゃなくて……。
まぁいいや、いってきます!」
バツが悪くなりそうなので、いつもより早い時間だが俺は学校へと向かった。
高校に入り、京介との時間が楽しくて楽しくて、俺は長期休みさえ要らないと思っていた。
だがこれからは逆だ。昔のように長期休みを心待ちにする生徒になった。
もう彼女と一緒にいる京介なんて見たくない。
俺は学校へと向かった。
この日は何故か学校でも絶好調。
先日受けた期末テストの結果も、予想以上に良く、なかなか買えない購買の人気プリンも買えた。
クラスの仲のいい女の子からお菓子の差し入れなんかももらって、本当に上機嫌で一日過ごした。
学校が終わり、男友達からはカラオケに誘われたが、俺は断り1人駅へと向かう。
ハァー……
これでしばらくは京介の顔を見なくて済む
俺は駅まで来たところで、忘れ物をしたことに気づいた。
どうする?戻るか?
今日は終業式、今日持って帰らないと明日から学校に入れない……
俺は大きくため息をひとつついて教室へと戻った。
夕暮れの
赤く染まった教室に
京介がただ一人
席に座って寝ていた
ここだけ時が止まってるかのように静かだった。
俺はゆっくりと京介に近づく
久々に近くで見る京介……
インキャな京介だから気づかない人は多いだろうが、京介はかなりのイケメンだ。
まつ毛も長く、鼻筋もキレイで、サラサラの髪からはいつもいい匂いがする。
誰にも知られたくなかった
俺だけが知ってるイケメン京介であって欲しかった
おれの幼少期に出会ったヒーロー本人じゃないけど、今の俺にとってのヒーローは京介だと思っている。
俺だけのヒーローなんだって。
だけど京介は
京介は、もう俺と一緒にはいない
京介の隣はもう俺じゃない
俺は…… 俺は……
京介の口元に俺は、自分の口を近づける……
「俺は海斗のヒーローじゃないよ?」
!!!!!!!!!
あと少しで口と口がふれあうという寸前で、京介は目を開け、言った……
俺は慌てて離れ
「ごめん!!」
そう言って荷物を持ち、教室から出て行った。
急いで、必死に、必死に走って駅へと向かった。
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