第35話 朝陽の思い
朝早くに起き、ホテルを出て帰宅する。
俺は出勤の準備をして、家を出る。
そんな俺を誠は待っていた。見送る誠の目は、不安そうだ。
「大丈夫だよ。
あんなだけど、オレの家族なんだから。大丈夫。
お前は夜仕事だろ?少しでも早く寝てくれよ。朝までもたないぞ、じゃいってきます」
オレは車に乗り出勤した。
ミラー越しにもずっと車の行方を見送る誠の姿が見える。
「大丈夫だって。大丈夫、ここからは、俺の戦いだ」
「詩織さんおはようございます。報告は何かありますか?」
「主任おはようございます。特に休みの間に連絡はありませんでしたので、通常通りお願いします。」
拍子抜けするほど何も起きない……。
何も連絡なく月曜日は過ぎて、そのまま火曜日も水曜日も過ぎていった……。
「トーイ、家族からは何も?大丈夫?」
毎晩、誠の両親とは夕飯を一緒にとっている。必ずこの質問からされる。心配をかけてしまっている。
「何も言われないんだ。
自分から会いに行くべきかとも思うけど、ちょっと時間が必要かもしれないから、もう少し待ってみるよ。」
このまま、問題など起きないのかもしれない。
そう思えてきた矢先の木曜日、朝陽から電話がきた。
「もしもし……」
「十維、今日の午後の予定は会議だけだな?
そこは他の人に任せていいから、外で昼飯を一緒にしよう。寿司屋を予約した、五郎寿司だ。
俺は寄るとこがあるから、先に行っててくれ。
わかったな?12時半には行くから」
俺は昼から休みを取り、五郎寿司へと向かった。
五郎寿司は、我が家が昔から利用している高級寿司店だ。中へ入ると当たり前のように奥の座敷へ通される。
「十維様、本日のお料理はどのようにしましょう?」
「来るのは兄貴と僕だけだろうから、まかせます。」
「かしこまりました、本日のご予約は3名と伺っていますが?」
「3名?」
「はい」
3名ということはもう1人、誰かが来る。
親父か?
個室の扉が開いた。
「待たせたか?」
俺はゆっくり扉の方を見る。
朝陽が入ってくる
朝陽の後ろに誰かがいる
!!!!!
朝陽の後ろに誠がいた。
「え?なんで……?」
「俺が誘ったんだよ。
彼にも関係あることだから、一緒に聞いてもらおうと思ってね。
誠くん、食べれないもの、苦手なものはあるかい?」
「いえ、なんでも食べれます。」
「それじゃ、彼には十維と同じものを。わたしのはいつものでいいからお願いします」
「かしこまりました。それではごゆっくり」
仲居はさっていった。
俺の横に誠が座り、俺の向かいに朝陽が座った。
「なんでどうやって誠と連絡を?」
「彼や、お前の今後については後で話す。
まずは俺の話から聞いてくれないか」
朝陽は前のめりになり話し始めた。
「この前、十維が言った言葉の意味を、あれからみんなで考えたんだ。何度も話し合ったんだよ
本当に何度も何時間もね」
俺の言った言葉……
『生まれた時から影に隠したいであろう
あなたの息子はこんな風になりました。
益々影に追いやりたいですよね?
勘当するならそれで構いません。
もともと僕を奥へと追いやりたかったんでしょうから』
「すみません、この前は言い過ぎました」
俺は朝陽に頭を下げた。
「いや、いいんだよ、十維。おまえがそんな風に感じてたとは、俺をはじめ、みんな気付いてやれてなかった……すまなかった。
いや、少しはわかっていたんだが、それほどまでとは思ってなかったんだ。
そして、火曜日、誠くんと会って、
お前が俺のこと、家族のこと、名前のことをどう思っていたのかを聞いたんだ。」
「火曜日に?聞いてない!」
「あぁ、秘密にさせてもらったんだ。
火曜日夜、お前がクラブシルキーから帰るのを見て、俺は初めてクラブシルキーに入ったよ。
そこで誠くんと会って話を聞いたんだ。
お前が『十維』という名前にどれだけ縛られて生きてきたのか、どう思って生きてきたのかをね。
正直俺は驚いた。
まさかそんなに思ってたとはな。
だがな、俺は俺で、お前のことをずっと羨ましいと思って生きてきたんだよ。
物心ついたころからすでに俺は"12代目""12代目"と言われ、その態度、立ち振る舞いを決められた中でしか自由がなかった。
けどそれは仕方ないことだとも思ってきた。
だって俺は親父と約束したからな。
俺たちの母親の沙織さんが亡くなった葬式後にな」
母さんの葬式後?
朝陽は優しくあの晴れた日のことを語り始めた。
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