もう心が折れそうです

【悲報】主人公が死神に〇されてから話が進まない


どうしてこうなったんだ。ただそれしか言葉が出ない。

簡潔に説明しよう。


この世界の主人公、寡嶋奏に重大な問題が発生した。


まずループを起こす条件として〈主人公の死亡〉というものがある。いわゆるゲームオーバーだ。

その為何か異常が起きた場合、非人道的な手段だが……彼に頼み込んで毎回自殺してもらっていた。


そしてそのデスリセットにより、悲劇が起きた。


何とこの度、彼のM気質が災いして死ぬ事に快感を覚えるようになってしまった……かもしれないのだ。

 

何でそんなことが分かるか?

それはこの前、奏が死んだ際の映像をまとめて確認していたところ。


『なんかこれ……笑ってないか……?』


ふと死ぬ直前の彼の顔を見ると満たされたというか、何というか恍惚とした表情をしていた。


死んですぐ復活させているからその直後の痛みも残り、常人ならば大抵精神に異常をきたすはず。それが起きていないか確認のために『待合室』と呼ぶ部屋に転移させている。


そんなまさかと思い判断のため会って一度話したが、ちょっと挙動不審なだけで特に異常は見られなかった。

そして今回は念には念を、ということで、もう一回その部屋に入ってみようかと思ったのだ。


まあ俺も疲れていたんだし勘違いだろう……そう思って何の警戒もせずに扉を開けた。開けてしまった。




そんな無警戒な俺の目と耳に飛び込んできたものは、全くもって想定していないものだった。




「ぅあっ…あひ、あ、ふああぁっ……」


「…………へ?」

 

頭が追い付かない。

目の前の人は自分の頭と腰を搔き抱き、びくびくと震えていた。



……どうして、目の前で血まみれの男の人が喘いでいるの?



俺は自分の頭が目の前の状況を明確に理解する前に、すぐに扉を閉めた。


 

何なのあいつ怖い。恐ろしいよ。あれはいけない、見ているだけで正気度がゴリゴリと音を立てて削れていくのがわかる。

某邪神いあいあさんと同じくらいにSUN値を直葬するものがそこにいた。



そういえば人間は死ぬ間際、脳内麻薬を出すとかなんとか聞いたことがある。まさかそのせいか……?


というか自分と同じ姿のヤツが快楽に悶える姿なんて、見ていられるわけがない。

考えても見ろ、度し難い痛みで気持ちよく喘いでるやつが自分とか。たとえ癖のプレイでも萎え萎えだ。しかも規制無しだ。


自分に対してこれほどの精神ダメージを叩き出すものはそうそうない。

閉まった扉を背に、体育座りで待機する。


 


……奏って二周目の俺、なんだよな。


一応同一人物ということになるのか?……ひょっとして、俺も繰り返していたらあんな風になっていた、ということなのか……?


うーん、この話は無かったことにしようか。すごいぞわっとした。きっとバグのせいだ、そうに違いない。




……さて。いい加減話を進めてもらいたいので交渉しに行きましょうか。

十分くらい経っただろうし、もう奏も落ち着いている頃だろう……。

 


再度ドアを開け、惨状を見て、後ろ手にドアを勢い良く閉める。

……。



まだ、終わってませんでした。

長くない?トリップってそんな続く?


閉まった戸の前にゆっくりとうずくまる。あーもういやだこの世界。

本当に俺は何も見ていない。


……一応替えの下着持ってってやるか。大丈夫、未開封の新品だ。

神(笑)からの親切心だ。ありがたく受け取れやこの馬鹿マゾ野郎。





◇◇◇◇◇



 


しばらく経って俺の精神もだいぶ回復したので、早速入ろうと思う。

深呼吸して心を落ち着け、扉を開ける。

 

奏は先程の事などまるで無かったかのように椅子に座っていた。


他人が見れば少し前までトリップしていたことなど悟らせない、見事なまでのポーカーフェイスである。ちょっと顔赤くてぷるぷるしてるが。



「あのー?」

「先程はお、お見苦、し……や、やっぱ無理だ……見ないでくれ……」



声かけて目線合わせたら顔を隠された。さっきまでのポーカーフェイスはどうした?


やはりトリップを見られたのを気にしているんだろう。目線あきらかに合ってたしこっちも二回見ちゃったもんね。ごめんね。


小声で見られた、とか繰り返しているから絶対図星だ。あぁ、これが女子なら良かったのにな……。

……いや、それもそれでアウトだな。本格的に十八禁だ。



「お、俺も耐えようとはしてたし?たまたま今回は抑えきれなかっただけで……」

「……前からこうなってたのかお前」



 彼の墓穴を掘るような発言に思わず呆れる。

本当に、何でこんなことになるまで俺は気付かず放置しておいてしまったのだ。

いやー、本当に申し訳ないなぁ。うん。


「……それよりみ、見てたならわかるだろうが」

「?」


「……下、どうにかしたい」



今にも泣きだしそうな瞳を揺らし、彼がぼそりと呟いた。

やっぱそうなりますよね、わかってましたとも。ほら泣かない泣かない。



「……うん、シャワーあるから浴びといで」

「ん……」



何か変な空気がちょっと耐えられなくなったので、ぐずりだした彼に場所を伝え、俺は一人で少しの間落ち着くことにした。


そういえば瞳孔が赤かったな。元々黒なのに何でだろう。

いろいろと調べることが多い。普段の仕事との両立はできるだろうか。……あれ、何するんだっけ。あ、交渉か。


あの様子見てると話す気が湧かないなぁ。また今度にしようかな……取りあえず今度からは会う時間ずらそう。


そんなことを考えながら、彼の帰りを待つのだった。

 


 


少しの会話が終わったその後の事。

彼は更なる快感を追い求めたのか、思いつく限りの自殺方法を試し始めた。この時点で訳が分からない。


海に飛び込んで溺れる、火で焼かれるとかはもう軽いもので、酷いときは敵にみじん切りにされてみたり、電車に飛び込んだりと変にバラエティーに富んでいる。


とにかくキリがなかった。毎度毎度グロテスクな死にざまを見せられる俺の気持ちにもなってほしい。

トリップを見られたから吹っ切れたのだろうか。


やたら死ぬなとは思っていたが。……今思えば、時間感覚が狂って何もしなかった俺もどうかと思う。



気付けば、俺がこの世界を管理し始めてから半年程経っていた。


……もっと早くどうにかできただろ俺の馬鹿‼

奏の死に癖に慣れちゃったのも悪いけどさぁ!!!




こうして俺が放置してしまった結果、常識はずれな何かができ上がってしまった。

俺のせいとはいえどうしてこうなるんだ。本当にもう嫌だこの世界。

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