第41話 誠のヒミツ③

「僕は店の入り口まで来て入店を戸惑い、立ち止まってしまいました。


 だってG.C.Bは、普通にお酒を飲む店ではありませんから。

 十維はわかってて入店したんだろうか。もしそうなら、今僕がやろうとしていることは、野暮なことなんじゃないのかって……」


「え?普通の店じゃない?どうゆうこと?」


「あの店は、ハッテン場なんですよ」


「ハッテン…場?あそこが?」


俺は自分の記憶を辿る。酔っていたし記憶ももう曖昧だが、店内は確かに男性しかいなかった。


「入り口前で躊躇している僕に、後ろから追いかけてきたブンが言ったんです。

 『早く助けなきゃ!』

 って。

 僕は、そうだ!と思って扉を開けました。


 店に入ると、あなたはカウンターにぐでんぐでんに酔った状態でいました。

 隣の席には写真で見た怪しい男も。

 さらに反対側にも怪しい男が……

 あなたは両サイドから声をかけられていたんです。それを店のスタッフが止めに入ってくれてて。

 スタッフとその男たちで、いざこざになっていました。


 僕らはすぐに十維の元へ行きたかったのですが、僕たち兄弟の入店がわかった客たちが取り囲んできまして……

 『マックスにブンだわ!』

 『今夜の相手なら是非とも僕が!』

 『会いたかったです!』


 2人ともなかなか前に進めない状況になった。


 そうこうしてると、十維の左側の男性が十維の肩を抱き、立ち上がらせたんです。


 僕は限界になりその場から大声を上げました。


『ドケ!その人は俺のだ!さわんじゃねぇ!』


 突然の大声で、僕らを取り囲んだ客たちも少し離れ、その隙に僕らは怪しい男からあなたを奪還したんです。


『おい!彼は俺と一緒に行くって言ったんだぞ?

 勝手に連れてくなよ!』


 怪しい男も食い下がってきたが、


『ここは俺が話しつけとくから、Maxは早く先生と帰って』


 その場をブンに任せて俺は十維を連れて店から出た。

 

 店から出てすぐ十維のスマホから代行を呼んで2人で帰った。代行を呼ぶのに十維のスマホを使ったのは、自分で帰ったと思って欲しくて。決して僕が連れて帰ったと言うことは知られたくなかった。

 だって、僕が絡んだと知ったあなたが、今以上に僕のことを嫌いになって欲しくなかったんだ。

 


 代行の車の中でも十維はひたすら眠っていた。

 僕は十維を無事に守れた安堵感と、寝ている十維があまりにも可愛くて……そっとキスをした。

 そして寝ている十維に話しかけた。


『十維さん、十維さんは何を苦しんでるんですか?』


 返事はなかったけど、偶然にも十維は涙を流した。僕はその涙を拭い、抱きしめて再びキスをしました。

 十維は覚えてないでしょうけどね。



 その次の夜、滅多に連絡をしてこない若林から、連絡があった。

 

 『高柳十維が見合いをする。

  時間と場所は、ここだ

  康太がどうしても伝えろってうるさいから

  教えた。

  あとは自分で考えろ』


 ってね。

 これでやっとやけ酒の理由もわかりました。


 十維は、本当に僕のことを諦めて新たな出発に旅立とうとしている。

 そのための僕のことを忘れるためのヤケ酒だったんですよね。



 僕は、もうこれ以上ないかってくらい悩みました。


 十維を止めに行くか、諦めるかをギリギリまで悩んでいました。


 そして、見合い会場まで行きました。

 もし相手がいい人そうで、十維も喜んでいるようなら、その様子を見てきっぱりと十維のことは諦めようと心に決めてホテルに行ったんです。


 十維は相手と楽しそうに話しをしていた。

 僕は自分の愚かさに気付きました。


  十維を傷つけたからこうなった

  あの時受け入れなかったからこうなった

  自業自得だ!!



 わかっていても、目の前の光景を受け入れることができなかった。

 ショックと反省と同時に、怒りが込み上げてきた。



 十維が立ち上がりトイレへと向かった。


 僕は無意識に追いかけていた。


 手を洗う貴方を見て……我慢の限界点を超えた気がしました。

 貴方を強引に個室に連れて行き、貴方にキスをした。


   十維を誰にも奪われたくない!

   十維を手に入れたい!

   抱きたい!

   抱いてめちゃくちゃにしてやりたい!

   俺1人のものにしてやりたい!



 あの瞬間僕はそう思ってたんです。でもそれは僕の勝手な考え。けど、そんな身勝手な僕に十維が


『抱いて……誠……』


 って言った瞬間、我にかえりました。


 自分の愚かな行動が、どれだけあなたに悪いことをしたのかと……

 そして、どれほどあなたのことを愛しているのかを痛感しました。


 だから


『僕の家で待ってます……801号室で待ってます』


 そう伝えて帰ったんです。

 もう僕は十維の家柄や身分を考えて身を引くことはやめようと決心しました。

 十維にとってお見合いがどんなに大事なものかはわかってました。

 でも、でも僕だって十維が欲しいんだ。

 手に入れたいんだ。


 だから十維が来てくれることを願って家に帰って待ってたんです。

 これが本当に最後の最後の賭けでした。


 十維が来なければ二度と会わない

 十維の前から本当に消える覚悟でした。



 家で待ってる間は本当に苦しかった。一分一秒がとても長く感じた。


 だから家のチャイムが鳴ったときは本当に嬉しかった。


 どれだけどれだけ嬉しかったか。

 きっとこの嬉しさは、生涯忘れる事ができないものだと思いました。


 僕は、出来る限りのことをして十維を守ろう、幸せにしよう!と決意してたんです。


 だから、十維のお兄さんから大学へ行けと言われても、僕は全く嫌じゃなかった。悩むことなく即答で引き受けた。

 だって、勉強することは決して僕が出来ないことじゃないんだもの。出来ることだから引き受けたんだ。

勉強して大学に行くだけで、十維の家族が僕のことを認めてくれるというならば、お安い御用だよ。


 さぁ、これが今までの過去全部ですよ。


 どうです?僕の思いはわかってくれました?」


静かにずっと聞いていた十維


「あぁ、俺の知らないことだらけだったから、ようやくいろいろわかったよ。

 知らないとこだらけだ。


 あの、酔ってしまった日にどうやって帰ったか、俺わからなかったんだ。

 まさか誠が来てくれてたなんて……

 しかも誠から俺への初めてのキスが、帰りの車の中でだなんて知らなかった!

 あーもー!なんで覚えてないんだろ。

 残念。

 よし!もう秘密は無いな?俺に隠してることは何も無いな?

 無いなら質問したいのだが……」


「ヒミツ……ですか?

 ヒミツ……」


「何だ?まだあるのか?」


「アハハッ」


「『アハハッ』じゃねーよ!何だよ!何があるんだよ!まだ他に」


「過去は……無いんですけど。

 そうだ!

 そろそろ時間なんで行きましょうか!」


「行く?行くってどこに?」


「いいからいいから!行きましょう!」


「どこに連れて行く気だよ!オイ!

 話せば良いだろ?おいってば!」


誠は十維の手を取り外に出て行った。



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