第3話 僕も一緒に住んでいいですか?

 寧々と十維は10階にある若林京介の家の呼び鈴を鳴らす。中から元気な声が聞こえる。


「いらっしゃい!よく来てくださいました。

 寧々さん。お兄さんも。さぁ上がってください!

 今、息子もいますのでどうぞ!」


 和子が案内をしてくれる。2人は応接室に通された。

 さすがに10階全部を一つの家にしているだけある。非常に広い。リビングにはビリヤードにダーツ、バーなども完備されていた。


「素敵なおうちですね。」

 寧々が言うと和子はすかさず答える


「うちの京介さん、息子ね?

 家で仕事してて全く外に出ないものですから少しでも身体を動かしてもらおうと流行りなものを、家に入れるようにしてるんです。

 一階にジム機器を置いてるでしょ?あれも息子にやらそうと思って用意したの。でも一度もやってくれたことないんです。

 ダメだわー。運動全くしないのよ。

 だからこの家の中にも、ダーツくらいならやるかと思っておいてるのよ。これもまた一度も使われてないんだけどね」


 和子が得意そうに話す。


 奥の部屋から小柄な男性が出てきた。

 エプロンをしているその男性はこちらに向かって会釈をするとそそくさとどこかへいった。


「あの、こちらつまらないものですがどうぞ。」

 寧々から和子に羊羹を渡す。


「まぁあそこの羊羹ですね。ありがとうございます!大好きですのよ。康太さん!康太さん!これを」

 和子は羊羹をエプロンの男性に渡す。


「寧々さん大学は?」

 和子が質問する


「いま春休みで講義はないのですが、研究は今もあるので日々往復すると思います」


「そう、大変ね。でも実家より近くになるので家で過ごせる時間は作れそうかしら?」

「はい。ここからだと自転車でもすぐに着くのでありがたいです」


 和子はやけに嬉しそう…。


ガチャ…

 扉が開き、細身で背が高いモデルのような男性が入ってきた。


  なるほど。このかたが若林社長だな。

  噂通りのイケメンだ


「初めまして。高柳寧々と申します。」

「初めまして。若林京介です。」


 寧々も京介も笑顔で返す。

 と同時に小柄の男性も入って来てみんなにお茶を出してくれた。その男性はキッチンに帰ろうとしたのだが、すかさず京介が捕まえ腕をひっぱり京介の横に座らせた。

 みな一斉に驚く。慌てて和子が説明する


「あ、このかたはね、うちに住み込みで働いてもらってる家政夫で、康太さんと言ってとてもよく働いてくださるんです。なので私も京介も大好きで、家族同様に思ってるんですよ」


「家政夫さん?男性とは珍しいですね。

 僕は寧々の兄で十維(とうい)と申します。よろしくお願いします。」


「家政夫の康太です。よろしくお願いします。」


 康太は恥ずかしがりながらも、きちんとあいさつをした。その様子は男性ではなく女性と言われてもおかしくないほど、可愛らしかった。


「こうたさん、とっても可愛らしい方ですね。」


 寧々が康太を褒める。十維も大きくうなずく。

 寧々も十維も康太に注目してしまった。和子は話を切り替え、京介に興味を持ってもらおうと話しはじめる。


「お兄様も、とっても素敵な方ですね。

 ……

 ところで寧々さん、一人暮らしはさぞ不安でしょう。いつでもうちに来てくださればいいですからね。なんでも協力しますから」


「はい、何もかもが初めてで不安な気持ちもたくさんあります。ありがとうございます」


 黙って聞いていると思っていた十維は、意を決したように話し始める


「あの……今更なのですが、

 僕も妹の家に一緒に住んでもいいですか?」


和子は驚くが京介が口を開く


「契約上、全く問題ありません。同居人が増えても、ペットを飼われても、あの部屋は大丈夫です。問題はありませんので、お気になさらずどうぞ自由にお過ごし下さい」


 安堵する十維。

 十維の申し出に驚く和子だが、和子の携帯電話が鳴った。


「ちょっとだけ失礼しますね」


 和子が席を外す

 すると寧々は康太に普段の生活について聞き始めたが、十維にはもうその声は聞こえない。


  これで俺も寧々の家に住める。

  ということは、ということは!

  Maxさんに毎日会えると言うことか!

  Maxさん……

  Maxさん……

  あぁ… 考えるだけでドキドキする……

  今すぐ降りて、部屋をノックしたい……



「お兄ちゃん?聞いてる?」

「ん?ごめん、なんの話?」

「もういい……。そろそろ失礼しましょうか」

「あぁそうだな。どうもお邪魔しました。これから是非よろしくお願いします。」


 そして寧々と十維は10階をあとにし8階に戻るのでした。

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