第42話 最終話 危険な男との幸せ

 誠は十維を愛車の助手席に乗せ走り始める。


「なぁ、どこに行くんだ?」


「いいじゃないですか。着けば分かりますよ。

 それより、さっき言ってた質問したいことって何ですか?」


「あぁ、あれな……

 あのさ……俺が今日帰ってきた時、家に来てた人って誰だ?

 花束もそいつからもらったんだろ?」


「あぁ、彼のことですか。」


質問しながらドキドキしていた。誠の気持ちを疑ってはないが、それでも気になる。


「十維は彼に会ったことないです?

 彼は落合海斗と言って、若林と同じ同級生なんです。

 彼も同じマンションの住人ですよ」

 

「そうなのか……それだけの関係?」


「んー……仕事上では関係がありますが……

 もしかして仲を疑ってます?

 ハッキリ言っておきます。海斗とはそういうことは何ひとつありません。過去も未来も!」


「そっか」


十維は安堵した。と同時に思った。


   今後幾度となくこうやって

   誠の周りの人に対して

   疑ってしまうんだろうな。


   気持ちを信じていても

   これは、なくならないんだろうな……



「さぁ着きましたよ!ここです。降りてください」


誠がつれてきたのは、ジムからすぐそばの場所だった。

工事中の大きな建物がある。


誠はその建物に入って行く。俺も後ろを歩く。


真っ暗な建物に入った瞬間照明がついた。



見えてきたのは、いくつものボックス席が並ぶ広く大きな飲食店だ。


「ここは?」


店内を見渡している間に誠がいない


「ハッピーバースデー トゥーユー

 ハッピーバースデー トゥーユー」


奥から誠がケーキをもって現れてきた。


「ハッピーバースデー ディア トーイ

 ハッピーバースデー トゥーユー」


「誠」


「十維、明日が誕生日だって忘れてたでしょ?

 さぁ、ローソクを消して」


息を吹きかけ火を消す。


「おめでとう!!」


吹き消すと同時に、クラッカーが店内そこら中から鳴り、多くの人が現れた。


「え?えー?」


ブンや、クラブシルキーの従業員たち。

ゴンちゃんなどのジムのメンバー。

若林社長や、康太さん。

詩織さんや真下たち法律事務所のメンバーまで来ている。


「みんなどうしたの?え?」


「十維、まだいるんだよ」


誠の視線は店の奥に向けられた。

十維もその方向を見る


奥から出てきたの、寧々、朝陽夫妻、それに十維の父と母が出てきた。


「お兄ちゃん、お誕生日おめでとう!」

「十維さん、お誕生日おめでとう」

「十維……」


「みんな、それに親父まで。どうして」


戸惑っている十維に母が話してきた


「十維さん、驚かせてごめんなさい。

 誠くんと話してて、合格発表の日が十維さんの誕生日前日だから、もういっそみんなで一緒にお祝いしない?って私から提案したの。

 それにここも紹介したかったしね」


「ここは?」


「十維、僕の念願のレストランだよ

 といってもシルキー同様、僕は経営だけであとはブンと蒲田にほぼ任せるけどね」


蒲田とは、シルキーで料理長をやっていた人物だ。


「全く、人づかいが荒すぎないか?

 俺も忙しいんだからな」


「え?誠の店?いつの間に」


「勉強を初めて十維のお父さんお母さんと3人でよくランチをしていたって話はしたよね?

 その時に、色んな話をしたんだ。

 ある日、将来の話になって、レストラン開業して昼間働き夜は十維との時間にしたかったって話したら、お父さんから


『何もレストランを諦めなくても良いんじゃないか?』


 って言ってくださって、ここの物件探しや内装の相談までのってくださってたんだ。

 お父さんは本当にご尽力くださった。

 ありがとうございます。」


「わしは別に……」


「照れちゃって。

 『誠くんは実にいい青年だ!

  勤勉だし、世の中もよくわかってる

  これなら十維と2人、

  うまくやっていけるんじゃないか?

  十維のこと任せてもいいんじゃないか?

  レストランも将来のためにはいいかもしれない

  よし、手伝ってやろう』

 って言って張り切って手伝ってたのよ。

 会社のことは朝陽さんに任せて、ここ数ヶ月はほぼこの店に入り浸ってたわね」


「余計なことは言わなくていい。

 まぁ、いい店ができたんじゃないか?

 そろそろ料理を食べよう」


「親父……」


「さ、十維座って。みなさんも!

 これからレストランに出す料理を是非とも食べて欲しいんだ。

 みなさんが当レストランの初めてのお客さんだからね

 料理をお願いします」


誠の掛け声で、奥から若い従業員たちが料理を各テーブルにいっぱい運んでくる。

十維の同じテーブルには、誠とブンだけでなく、十維の家族も皆着席した。


「家族みんなで食事なんて何年ぶりかしら?」


寧々が嬉しそうに言う


「家族に俺も入ってていいのか?」


「ふみやくん、十維と誠くんがこういう関係なのだから、君も我々の家族だよ」


「親父……」


十維は泣きそうになった。誠は十維の頭を撫で、頷く。


「さぁ、いただきましょう!早く食べないとせっかくの料理が冷めちゃうわ」



 みな、料理を食べながら色々な話をする。

 他愛もない話や、ちょっと重要なこと、冗談など。どれも話し上手なブンが中心になって話題をふりまいてくれる。本当に多くのことを話しながらみな笑顔で食事を楽しんでいる。


 十維はそんなみんなの笑顔を見てるだけで幸せな気分だった。



「しわあせ……

 誠、ありがとう。

 こんなにも家族みんなが楽しそうに食事をするなんて、生まれて初めてのことだよ。

 俺はお前と知り合えただけでも幸せと思ってたけど、お前はうちの家族みんなを幸せにしてくれたんだ。

 本当にありがとう」


「何言ってるんですか?

 それはお互い様でしょう?

 それに、まだまだこれからですよ。僕たちはまだまだ幸せになっていくんです。

 これからもずっとずっとね。」


誠は十維の手に手を重ねてきた。


   俺は本当に幸せだ

 


「ところで、この店は何て名前なんだ?いつオープンするんだ?」


「オープンは4月10日を予定しています。

 名前は、十維に決めて欲しくて。

 何か良いアイデアありませんか?」


「え?俺?センスないだろ。俺じゃ」


「まぁそう言わないで、何か言ってみて」


「んーーそうだなぁ……」


 十維は周囲を見渡す。

 来てくれているみんなが楽しそうに食べている。


   みんなが笑顔で楽しくなれる店……

   笑顔で楽しい食事の時間がもてる店……

   Happy meal time with a smile……



「うーん……

 『レストラン ハピー』

 クラブシルキーのレストラン版だから

 なんてダサいか?」


「レストランハピー……

 うん!いいね、それ!十維、最高だよ」


「えぇ?安易じゃないか?」


「いやいや、店名は短く覚えやすくがいいんだよ」


「何々?ここの店名?レストランハピー?

 いいじゃないか!明るくて色んな世代にも馴染めそうだ!」


親父まで賛成してきた。


「さぁ、店名もオープン日も決まったことだし、改めて乾杯しましょう」


「じゃ、乾杯の音頭は俺が!

 みんなの幸せと、誠くんの合格と、十維の誕生日と、レストランハピーの成功を祈願して!

 カンパーイ!」


朝陽の音頭で乾杯し、また料理に舌鼓を打つ。



「誠、一生、一緒にいような」

「はい。一生、一緒にいます」


「大学生になっても浮気したらダメだからな。

 あ、服のボタンはしっかり閉めていけ。ダサい格好で行けよ。

 色気禁止!コロンも禁止!人に触るの禁止!

 誰の1メートル以内にも入ったらダメだからな!」


「あはは。大丈夫ですよ。そんなに心配ですか?

 安心してください、僕は貴方以外興味ないですから。

 それよりも僕は、十維のほうが心配です」


「俺?なんで?

 こんなにもお前だけなのに?誰も俺にそんな気にならないよ」


「……わかってないならいいです。

 とにかく油断しないでください!

 飲みにいく時は僕も一緒ですからね!わかりました?」


「あぁ、わかったよ。」


変なやつだなーと、十維は思った。


『真下さんは貴方を狙ってますよ!』

と喉の奥まで言葉が出かかったが、声には出さなかった。



「しっかしお前は秘密が多いなー。俺に黙ってこんなに準備して。

 これからお前は何になりたいんだ?」


「サプライズして、十維を喜ばせたいだけですよ。

 僕は欲張りなんですよ。強欲なんです。

 だから欲しいと思ったものは何でも手に入れたいんです。

 あなたも、あなたの家族も。

 シルキーもレストランも。

 そして、あなたと一緒に働きたいという欲も。だから、弁護士になってみせますよ」


「欲かぁ……お前はスゲェよ」

 




 この先、きっとこの2人にはまだまだいくつもの試練があるでしょうが、今のこの幸せな気持ちを忘れずに、これからも生きていこうと思う十維なのでした。



とにもかくにも

ここにひとつ

またひとつ、しあわせな

Y(やおい)の花(FLOWER)が誕生しました。







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FLOWERs 〜危険な男と一途な男編〜 兼本 実弥 @miya_san

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