第40話 誠のヒミツ②
「実は、十維が店に来てるのはわかってても、何を話せばいいのかわからなかったんです。
なんと声をかけたらいいのかって……
不思議ですよね、毎日多くの人と話してるのに。十維と挨拶以外は何を話せば良いのか本当にわからなかった。
思案してた矢先に、仕事でトラブルが起きたんです。
自分で時間をかけて頑張れば何とかならなくもないだろうけど、やっぱり法律的なことは専門家に任せたほうがいいと思って、国際派の弁護士を探すことにしました。
で、ジムのゴンちゃんに優秀な弁護士の紹介を依頼したんです。
そしたらゴンちゃんが
『それなら適任の知り合いがいるよ!僕から頼んであげる。
だけど、彼は僕にとって大切な知人だ。
だから絶対に手を出さないって約束できる?
Maxの店に出入りするような人ではないんだ』
そういう約束で紹介してもらうことになりました。
もし十維が来てくれるなら、十維の人となりを見てみようっておもってました。
僕は十維のことが本当に知りたかったんです。
案の定、ゴンちゃんは十維を紹介してくれました。これで十維と昼間にゆっくりと仲良くなれると思った。
でも……十維の家柄は、僕の想像を遥かに超えてた。
名家てもんじゃないじゃないか!
あの高柳一族の直系一族とは……。
ダメだ、ダメだダメだ!
そんな家の人が俺なんかと付き合ってはダメだ!
僕はあの3人での飲み会で、失恋をした気分だったんだよ。
十維との恋愛は絶望的
あってはならない2人
恋愛関係になれるわけがない2人
なんでこんなに残念なんだ?
俺は何を期待してた?
そうか、少しは想いがあったのか。
結ばれてはいけない相手なのだとわかると同時に、僕は十維への恋心に気づいたんですよ。
それなのに十維は飲んでる最中もずっと僕の胸を触ったり顔を触ったり。
僕がどんな気持ちなのかもしらないでさ。
『我慢してんだよ!』
て心の中で叫んでました。
十維は止まるどころか勢いをどんどん増してって
挙句の果てには、エレベーターの中でのキス。
思ったよ、もうこのままウチに連れて帰って抱き潰してしまおうか?って。
でも酔ってベタベタしてきているだけの十維だから、目が覚めたら落ち込むかもしれない。目が覚めて、嫌悪感を抱くかもしれない。
自分から誘っていることを忘れてたら?
なのに僕が我慢しないで、襲ってしまったら?
めちゃくちゃ考えたよ。
結果僕は必死で耐えることにしたんだ。
十維のために。
翌朝、僕に会いたくないかもしれないけど、気まずいまま弁護依頼もしたくなくて、車で送らせてもらいました。
実はあれ、十維から頼まれたって言いましたけど、嘘でした、ごめんなさい。僕が会いたくてあんな嘘をついちゃいました。
けど、嘘のおかげで翌日からあなたとは、事務所でも会えることになった。
接点が増えたようで正直嬉しかったです。
それから、初めて十維をシルキーのオーナー室へ招待したときの話ですけど、十維を悲しませてしまいましたね。
覚えてますか?」
「あぁ、あれだろ?
『先生、あなたは自分自身がどういう立場の方なのかは、もちろん分かってますよね?
そして、僕がどういう世界にいて、その世界での僕の立ち位置も分かってますよね?
いつも警察や公安に狙われてるんですよ。風営法に触れてないか?何かどこかで悪いことをしていないか?とね。常にチェックされている身なんです。
もちろん、僕は何も悪いことはしていない。
しかし、事実よりも噂ひとつで致命的になるのが、この世の常だ。
それはあなたの世界でも同じではないですか?
そんな僕と先生、我々はそういう関係にはなってはいけないと思いませんか?
信用第一の家系の先生とは、僕は弁護士と顧客以上は何もあってはならないと思います。
そしてそれは紹介してもらった、ジムのゴンとの硬い約束でもあります。
先生のために、僕は何もしません。
こうまでいっても理解してもらえないなら、先生との契約は破棄させていただきます。
どうか御理解を。』
ってやつだよな?
覚えてるよ。
オーナー室に招待されたことで、俺は期待してたんだ。だから余計に悲しかった」
「そうですよね、悲しませてしまった。
本当にごめんなさい。
……あれは、言いながら自分自身に言い聞かせてました。
十維のことを愛してはいけない
十維のために
好きならば相手のことを考えて
身を引くと言うことを、しないといけない
僕は本気で思ってたんです。
その後、十維は僕を避けるようになりましたね。
朝も会えないし、店にも来ない。
これで良いのだ!と思いつつ、それでも朝夜会えるかもしれないっと、どこかで僕は期待してました。
でもそんなことはなかった。
今までは、十維が合わせてくれてたから会えていたのであって、合わせてくれなくなると、僕たちは全く会わないんだよね。
当たり前になってたことがなくなった瞬間でした。
事務所の面談日も業務的なことだけで、目も合わせてくれなかった。
つらかったよ。
自分が蒔いたタネとわかっててもつらかった。
そして僕は、今まで以上に、十維に会いたくてたまらなかった。
そんな僕らの微妙な関係の時でも、十維さんはしっかりと約束は守ってくれたんですよね。
料理のアドバイザーが欲しいと言った一言をしっかりと覚えてて、康太さんという最適な人を紹介してくれた。
康太さんがシルキーに初めて来る日、十維もきてくれるかもしれない、と思ってちょっと心躍って待ってたんですよ。
やっと仕事モードではないあなたと会えるって。
でもいざあの場で会うと、またなんだか話しかけづらくて……。
まともに話せたのは最後の挨拶だけでしたよね。しかもあなたは、弁護の担当を変わったと言うし。
もう、接点はこれで何も無くなると思いました。
完全にフラれた気分だった。
それなのにあなたは!
夜ジムのゴンちゃんから、緊急連絡がきたんです。
『十維がヤケ酒を飲んで大変なことになってる』
と。もう訳がわかりませんでした。
十維が僕を避けたのに、なんでヤケ酒を?
もし僕のことで悲しんでいるなら、ここにくればいいのに。そんな悲しむくらいなら僕を無理矢理でも奪いにくれば良いのに!
って思ったんです。
ま、そう思う僕もあなたの元へ行く勇気がないから、来て欲しいと心の中で願ってたんですけどね。
そんな風にウダウダと考えていたら、ゴンちゃんから2度目の連絡がきたんです。
『どこかに飲みに行った様子、あれだと誰かにお持ち帰りされかねないよ!』
読んだ瞬間、僕は焦りました。
十維が、見ず知らずの誰かにお持ち帰りされて、ヤられるんじゃないかって思ったら、居ても立っても居られなかった。
だから、近隣のマスター達に捜索願いを出しました。
『この人が今どこの店にいるか、わかりませんか?』
十維の写真を添付してね。
それから10分もしないうちにG.C.Bのマスターから連絡がきたんです。
『探している人はこの人じゃないですか?
もしそうなら早々に店まで迎えをお願いします』
十維が呑んだくれている写真が付いてました。
そして、その横には怪しい人影も。
僕はみた瞬間、急いでG.C.Bに向かった。
けど、店の入り口まで来て入店を戸惑い、立ち止まってしまいました。」
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