第32話  鉢合わせする危険な男

 翌週の日曜日がやってきた。

 誠の両親が帰国する日である。十維は誠、文と3人で空港まで迎えにきた。

 十維は落ち着かない。


「十維さん、どしたの?堂々としてていいよ。うちの両親は理解あるんだから」


文が教えてくれるが、一向に落ち着かない。

立ったり座ったりトイレに行ったりを繰り返していた。


「Hey!Max!Buun!」

大きな声で呼ばれた方を見るとそこには誠ほどの体格のある大きな、そしてかなりのイケメンダンディな男性と、小柄で細くてかわいらしい女性がいた。


 家族4人が再会を喜んでいる。その間僕は下がって見ていた。そして誠が振り返る


「彼が紹介したいと言っていた十維だよ」


心臓の音が聞こえるほど緊張していた。


「初めまして、高柳十維です」


誠の父は厳しい目で見てくる。背筋が凍る思いがした。


 誠父は突然俺を抱きしめてきた。ものすごい力で抱きしめてくる。


「会いたかったよー!トーイ! 」


俺だからいいがこんなに強かったら普通の人なら骨がいかれるのでは?くらいの力強さだった。


「今回の帰国は、トーイ、君に会いたくて帰ってきたんだ。日本にいる間にとってもとっても僕たちと仲良くなりましょう!

 いいですね?楽しみです!さぁ、行きましょう。Let's Go!」


 あまりの歓迎ぶりに拍子抜けをしていると、誠父はなんと、十維をお姫様抱っこしてきた。


「え、え、えー?」


「Hey,Dad!十維は僕のなのだから、僕が連れてくよ!パパといえども、トーイにそんなのはダメ!」


「えー?ダメ?んー

 こんなに可愛らしい彼女なら、僕も触りたいじゃないか!」


「えーーーー!!!」


「Hey,あなた、どういうことかしら!」


誠母が父をつねっている。


「Oh,ジョークだよジョーク!ヨーコさんがいるのにそんなこと思うわけないじゃないか!」


「どうだか……」


「トーイ先生、気をつけてね!ダディはバイセクシャルだから」


ブンが耳打ちしてきた


「え、えー?」


 家族と初対面で歓迎され幸せだが、あまりにもインパクト大な父に驚きの連続なのでした。




 俺たちは誠父の大好きだという店に向かう。


「あそこに行かないと僕は日本に来た思いがしないだ。

 ちゃんと予約出来てますか?」


 誠の両親にとって実に2年ぶりの日本だ。一体どんな店が好きなのか?と思い皆についていく。

 店に着いて驚いた。

 マルコだ!

 高柳家もずっと通ってきているこの店が、誠の父の好きな店だった。


「予約の土居様ですね、こちらへどうぞ」


案内されたのは一番奥から二番目の半個室だった。

高柳家はいつも一番奥の完全個室を利用する。


 十維はひっそりと土居家のメンバーの一番後ろを歩き、席に着いた。

 するとオーナーがやってきた。

 十維に話しかけようとしてきたので、目で合図をし、話しかけさせなかった。


 料理が来るまでの間、土居家の家族は皆とてもよく喋る。本当に仲が良いのだ。冗談も交えながら、言語は日本語と英語が混ざりまくって話している。


「トーイさーん!仕事はInternational lawyer (国際弁護士) ですね?とても素晴らしいですね!

 是非とも僕、パパの会社も面倒見てください!今日からあなたは僕たちの息子です!」


 なにもしてないが認めてもらえた。高柳の家では考えられないくらいの歓迎だ。

 食事会はとても楽しいものだった。誠の子供時代の話もたくさんしてくださり、家族との食事というものがこんなにも明るく楽しいとは、驚きだった。

 そして『自分は本当に幸せ者だ』と喜びをかみしめていた。



 その時である、奥の個室のドアが開いた

 中から数名の人が出てきた

 


 オレは、何となく見てはいけないと思い、視線を反らした。



「十維か?」


 嫌な予感というものは的中するものである


 立ち上がった。


 そこには父、母、兄、兄嫁がいた。


「あら十維さんじゃない、そちらはどなた?」


 母が聞いてきた。


「………。」


 何といえば良いのか、わからなかった。

 すると朝陽が機転をきかし


「そちらは確か、クラブシルキーの方ですよね?

 今うちの法律事務所に依頼をしてくれている方です」


 すると、誠も立ち上がり


「初めまして。クラブシルキーというクラブハウスを経営しています、土居誠といいます。よろしくお願いします。」


 父へ手を差し出した。


「クラブシルキー……?

 あぁ、あそこにある夜の店か。

 十維、いつからそんな低俗な店の依頼を?

 依頼は何だ?

 もしかして法に引っかかるような依頼じゃないだろうな?

 法律部門を少し甘やかしてしまっているようだ。これはお前の管理不行き届きじゃないのか?朝陽

 もしその店で事件など起きたらどうする?」


父は、誠が差し出した手には目もくれず、失礼な発言をしてきた。


「ちょっとあんたさ!」


ブンが立ち上がり意見するも、横にいた誠母に止められた


「ほらみろ、少し意見するだけで血の気の多い連中じゃないか」


  『低俗な店……』


 ムカついた。

 確かに、クラブハウスは夜営業するし、多くの人が偏見を持っていることもわかっている。

 だが、だが、自分の父親がそんな偏見を持っていることに腹が立った。


「クラブシルキーは違法性ゼロです。

 とてもクリーンな店です。

 若者の支持率も高く、女子大生1人で来ても安全な店ということでも若者から評価されています。

 とてもいい店です。営業成績も実に優秀だ。

 従業員もみな一生懸命真面目に働いてる店ですよ。

 あなたから、低俗な店呼ばわれされるような店ではない。」


「十維、やめておけ」

朝陽も止めに入る


「フンッ、何を言っておる。

 若者からの支持?営業成績がいい?それがどうした!

 そんなもんがあるからと言って、良い店とは限らんだろう。それにそのクラブが好評でもそんなものは関係ない。

 そう、我が高柳グループと関わるということがダメだと言っているんだ。

 我がグループが世の中から下に見られるではないか!

 わしはそれを言っているんだ

 わかったら今すぐ他の法律事務所を紹介して、高柳グループからは関係ないところに行ってもらいなさい。

 わかったか?十維」

 

「あなたって人は、知りもしないで!」


「知る必要などない!と言っているんだ。わからんのか?

 そんな奴らと関わってないで、早く嫁探しをしたらどうだ!」


俺の中でプツンと何かが切れる音がした。


「ついでなのでちゃんとここで紹介します!

 彼、土居誠が、あなたにさんざん紹介しろと言われていた僕の恋人です。僕の彼氏です。

 そう、あなたの息子はゲイなんです!

 彼を愛してるんです!

 だから女性を紹介されてもダメだった。

 これからもどんな人を紹介されても俺はムリです。

 俺は彼女も出来ないし、普通の結婚も出来ません。誠と結婚します。誠以外は考えられません!


 あなたは、俺のことを生まれた時から影に追いやりたい存在だったかもしれません、隠したかったのかもしれません。

 すみません、そんなあなたの息子は、こんな風に育ちました!

 どうです?益々影に追いやりたいですよね?勘当したいですよね?だったらそれで構いません。


 もともと僕を奥へ奥へと、影へ影へと追いやりたかったんでしょうから!


 幸い、誠の家族は僕を認めてくれました。歓迎してくれました。

 今日も『これからは自分達の息子だ』と言ってくださっています。


 あなたとはちがってね。


 わかりました?

 これがあなたの息子と、その彼氏とその家族です。お叱り、お話は後日聞きます。今日のところはどうぞお帰りください。

 我々はせっかくの家族団欒の時間なので邪魔しないでください」


 ずっとオレが言いたかったこと、子供の頃から言いたかったことを全て言ってしまった。


「なんだその言い方は!それに、何?ゲイ?ふざけるな!」


父は憤慨している


「十維さん、何も私たちはあなたのことを……」


 母が何かを言いたそうにいってきたが、兄が止めた。


「十維、今日はこのまま僕たちは帰るよ。また話そう」

兄が引っ張って父達を連れて帰って行った。



 誠家族は十維を心配し、みんなで背中をさすってくれる。


「すみません。せっかくの家族団欒が僕のせいで……すみません……」


「いいんだよ、気にしない気にしない。

 僕たちはトーイの味方だよ。

 ただ、僕たちのせいで君が責められるのは、申し訳ない。

 すまないね、トーイくん」


誠父の優しい言葉と、慰めるように身体をさすってくれる誠の優しさに包まれて涙が出そうになった十維なのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る