第28話 危険な男と意気地なしの男

 向かい合う誠の家から帰宅すると、寧々はもう起きていた。


「お兄ちゃん?なんで携帯の電源切ってたの?心配したんだよ。

 お父さんたちが、『何度電話しても出ない』ってそりゃもうカンカンだったよー。すぐに連絡してあげて。」


   ……ヤバい。

   分かっていたが、連絡しないとな。



 俺はシャワーを浴び、身体を清め、心を落ち着かせてからスマホの電源を入れる。大量の着信のお知らせが入る。

 ほとんどが兄か父からだった。

 俺は大きく息をし、父に電話をかけた……


「十維か?何かあったのか?」


父の第一声は俺を心配しての声だった。


 昨日、俺は見合いを途中退席し、誠の家ヘ向かった。見合いの結果も報告せず、携帯電話の電源も切っていた。そんなことをすれば、心配もかけるし、見合いの結果も気にしてるだろうことはわかっていた。なので父から罵声を浴びせられる覚悟は出来ていた。

 ところが父からの言葉は、怒りではなく心配しての、とても優しいものだった。



「連絡出来てなくて申し訳ありません」


「いいんだ、お前が無事なら。

 私らもお前の気持ちを考えられてなかったんだな。すまないな。

 お前も好きな人がいるなら、初めから言えばよかったのに。

 教えてくれてたら無理やり見合いなぞ、させなかったぞ。

 なんで教えなかったんだ?ん?

 ママとも話したんだけど、言えない相手なのか?

 言いにくいのか?

 そうかもしれんが、わしらは家族だ。

 ゆってみなさい。どこのどういう相手なんだ?ん?

 相手は既婚者か?

 どんな相手でもいい、お前の気持ちをとりあえずわしらに話してみないか?」


 父はとても優しい口調だった。

 俺の気持ちを聞こうとしてくれている。それは十分にわかった。


   このまま話しても

   俺のことを、誠のことを知っても

   本当に怒らないのだろうか……

   



 俺は、父との電話を終え、ぼーっと天井を見つめていた。


 どれくらい時間がたったのだろう、突然家のチャイムが鳴った。寧々が玄関に向かう。


「はい、あらMaxさん?」


!!!!

 寧々の声を聞き慌てて部屋を飛び出した。

 玄関に誠が立っていた。


「おはようございます、寧々さん。お兄さんを迎えにきました」 


「迎えに……兄を……?」


「誠………… 」


「すぐ戻ってくると言ってたのに帰ってこないから。

 来ちゃいました。十維?」


 誠の優しい表情をみて、優しい声を聞いて、俺は涙が溢れてきた。どんどんどんどん涙が出てきた。思わず抱きついた。


「え?お兄ちゃん?どしたの?」


「十維、どした?ん?何があった?」


誠は泣きじゃくる俺を優しく抱きしめた


俺は、誠にしがみつく様に抱きつき、泣いた

子供のようにわんわん泣いた

誠は何も聞かず、優しく頭を撫で続けてくれた





 俺と誠はリビングのソファに腰掛け、誠にもたれていた……

 寧々がハーブティーを運んでくる。


「お兄ちゃん、少しは落ち着いた?」


「あぁ。ありがとう。」


「えっと……その……2人は……その……」


寧々が座りながら聞きにくそうに言ってきた。


「お兄ちゃんね、昨日から誠と付き合うことにしたんだ。恋人同士になったんだ。俺たち」


誠の手をとり、恋人繋ぎをしてみせる。

 

「凄いよお兄ちゃん、恋を実らせたのね!おめでとう」


「凄くないよ……お兄ちゃん、ダメダメなんだ。

 寧々にはこうやってちゃんと普通に交際宣言できるのに……。

 さっきお父さんと電話で話してね……」


誠と寧々がお互い目を合わせ、十維に詰め寄った


「話したの?」

「話したんですか?」


「昨日、俺は誠に言ったんだ、『みんなの前で恋人だって堂々と伝えられる関係でありたい!』って、誰にも隠さないで堂々と恋人だって言うって。

 けど…………俺が言ったのに、俺は俺は!

 父親にさえ言えなかった。

 俺は意気地なしだ。誠、幻滅した?ごめん!」


また涙が頬をつたった。誠に謝った。


「よかったー…」

大きく息をしながら誠が言った。


「え?よかった?」


俺は誠に

『自分が言ったことなのにできない奴だ!』

と思われそうで怖かったのだ。


「僕たちはまだ、やっと付き合い始めたところでしょ。

 この段階でもし、ご家族に話して交際を反対されたら……。

 まだ僕ら2人の愛が深まる前だから、きっと壊されるんじゃないかって僕は思います。

 十維、お願いです。

 反対されるかもしれない相手に話す時は一緒にいましょう。一緒に話して、説得しましょう。ね?

 そのためにも、ちゃんと僕たちが自信を持って僕たちの愛を伝えられるように愛を深めましょう。

 絶対に壊されないくらい確固たる愛に育ててから、みんなに報告しましょう。

 もっともっと2人の時間を作ってからに。

 ね?

 じゃないと僕はまだ不安です。

 始まったばかりのこの愛を誰からも壊されたくないです」


「誠……」

俺たちはキスをした。


「コホン……」


寧々が咳払いを。それで俺たちは我に帰りキスを止めた。


「えっと、私の前でも少しは遠慮してくださらない?」


「ごめん、そうだよね。寧々の前でも行動は控えるよ。

 さ、じゃ今日はなにをしようか?」


「実は、美術展の招待が来てるので、十維さえよければ一緒に行きませんか?」


「美術展か、最近行ってなかったなー。いいね、行こう」


 交際初日、俺たちは美術展に行くことにした。

 初めてのデートに出かけたのだった。


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